第5話

その男性が見ていた辺りを覗いてみるも特に変わった様子はなかった。至って普通に洋菓子が陳列されているだけだ。うん、洋菓子美味しいよね。クッキー、チョコ、スコーン。うんうん美味しいよね...



「!!?」



そう突如隣から感嘆符+感嘆符+疑問符の並びが飛んできたように映った。漫画の読み過ぎ?


兎に角そのレベルの気配で後退りした大人の方を見ないわけにはいかず。


否、それを反射的に目で追えない程、我が動体視力は衰えていなかったのだ。



お互い特に何を言うでもなくただかち合った視線。



まぁ…驚く程綺麗な御顔。


驚き返してしまった。



その人は2時間ドラマのサスペンスで死体を見つけてしまった時みたいな顔をして私を見ていたが......。



こんなこともあるかもしれない。


いや、ないよね。百目鬼さん。今の私そんなに酷かったですか? どうしてもっと強く諭してくれなかったです?



そんな余計なやり取りを頭の中に展開していた私だったが、唇を引き結んでいた男はあろうことか次の瞬間、咄嗟に引っ掴んだ目の前のチョコなパイを私の持っていた買い物カゴの中に見事な手捌きで投げ入れた。



「!?」



次に感嘆符と疑問符のペアを頭上に浮かべることになったのは私の方だった。



何!?


何で!?


誰!?


バスケットボール選手!?


ゴール!?


この全てが態度に表された。


唖然の手前、恐怖の感情以外なくなった私が投げ入れられたチョコなパイから視線を逸らせずにいると、今度はいきなり視界の端から紙幣が飛び込んで来た。



それがかの有名な諭吉先輩だと認識するまで、時間にして3、4秒かかったのは事実だ。




その間に、推測・バスケットボール選手はその場から見事に姿を消していた。

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