私達三人の戦い
第九話 嫌われてる!?
ファイト―ンが始まって、一日経った。
あくびを噛み殺し、私は教室へ入る。突然のことを理解できずに、一晩ずっと考えていたら全然眠れなかったんだ。邪楽っていつ出現するんだろう? とか、色々考えちゃった。誰にも言うな、とアルトにきつーく言われたからお母さんにも相談できない。
おばあちゃんのこと、思いだすと今でも辛くなる。でも、それよりもおばあちゃんからもらったブレスレットのことが気になって仕方がない。
「あっ」
私は重たい瞼をグイッと上げた。アルトだ……! 同じクラスだった!? そう言えば睨んでいた男の子はアルトだった。
忘れてたごめんね、アルト。でも、これからクラスの人に認められるよ! 私の仲間になったんだからね!
「おはよう~」
「………………………………」
へ!? アルトがオオカミのように私を睨んだ。
え、ええええ!? 仲間にそんな顔する!? 私達はファイト―ンの仲間だよね? 嘘でしょ―――!?
私、嫌われている!? 嫌われることした覚えないんだけどな……。心がシュボシュボ縮むのを感じた。
しかも、歩翔君はすぐに教室を出て行く。
歩翔君の背中は落ち込んでいるようにも見えた。
「おはよう、ワオンちゃん」
「ナギ――!」
アルトと入れ替えるように、ナギがやって来る。
「どうしたん?」
話しかけられた直後、私はナギにあれこれと説明した。
〇┃⌒〇┃⌒
「きりぃ~つ。れ――い」
待ちに待った吹奏楽部、二回目! う―――楽しみすぎる!
もちろん姫香さんは部活に来ている。
やっぱり邪楽のせいだったんだ。姫香さんは昨日のことを全く覚えてないみたいな動きをしていて、普通に部活で副部長として場を仕切っている。私に対しても昨日のことは喋らずに、でもいつも通り喋ってくれるんだ。
そして! 何とアルトも吹奏楽部なんだ!
すごく空気が薄くて気づかなかったよ…と言ったら怒られそうだから心に止めておこう。うん、私、頭良い!
「私達がコンクールで演奏する曲は『星条旗よ永遠なれ』です。コンクールで金賞を取るために頑張りましょう」
吹奏楽部顧問の宇神先生がにこやかに喋る。合奏は全然したことが無いから、すっごく楽しみ! 演奏会ではいつも
「では今から席順を決めます。自分の演奏する楽器が言われたら来てください」
そうそう。吹奏楽部は、並び順も大事らしい。音の響き方………とかに影響があるんだって。合奏はソロとは全然違う。
と思っていると、どんどんと楽器が呼ばれていく。
トランペットが呼ばれたので、宇神先生のもとへ行った。
「符川さんはここです。ここは櫻庭さん……」
宇神先生が席を指差す。姫香さんが隣だ……!
「姫香さん、席が近くですねっ。よろしくお願いします!」
「頑張りましょうね」
姫香さんはニコッと笑ってくれた。ふふふ、楽しくなりそう!
私は思わずほおを緩めた。
でも………昨日のことは全く喋らない。
「あの…よろしくね」
「うん?」
姫香さんの反対側から声をかけられる。
振り向くと、前髪を整えた優しそうな男の子がいた。
「よろしくね! 私、符川和音ですっ。ワオンって読んでね」
「僕は
「俺様のこと言った!? 俺様は
遠くから奏太君が声を上げる。肌が茶色に焦げていて、運動が得意そうだ。
奏真君と奏太君、あんまり似てない……。『海二つ』じゃないっ!
…………うん? 海二つだった? 太平洋と日本海? エーゲ海もあったよね? 海は二つじゃない? あれれ!?
でも、名前は似すぎていて覚えるのが大変だぁ………。中学生になると知らない人が増えるから、覚えないと。真が兄、太が弟だよねっ。真は大人しくて、太は元気…あぁぁ分かりずらい!
「トロンボーンなんて演奏できるんだ。大変そう…」
「そう?意外に簡単だよ」
「メヌエットとか、優雅な感じでも弾けるんだぜ! ちなみにモーツァルトが好きだぜ」
奏太君に尋ねられて、すぐに答える。
その時にある目線が向けられていたのは気が付かなかった…。
〇┃⌒〇┃⌒
部活が終わった。
合奏ってこんなに楽しいんだ! ナギとアルトの三人で演奏はしたことがあるけど、二十人ぐらいの大人数でやるのは、また違うっ。
「ワオンちゃんっ。帰ろ~」
「ナギ! ラジャー!」
私は警察の真似をした後、すぐにトランペットをケースに片づける。
トランペットはもちろん、それ以外の楽器も傷を一つ付けるだけで音が変わることがあるんだ。ごくたまに、だけど。
「ワオン、ナギ」
「ひょいっ!? あ――アルトかぁ…怖かった………」
「ど、どうしたの?」
いきなりアルトに声をかけられて、私は教室に響く大きな声を出しちゃった。
アルトは目から『うるさい』と訴えて来る。
「伝えておきたいことがある。ファイト―ンは、三人で演奏しないと意味が無い」
三人で演奏しないと…意味が無い?
邪楽を倒せないってことなのかなぁ…それは重要かも。
「それを覚えておけ」
「えっ!? もう行くの?」
アルトは、それだけ言って背を向けた。
三人で協力して行かなきゃいけないんだから、一緒に帰ろうよ。そう言おうとした時、アルトのポケットから紙が落ちた。
いや、紙じゃない…写真。
小学一年生ぐらいのアルトと、お父さんが並んで笑っている。
今の狼みたいなアルトからは想像できない笑顔。まるでお面をかぶっているみたい。
「っ………!」
アルトはすぐさま写真を拾い上げて、去って行った。
それが、これからのファイト―ンの運命を左右する出来事なんて私は思いもしなかった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます