第11話

「一揆は失敗して、仲間はほぼ死んでしまった。生き残った同士が僕たちを必死に逃がしてくれたんだ。君は逃亡中に転んで頭を強く打ちつけ失神。そんな君を引きずりながら、命からがら此処の空き家へ逃げ込んだんだ」


 思い出した? そう問われ、全く記憶にないがゆっくりと頷く。

 ────どんなシチュエーションだよ、一体……。

 俺は自分の夢に悪態を吐いた。もっと幸せなもんを見てくれよ、と頭を小突いてみる。ルイは俺を気にしていないのか、ヨイショと体を起こした。「どこへ行くんだ?」。雨の中、出て行こうとする彼に問う。


「何か食べるものがないか、探してくるよ────」


 瞬間、彼に影がかかった。ルイが振り向くまもなく、誰かに腕を掴まれる。背中に手を回され拘束されたルイが、鋭い悲鳴をあげた。家の中に、誰かが入ってきた。大柄な体をした男は、きちんとした身なりをしていて、老人がよく見ている時代劇に出てくる役者のような格好をしていた。その腰には刀が刺さっていて、俺は体を強張らせた。

 ルイはそのまま地面に叩きつけられた。背中に覆い被さっている男がじろりとこちらを睨みつける。


「ひっ、ぅ、に、逃げて、けいとく……!」

「おい、喋るな」


 察するに入ってきた二人は追っ手だろう。俺は思わず舌打ちをする。


「こんなところにいたのか。探したぞ」


 ルイを拘束していない男が彼の髪を強引に掴み、引き上げる。苦痛に顔を歪めるルイの顎へ手を伸ばした。じっとりと撫で上げ、ニタリと笑う。


「お前、近くで見ると意外と美しいじゃないか」

「くッ……」


 もしかして……。俺は目の前で繰り広げられる怪しい光景に、身が凍った。もしかして、これは……成人向け漫画で見たことがある流れだ。捕まったルイはあの大柄な男二人に衣類を剥がされ、抵抗できないまま無理やり────。

 「やめろ、何をするんだ!」。鋭い悲鳴をあげるルイの胸元にするりと手が伸びる。「ぐッ、うぅ……」。ルイを黙らせるため、さらに髪を掴む力に手がこもった。眉を歪め、涙目の彼を愉快そうに笑いながら男がルイの胸の突起をさすった。「あっ、あっ……」。額に汗を滲ませたルイが下半身に響くような上擦った声を漏らす。嬌声に恥を覚えたのか、ルイが悔しそうに唇を噛み締めた。「いい声で鳴くじゃないか。お仲間が見ている前で、恥ずかしくないのか?」。髪を掴んでいた男が肩を揺らし笑う。ハッと我に返ったルイがかぶりを振った。「いやだっ……見ないでっ……あぁッ!」。もう一度、カサついた太い指先が、色の薄い突起を撫でる。その度にルイの体が跳ねた。「恥ずかしがるなよ。今から、お前はもっと酷いことをこいつの前でされるんだ。覚悟を決めろ」。いやらしい表情を浮かべた男が、二人がかりでルイへ手を伸ばす。「やめ、やめて! いや゛、だぁ!」。ルイの悲痛な音が、部屋に響き────。


「うわぁ!」


 俺の狂ったような声に三人がこちらを見た。数回瞬きを繰り返す。視界には、服を乱され涙目で男から受ける暴力に耐えるルイが……いるはずもなく、先ほどまでと同じ光景が広がっていた。ルイは髪を掴まれたまま固まっていて、大男が驚いた表情で俺を凝視している。


「やめろ! 陵辱モノは趣味じゃない! 可哀想なのは抜けない!」

「な、何を言っているんだ、お前は……」


 男の一人が呆れたように呟いた。「愛がないのはダメだ! いや、愛があってもお前らには抱かせないからな!」。必死の形相で怒鳴る俺を見兼ねたのか、男が腰にある鞘から刀を抜く。


「うるさい連中だ。もういい。まずはこいつから殺す」


 キラリと輝く刃に、心臓が跳ねる。ルイはもう覚悟を決めているのか、目を瞑っていた。

 ────させるか!

 刃が振り下ろされる瞬間、俺はルイに飛びかかった。同時に、激しい痛みと熱が背中に走る。「ケイトくん!」。ルイの声が遠のく。俺は瞼を閉じ、掠れゆく意識の中、ほんのちょっと陵辱を受けるルイを想像して興奮した自分を恥じた。



 どうやら、俺が見る夢はルイが必ず死に直面するらしい。シチュエーションや時代、関係性は様々だ。まるで引き伸ばし漫画のようにズルズルと日々が続くかと思えば、打ち切り漫画かと突っ込んでしまいそうなほどすぐ殺される時もある。

 予想がつかない展開もあるが大体はルイが死亡しそうになり、それを俺が食い止めて別の世界へ移動するのがこの夢のルールらしい。

 そうやって、この歪な夢に順応していった。

 そして、俺が次に辿り着いたのは────。

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