第20話

何故かその返しに信じられないとでも言うかのように小さく目を見開く彼を見る。



「僕は…最初の、企業説明会の時にこの部署の採用方針を知って、それで、受かる筈がないと思いながら最終面接まで来て、その時に聞かされました。社長に」



「へぇー?」



採用方針?そんな大したものあったかなと思ったが突っ込むのも面倒で適当に流してしまった。目の前のパソコンを気にした数秒の間五十子くんは俯き口を噤んだが、切り替えたのか「すみません作業中に。ただその方はある意味本当に妖怪かもしれないですね」と。


はにかんだ。


「そのかた」


その方、なのか?あれは。という意味で私は今朝のあの、煙草を吸いながらほぼ悪魔剥き出しで慌てだした私を嘲笑っていた姿を思い出す。いらんことまで思い出しそうになってちょっともやっとした。



「はい、だってその方は【性——……」



彼は確かに何かを言い掛けた。



が、それを自分でも予期していなかったのか、慌てて口元を押さえ 謝った。何だか今日の五十子くんはいつもに増しておかしい。



「どうしたの」


流石に突っ込んだが彼は笑顔で首を横に振るだけ。


「前坂さん、気をつけた方が良いですよ」


「急に怖いな」


「前坂ぁー」


「わ」


後輩の意味深な言動に眉を顰めていたら、背後から三十路な百目鬼上司の低音が肩を叩いた。



「何ですか百目鬼さん聞きません」


「まだ何も言ってないでしょーが」


振り返った先には予想通り百目鬼さんの姿。彼は五十子くんと私を交互に見て一言「何、怖い話でもしてた?」と興味なさげに聞いた。興味なさげだったため私は答えなかったが代わりに五十子くん——も答えなかった。



「まーかわいくない上に大人しい後輩たち。前坂」


「嫌です!!!!!!!!」


「よーし一人元気なおともだち発見しました〜!今日帰る時声掛けろ!?掛けなかったら〜。掛けなかったらな〜。……」



「前坂さん、百目鬼さんは面倒くさくなったようですね」


「ね。何か怖いから帰る時声掛けるようにしますよ。だから早く、立ち去ってください」



百目鬼さんはその後も暫く『声を掛けなかったら』の先を考えていたが、私たち後輩は気にせず各業務に専念するため散り散りになった。



お陰で五十子くんの話も聞き損ねてしまった。

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