第17話
「梶、くん……」
名を、正確には姓を呼んだ。
そしてその後付いた疑問符。
場所は、梶くんの家の前。
私は、或る11月の31日、梶くんに告白しようとして此処に来た。
朝から、ううん、昨日の夜からずっと震えていた指先は未だ震えを止めることはなくて、冷たい早朝の空気の中、居ても立っても居られず此処まで足を運んできてしまった。
梶くんが、朝、走り込みをしているのは知っていて、ううん、そんなことでもない――気になるのは。
その走り込みから帰って来て家に入るところを丁度みて、声が出なくて呼び止められなくて、ああ、と思って、そうしたら。
梶くんが、玄関から顔を出して、言った。
「何で、12月と11月の狭間に来た?」
「……」
そう、だ。
『11月の31日』なんて、存在しない。
夢?
けど、どうして梶くんがそれを?まるで現実みたいに。
「……あ、の」
「何。聞こえない」
入れっていうみたいに。
私は震える足を前に出して、ぎこちなく彼の家の玄関に踏み入った。
後ろで音もなくドアが閉まる。薄い影に覆われる。
梶くんのお家は、何処かで嗅いだ記憶のある『匂い』がした。
「あの」
手を、握り締めているのかそうでないのかも定かでないほど感覚がない。けど、喉の奥から心臓を叩くような急いた声が、出よう、出ようとしている。
3秒でも間を開けたら、あの霧のような冷たい早朝に放り出されてしまうような気がして。
「か、じくんは……付き合っているひとは、イますか」
背筋を這うような寒気と、周囲の状況、環境とは裏腹に、お腹の奥の奥の方から胸、首元の辺りまで、前面は燃えるように熱を持っていた。
自分が、何を言っているのかもわからない。
「――――いや」
これだけすきなんだ。知らないわけじゃない。
「私、と、付き――――っ」
グイ、と腕を引かれた。
靴を脱ぎ捨てて上がる梶くんに引かれて、よろめく身体、靴を脱がなきゃと変に冷静に考える脳。
段差に足首をぶつけたが、痛さを感じるどころじゃなかった。
梶くんはすぐ、二階への階段を上り、上りながら喋った。
「『付き合う』?」
「え」
ちがう、そうじゃない。
そうじゃない、ちがう。
心が啼く。
叫ぶ。
この人は、誰?
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