第85話

カサリと音を立てたそれが、低く腕を上げた梶くんに受け取られることによってもう一度音を立てる。



よかった。



よかったね。


チョコよりずっと簡単に渡すことができて。



明日には、チョコが甘いことも忘れてしまうくらいの記憶がきっと更新されるとしても、これでよかった。





「何これ」



「消毒液とガーゼと絆創膏と、あと湿布とか入って…」




笑顔で説明して、袋から手を離す。


けどビニール袋を見つめたままの彼の表情が重くて、言葉の語尾は消え入って、最後には笑ってしまいそうな「すみません」が冷たい空気へ溶けた。




彼が吐きだした息は果てのない闇夜に白く浮かぶ。




今、どうして冷たい空気よりはっきりと、この色が心に刺さったのだろう。







「要らねーんだけど」

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