第5話 

アイリーン・キャロルという十四歳の少女は、蝶よ花よと溢れんばかりの愛と金を惜しむことなく与えて女の子を育てるとどんな破滅的結果を貰らすのかを象徴する存在であると言っていい。特に歳の離れた長男の溺愛振りは凄まじかった。

なまじ愛らしい外見がそれを助長したのかもしれない。


欲しいものは指を差せば与えられる環境ですくすく育ったアイリーンは、大抵の場合が同じ結果をもたらすように、小さな台風のような少女になる。


詰まるところ彼女は、

人を振り回すことに慣れ

人を傷つけることに慣れ

なにより人に愛されることに慣れた。


天上天下唯我独尊。

道行くものよ頭を垂れよ。

我を誰と心得る。

我が名はアイリーンキャロルぞと言わんばかりの振る舞いは、殆ど誰からも咎められることは無かった。

寧ろ他人を蔑ろにする振る舞いをもって、「流石はキャロル家のお嬢様だ」と諦観と羨望の混じった視線を向けられるばかりである。

まともに育つ筈が無い。

兄に対する態度もそうだ。そもそも年齢が上だと言うだけで何故私より偉いと言えるのか全く理解できない少女だ。

溺愛してくれている長男への当たりは一番きつい。愛されることになれた少女は、その愛の圧に辟易し、長男と目が合うだけで舌打ちをするほどになっていた。


――と客観視してみるが、これが私の昨日までの態度である。

うん。酷い。素で悪女だもん。

前世でやった恋愛シミュレーションゲームで高慢で高飛車な悪役令嬢がヒロインに意地悪する姿を見て「どんな教育を受けたらこんな性格の悪い女が出来上がるのかしら」と思っていたが、やっと理解した。


きっと彼女もアイリーンのように、飽食気味の愛と金で育てられたのだろう。

今までの帽弱無人の振る舞いは転生した私にとっては黒歴史みたいなものだ。


まさか転生後に外付けの黒歴史を与えられるとはね。


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