第6話
デキド商会の厩舎の掃除を続けていると、「食事ですよ」と俺らに声がかかる。
デキド商会で働くソフィアという名の女性からだ。
昼は商会で夜は娼館で働いているらしい。
美人である。
ソフィアが持って来た食事は茹でた芋を潰して豆のカス?おから?みたいな物で包んで油で揚げた物、コロッケみたいな物と街の屋台で見かける肉の串焼きと水袋に入れて持って来た、いつもの薄いスープだ。
商会の皆んなも奴隷の皆んなと仲良く食べる。
フンッとワイバーンの鼻水混じり鼻息がかかってもへちゃらさ。お肉だもん!
食事をしていると商会の職員のローデァという発音のしにくい名前の男が急いでいる感じでやって来る。
「タダヒト!」
俺を呼んでいる、でも食事中なので無視する。
「タダヒト、奴隷商館の方で急な仕事だ、予定より早く奴隷達が届いたんだ。怪我人が多くてな、ソルベ爺さんと商館の方に行ってくれ」
「知らんがな」
「コラ!貴様!」
「今、食べとる!お肉、食べとる!」
ソフィアがニコニコ顔で「タダヒトの分はちゃんと置いときますかね」と言う。
「ほら!行くぞ」
ローデァに引きずる様に連れて行かれる。
奴隷商館の前に複数の馬車が止まっている。
馬車から奴隷達が降ろされている。
「来た奴隷達は広間の方へ連れて行ってくれ」
奴隷商館の前に新たな馬車が来る。
高級そうな馬車だ。
ソルベ爺の馬車だ。
俺はその馬車に駆け寄りソルベ爺を待つ。
馬車から長い仙人の様な白い髭を伸ばした頭はツルツルの眼鏡をかけた杖をついたお爺ちゃんが出てくる。
いつもソルベお爺ちゃんはニコニコ顔だ。
「お〜タダヒト、わしの葡萄酒をしらんかの?」
「知りません」
「そうか、そうか、それは残念じゃの」
ソルベ爺、うちの商会のボスであり、この街の自治を任されているデキドすら頭が上がらない男。
でも、ちょっと呆けてきている。
それでも最高クラスの回復術師。
「じゃあソルベお爺ちゃん、こっち来て」
「あいよ、で、どこに行くんかの?」
「こっち、こっち」
ソルベ爺の裾を摘んで奴隷商館の広間に連れて行く。
そこには三十人ぐらいの奴隷がいた。
子供は十人ぐらいか。
大人の奴隷は片目がなかったり片腕や片足ないなど奴隷としても商品価値があるとは思えない状態の人達、子供の奴隷も咳き込んだりしている子もいる。
「ソルベお爺ちゃん、皆んなを見てみて」
「うん!あっ!タダヒトよ!葡萄酒はどこにやったかの?」
「わかりません」
「そうか、そうか、それはしょうがないの」
カランと杖を手放し両手を奴隷達の方に向け短い詠唱を唱える。
ニコニコ顔から真剣な顔になっている。
その時、広間全体に眩し過ぎる光が灯る。
不思議と嫌な感じのしない光だ。
光が収まると小さな歓声の様な声がする。
奴隷達の傷などが全く無くなり無かったはずの腕や足、目などがある。
本来あった筈の物が当たり前の様にある。
ソルベの完全回復魔法の、力である。
俺は急いで杖を拾いふらついてるソルベ爺の元へ駆け寄る。
「ではタダヒト、ソルベ様を馬車まで送って下さい」
「わかりました、ソルベお爺ちゃん行きましょう」
「もう良いのか?葡萄酒が部屋から消えたんじゃ」
「全く分かりません」
馬車にソルベが乗り込み「タダヒト、ゴーレムはどれくらい作れる様になった?」
「まだ小さな数個程です、難しいですね」
「続けとれば、幾らで作れる様になる、頑張るんじゃぞ」
「はい、ありがとうございます」
「うん、良い子じゃ、わしは若い頃ストーンゴーレムの下敷きになった事があってな、死ぬかと思ったわい、そのゴーレムの顔がな、デキドにそっくりなんじゃ、カーカッカッカ」
これは俺は一緒に笑ってはいけないやつ。
「タダヒト、これ砂糖菓子、あげる、デキドには内緒だぞ」
「ありがとうお爺ちゃん」
「子供は遠慮なんかせんで良い、じゃあまたな達者でな」
ソルベお爺ちゃん俺はぜんぜん遠慮なんかして無いよ。
心の中でそう言いながら馬車を見送った。
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