第49話

竹永と松方、桃理(とうり)というバイト仲間と一緒にうちに遊びに来た梨句。



その頃はまだ「岬さん」と呼んでいて、何も、何とも思っていなかった。ただの、竹永の友だち。



『ただの竹永の友だち』は、ギクシャクと両手足一緒に狭いヘヤへ足を踏み入れて、桃理の横で辺りを見渡して胸いっぱい息を吸い込んでいた。


そういう、不可解な行動をする子、くらいの印象。




かなり引いた目でそれを見てしまった時、目が合った。




世間に絶え間なく流れ、溢れそうになっている汚い事々の全てを、知らないのかもしれないと思うくらい純粋で、従順そうな肌が真っ赤に染め上げられていく。




ヘヤの一番奥にいた俺と、入口から前に進まなかった岬さん。端と端に位置したまま時間は経過し、一度そこを出て、戻ってきたときには松方と桃理がゲームで対戦し始めていて。




俺は奥に戻ることもなく彼女から少し離れたところに単に腰を下ろした。



位置的には、隣。





何度かその対戦しようとしているゲームをやったことのある桃理が、誰にというわけでなく、偶然指した画面。






彼女は、驚いたように。






身体を支えてついていた俺の腕をひいた。




そして問うた。









「マオウ様…………?」









「え」



驚き返して合わせた先の瞳はいつものように逸らされることなく、ただ一心に見上げてきた。




恐らく、もう一度聞き返したら彼女は我に返って小さく謝罪したかもしれない。



それをしなかったのはグウゼン、俺たちがヘヤの端にいたからだ。






僅かに“外”の世界から遮断された、そこにいたから。

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