第34話
「ただいま――…」
とあるデザイナーズマンションの一室、首に巻いたマフラーを解きながら廊下を進む。
リビングに繋がるドアを開けると、静かな光に照らされるそこに、ソファに腰掛け本を読む健の横顔が見えた。
「真実」
開いていた本から顔を上げ、点いている灯と同じように静かな声で名前を呼ぶ。
健は本をテーブルに置いた後、掛けていた眼鏡も外して置いた。
「雪?」
「ん」
そう問われて頷き、今さっき雪を払ったばかりのコートを脱いでハンガーに掛ける。
「気付かなかった。また降り出したんだ」
「うん」
「こっち来て」
傍に来るよう呼ばれて、健が座るソファの前に立つ。
健はあたしの腕を自分の方へ引きながら「少し酔ってるだろ」と呟いた。
「…どうかな」
ぽつりと零すあたしがソファに片膝をついてもなお引かれる腕に「ちょ、」と抵抗すると、健は意地悪い笑みを浮かべる。
「膝に座って?」
「な、にばかなこと言って」
「何で。いいじゃん」
「やだ」
顔を背けて、ソファに横向きに腰掛ける健の膝前に無理矢理腰を下ろす。
健は、あたしの頬を掴んで自分の方へ向けさせた。
「俺の方見ないのはだめ」
あっさり彼の方を向かせられるあたしは、視線を揺らがせてテーブルに落とす。
「…また、この本読んでる」
――健が、高校の時に本性をカミングアウトした後でも本を読むことを止めないのは、本当に本を読むのが好きだから。
でも、新しい本を買っているところを見る方が少ない。
「うん?」
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