第29話
“彼”は私が耳を塞いだ時に掻き乱した、色素の薄い、長い髪を片側梳きながら背中に回した。
触れられる安心感を感じながらそれを視線で追うと、私の足元のベッド脇、床にはデジタル時計が転がっていた。
一瞬壊れているのかと思ったそれには、03:05と記されていて――。
私はその、脳内にかかった靄に差す光となるひとつの情報を受け入れて彼の方へと向き直った。
胡坐を掻く彼は深い青のタンクトップから覗く、私のそれとは違う腕からなる手を私の左手の上に重ねていた。
「りく」
優しい声が、私の名に沿う。
どこか記憶とは違う高さにある彼の瞳を見上げれば、彼は微笑って言うのだ。
「俺は誰?」
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