第59話

結局、今、彼の記憶を失うことが何の『代償』になるのか。それは微睡む瞼が教えてくれた。




恐らく私は再び、この時代も後にする。




この時代の私もみたいと願った記憶の為に。その為の代償だった。





その前に、ひとつだけ。



気になったことを、再び会えなくなってしまうであろうこの時代の綺麗な涙で濡れた最愛のひとへ問うてみた。










「私なんかの、どこを……」










私が泣かないでと口にするのには少し時間は足りなかったけれど、彼は、私を映したその碧い碧い瞳を細めて上手に、やっぱり冗談をいうように、口にしてくれていた。





そして私はその声を最後に、黒い瞳を閉じる。


















「梨句が、沢山笑いたいっていうの、


ちゃんと果たしてくれていたからだよ…」

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