サルヴァ・ダルマ・アートマン 世界はみえない「かたち」で出来ている
・・・・・・・・・・・今のは、夢?
その日も僕は、
城一杯に隙間なく詰め込まれたケシ粒を一粒一粒取り出すような目で、
「
頼んでた事全然やってないじゃないか!」
「いえ、その、実は」
「いつも言い訳ばっかりじゃないか!」
はぁ~。 どうして僕がこんなことまでやらなきゃいけないのかなぁ~。
いっそのこと
『消えていなくなっちゃえばいいのに……』
僕の手はそのとき、ワラ人形と
僕はある日、本屋で奇妙な本を見つけた。
表紙には
『世界中の誰も知らない
宇宙の素敵な秘密をあなたにだけ教えます』
という大きな文字と、星空の写真があった。
中身を見てみると、科学や哲学や神話など、様々な分野の知識が混ざり合っていた。
天文学者という職業柄、
元々その分野に興味があった僕は、つい興味本位でその本を買ってしまった。
それがすべての始まりだった。
その夜、僕はその本の興味深い内容に惹かれて一晩中読みふけった。
翌朝、気がつくと僕はその本を一日で読破していたらしい。
本の最後のページには、『宇宙クラブ』という不思議な団体の連絡先が書いてあった。
連絡先の電話番号、メールアドレス、ウェブサイトのURLがあった。
仕事の出社前であまり時間が無いにも関わらず、僕は好奇心に負けて、そのウェブサイトを少し開いてみることにした。
そこには、『宇宙クラブ』という団体の紹介や活動内容や参加方法などが書いてあるようだった。
その日の夜、 深夜のようにひっそりと静まり返った
僕が書類を整理をしていた時のことだった。
「ツンツン」
何かが、僕の背中をツツいている。
「誰?」
僕はビクッとした後咄嗟に後ろを振り返った。
振り返るとそこには……、
まるでおとぎの国からきた迷子の妖精のような
可憐で不思議なオーラをまとった女の子がいた。
その髪は長くツヤやかで、まるで水彩絵の具で描いたような透き通った水色をしていた。
そして、その妖艶な栗色の瞳はさっきからずっとこちらをみつめている。
「きみ……名前は?」
「
「きみは、え~と確か実家のお隣の女の子だよね?
黒髪だったし、今と雰囲気全然違うから一瞬わからなかったよ」
「実は……、私お兄さんに渡したいものがあるんです」
彼女はもじもじと恥ずかしそうに指遊びしながらも僕に何かをくれようとする。
ラブレターかな?
それとも、バレンタインのチョコかな?
後者は時期的に違うか。
僕が自分のご都合主義な精神世界で有頂天になり勝手に妄想を膨らませている間に彼女は僕に差し出してきた。
「これ……」
「あ、ありがとう。
名刺のようだね、なになに?
"宇宙クラブ"?」
昨日、僕が買った本に書かれていたものとの同じだ。
「愛理栖ちゃん、これは一体どういう……」
「ご、ごめんない」
愛理栖は僕に名刺を渡すやいなや、飼い猫から逃げるネズミのようにこの場を去ろうとしていた。
「ねえ、ちょっと待って!
君は本当にあの愛理栖ちゃんなの?」
「信じて! あなたが消えちゃうその前に……」
その言葉を最後に愛理栖の姿は見えなくなった。
さっきは僕に何を言おうとしてたんだろう?
それに、愛理栖ちゃんの性格ってあんなだったかな?
他にも髪型や身長とかいろいろ僕の記憶と合致しない不可解な点がある……。
名刺の裏には地図と時間、そして"誰にもいわないで"と書かれていた。
僕は喉に刺さった小骨のように愛理栖のことがずっとひっかかっていたので、後日僕と同じように昨夜遅くまでラボに残っていた先輩に聞いてみた。
「不思議な格好をした女の子だって?
誰も来てないぞ! 夢でもみたか?」
「だって、現に来たんですよ!」
僕は証拠として愛理栖にもらった名刺を先輩に見せようとしたが、愛理栖からの注意書きを思い出しで思いとどまった。
そして話題を変えた。
「ところで先輩? 今日は朝から鬼山さんを見ませんね?」
「なんだって?
おい五色。 お前本当に頭大丈夫か?
鬼山なんて人はこの研究所にいないだろ」
僕は、二言は許さんと言わんばかりの先輩の気迫に、つい
終業のチャイムを聞くやいなや、僕はもらった名刺をポケットから出すと、食いつくように見つめていた。
『信じて、あなたが消えちゃうその前に……』
この時の僕は、愛理栖が去り際に言っていた"消える"という言葉が全く他人事とは思えなかった。
『ブルブルブルブル!』
突然、僕のスマホのアラームが鳴った。
今日は、病気の母さんのお見舞いに行く約束をスケジュールに入れてあったからだった。
「あれ?
おっかしいな〜。
絶対に消したりとかはしていないはずなのに……」
僕は見落としが無いか念の為にと思い、
自分のスマホのアドレス帳を何度も何度も入念に見返す。
しかし、どうやっても母の名前をみつけられないのだ。
すごく嫌な予感がした……。
僕は、ワラにでもすがるような気持ちで、母の病院に電話をかけた。
「もしもし、五色ですが。203号の母に今から行くと伝えてもらえませんか?」
僕は電話先の声を聞き、
喉の奥に指を突っ込まれたような衝撃を受けた。
そして同時に、空気の抜けたゴム人形のように倒れ込んだ。
「もしもし、五色さん? 大丈夫ですか? もしもし……」
床からの声は容赦なく僕に現実を浴びせ続けた。
この日、僕は神様なんて絶対信じないと決めた。
※今回のあらすじ※
天文学者の青年五色ひかるは、幼馴染と同じ名前で水色の髪の不思議な女の子・愛理栖から名刺をもらう。去り際の愛理栖の意味深な言葉が暗示するかの様に、ひかるの身の回りでは母や上司が存在ごと消えていくという不思議な現象が起こる。愛理栖はひかるに何かを伝えようとしているのか、その真意はまだ不明だ。
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