第32話
不安を声に出そうと、唇を薄く開いた、その時。
「――――っ!」
突然、眩い光が頭の中を駆け巡った。
途端に視点が不安定になって泳ぐ中、頭の中で一定の速度を保って繰り返され始めたのは光の点滅だった。
襲った目の奥の痛みに、瞼を閉じることさえできなくなる。
追って、言葉ばかり聞いたことのある走馬灯のように、膨大な量の 映像 が一気に巻き戻され始めた。その中に、繰り返し映って見えたのは自分の姿。
恐怖にも似た感情で、真っ先に心が震えた。
……もしかして。
これ……“私”の、記憶…………?
見覚えがあるとは言えない。ただ、そこには、今の私に残っている高校二年の秋から先の自分の姿が投影されていて、育美やクラスの友人の姿も在った。
クリスマスパーティーをしている。お正月にはおばあちゃんからお年玉を貰って、初詣も。それだけじゃない、他愛ない日常の中に季節ごとの行事を過ごしていく自分の姿が在った。
バレンタインには浮かれて。
先輩の卒業式、球技大会、先生の顔も憶えている。修了式、春休み。育美のバイト先に遊びに行って、その先も、ずっと、ずっと。流れていく。
始業式も体育祭も夏休みも合唱祭も文化祭も、何もかも、当たり前のように取り戻していく記憶。
今のたった数分、“忘れて”いたとは思えない。くらい。
自分の高校の卒業式も、大学の入学式も、あっけなく。
空っぽの頭に取り戻されては記憶の棚に収納されていく過去らしきもの。いっぱい笑って、感動したり、時には怒ったり、ふざけあって毎日を過ごしていく別の世界に生きているような自分が、今の自分だったと実感する、おかしいと言い切れる現実が身に起こった。こんなことが、あるのかと思った。
現実では、彼が私の頬に触れて、額を寄せてくれていた。
傍にいることを教えるように。
“自分はここにいる”と。
ふるえていた指先に、あたたかい手のひらをかさねてくれていた。
しかし私は、ある重大なことに気が付く。
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