第六話 戦いが開幕

 どうしよう……!ブレスレットが色違いなんて、どうでもよかった―――!

 幽霊が、私を冷たい怖い目で見る。そして、


「ガオ―――――ッ」


 と鬼のように鳴き、走ってきた。

 ええ、の、の呪われちゃう! どうしよう、どうしよう! 姫香さんみたいに性格が変わっちゃうかもしれないの!?

 もう幽霊が私の右手をつかもうとしていた。もう一秒せずに触られる。目をつぶったけど。


――レレソ―――――ッポムッ


 というきれいな音がする。その音が消えた後、私の体に衝撃の稲妻が走った。手が振れた感触がしない。え……触られていない…………!?

 そろそろと目を開けると、目の前に等身大の水色の八分音符が立っていた。

 私の真ん前に、存在できるはずのない大きさのものがある、その事実が信じられない。現実では無いような出来事に、私は目を瞬いた。


「君達……見つけた」


 声のした方向を向くと、サラサラの髪の毛の男の子が立っていた。

 身長から見て、同級生ぐらい。あの人、誰? あ、さっき私達のこと睨んでいてた怖い男の子だ!


「アル君…………………………」


 ナギの呟きが私の耳に入って来た。この人と知り合いらしい。アル君ということは、『あるく』や『歩男あるお』という名前なのかな? 結構変わった名前だね。


「ゔおおおおおお――――――――」


 血走った眼で幽霊が駆けてくる。

 そして、アル君(?)に近づいて行く。ひょえ―――――! 少し離れていても怖い姿。でもアル君は一切動かない。すごいな…………。


――ドミ―――ッ


 音がアル君の近くからした。その直後。


――ポンッ


 という音と一緒にアル君の指から水色の音符が出て来た。

 指から、音符!? 一瞬、私の目が変わっちゃったんだ…幻覚。まるで夢の中にでもいるみたい。

 小さい指から、等身大の音符が出ることなんて、あるわけがない…。

 でも、今、目の前で起きている。全く信じられない……。


「ナギとそこの女子! つけているブレスレットの、色が違う部分を押してくれ!」


 私とナギを指差しながら、アル君が叫んだ。

 ナギは名前知ってるのに、私は『そこの女子』って…失礼すぎる!

 少しは私のことを噂で聞いたことあるでしょ! トランペットが上手、とか、吹奏楽部の期待の星、とか! もぉ―――っ。


「ワオンちゃん、怒らない」

「は―――い」


 ナギのやさしさスマイルで、怒りが私の心から消えた。

 ブレスレットの色が違う部分と言ってたよね……? 一つだけ色が違う、白色のビーズのところ? 私の頭には理解させるのに二日かかる。でも体が勝手に動いて、押してしまった。するとシュンッと音をたてて、丸い楽器が出て来た。


「タンバリン!?」

「トライアングル……?」


 えええええええ――――――!? 何このブレスレット!

 こんな大きさのものが出てくる!?

 私はタンバリン、ナギはトライアングル。瞬きすら出来ないよ!


「ガオ―――」

邪楽じゃがくが襲ってきたら、終わりだ!その楽器を鳴らしてくれ!」


 鳴らす……!


――タンタンタン、ポンッ

――チーーンッポンッ


 たちまち私のタンバリンから網のようなものが出て来て幽霊を捕まえる。

 ナギのトライアングルからは六角形の箱が出てきて、私達を覆っていた。

 ブレスレット、一体何!? おばあちゃんからもらったこのブレスレット、不思議な力でもあるの!? 何だかちょっとだけ古そうで、受け継がれた感じ!


「ハァ…ハ………ハァッ」


 すごく顔を赤くしながら、アル君が近づいてくる。温泉につかってのぼせた猿みたい。あ、でも雰囲気は猿とは真反対で怖い。


「今から状況を短く話す。この女は音楽から生まれた『邪楽じゃがく』というこの世に存在してはいけない化け物だ。音楽をこの世から消し去ろうとして動いているんだ。それを退治するため、この邪楽が生まれた曲を考えてほしい」


 え!? 何ですか、それ?

 ジャガイモの生まれた産地を教えて? この幽霊白髪少女はジャガイモ好き? 北海道出身の人なのかな!?

 ジャガイモの生まれた産地、なんて分かるわけが無い。というかジャガイモはどこにあるの? 私の思考を読んだのか、あきれ顔でアル君が怒鳴る。


「『邪楽』はある音楽から生まれる! その音楽を考えてほしい、と言ったんだ! 」


 ふう――ん。じゃなくて! どういうこと? この幽霊が、音楽から生まれた? 頭がクラクラする!


「見た目で音楽の題名を考える。泣き声からも分かる。これが出来るのは、俺達だけだ!」


 よ、良く分からない! 選ばれし者とか、アル君どうしたの? うん、あ―――え――………。思考が停止しそう。

 でも、この幽霊白髪少女とアル君の恐怖から逃れるためにも、とにかく幽霊白髪少女どの音楽から生まれたかを考えなきゃ!


「ガオ――――」


 少し離れた場所から幽霊が叫ぶ。白いブラウスに鬼のパンツ。上半身は白くてきれいな肌なのに、下半身は茶色に焦げた肌だ。 幽霊白髪少女は見た目から人間じゃない。異世界からバビュ―ンと飛んで来たみたい。

 う――ん、鬼のパンツをはいてるよね…。


 「あ! 鬼のパンツ、とかは?」


 ほら、あるでしょ? 幼稚園でよく歌う曲! 『鬼のパンツは良いパンツ強いぞー強いぞー』。


「履こう、学校、鬼の授業~! 算数授業、鬼の授業~」

「単純すぎる。白いブラウスなんだ。あと、全く歌詞が違う!」

「まぁまぁ、今ワオンちゃんが歌ったのはきっと『ワオンちゃんの心の歌』だったんだよっ。でも、アル君の言う通り…鬼のパンツに白いブラウス……。天使と鬼に関係するのかな」


 う―――ん。自分で天使と鬼が関係すると言っておきながら、思いつかない。

 私は脳内の音楽をガサゴソ探る。『赤鬼と青鬼のタンゴ』?

 でも、天使要素が無い。でも、邪楽は心浮かれて踊り出してはいないもんね。

 うん? あれれ? 考えていると、突然…邪楽が声を張り上げた。


「ガオ――――! ウオ―――ッ」

「うわぁぁぁぁぁぁ!」


 私は邪楽にビックリして、後ろへ倒れ込む。すると、鞄から全てのものが出てしまった! タイミングが悪い。


――メキメキメキッ


 私のタンバリンが生み出した網が細くなって、今にも破れそう!

 あ――、何で! もうすぐで邪楽に襲われちゃうのぉ……!? でも、邪楽の音楽を当てれば良いんだよねっ!?

 考えながら、筆箱を拾ったその時。


「あっ!」


 ナギが『MY music ファイル』を手に取って叫んだ。え、どういうこと? 私には全く分からなかったんだ。

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