第四話 ゆ、ゆ、ゆ、幽霊!?

 犯人探しの方法は……。ゆずちゃんが作ってくれた『MY music ファイル』に似た『NISE music ファイル』をナギの席に置いて、犯人が来るのを待つ、と言うもの。


「さすがに作戦、変えない?」

「うん……」 


 五日経っても犯人は来ない。毎日来ない。こ・な・い!

 来るのはナギのことが大好きな鳥さんばっかり。


「あと、ナギさんがいるから『バード様!』って来ないのでは?」

「あ……………………」


 ということで。私と梛は廊下で怪しい人物がいないか確認することになった。いそいそと廊下へ行く。壁にもたれかかって、周囲を見渡した。


「ナギ、ありがとう! 私の楽譜探し手伝ってくれて」

「ううん、そんなことないよ。ワオンちゃんの大切なものだもん!それに、なぎも琴さんの曲ですっごく心が救われたことがある。何回も」


 梛が振り返らずに言う。心配になって顔を覗き込むと、梛の眼が一点をみつめていた。それは掲示板に貼ってあるポスター。


「ワオンちゃん………入部届き出した?」

「入部届け………?」

「うんっ、吹奏楽部の!」


 吹奏楽部…!?

「ああああ!」

「入部届けって期限いつまで!?」

「き、今日……」


  梛の答を最後まで聞かずに教室へ猪突猛進!引き出しから入部届けを取り出した。良かった、ぐしゃぐしゃじゃない!


「ごめん、入部届け出してくる! ごめん!」

「了解です」

「ワオンちゃん…走ったら先生に怒られて、入部届けどころじゃなくなるよ」


 梛の注意にお礼を言いながら、歩いている風に走れるギリギリのラインをせめて飛び出した。その時の私は「まるで相撲取りのようだった」と、あとでさっちゃんに言われた。



 〇┃⌒〇┃⌒



「良かった~~~~このままだったら、帰宅部だった~~~~~」


 ナギがゆっくり歩く。

 ふと前をみると、吹奏楽部副部長の姫香さん! 最近会ったら、よく話をしている。駆けだそうと一歩を踏み出した時、姫香さんの隣にいる人に気が付いた。あ…この人、授業中に廊下を歩いていた白髪少女だ! 白いふわふわしたブラウスに……鬼のパンツ!? 何そのコーデ!? 独特な人なのかも、これは喋りたい!


「姫香先輩っ」

「ワオンちゃん、とナギさん」


  遠くから声をかけ、すぐさま近づく。


「こんにちは」

「こんにちは。ナギさん上品だね。きれいな動作」

「…………っ…。ありがとうございます」


 梛が急に苦しそうな表情をする。どうしたんだろう?


「……どうしたんですか、黙らないでください先輩。あと、お隣の方も」

「お隣の方?」 


 ナギが話をそらす。

 お、よく白髪少女のことを喋ってくれた! さっすが~!


「お知り合いですか?」と私も続く。


 白髪少女ってずっと呼ぶのもあんまり良くない。名前だけでも知りたい! ついでに仲良くもなりたい!心を弾ませて、姫香さんの答えを待つ。


「隣の方なんていないじゃない。ナギさんとワオンちゃんと私だけ。ナギさんも面白いわね」

「えっ!?」


 私は口から驚きの声をこぼした。明らかに白髪少女いるよ? しっかりした人だよ? 姫香先輩の言葉を聞いても、白髪少女は表情を変えない。背中に寒気が走る。横をみるとナギも表情を固まらせていた。


「す、すみません!予定思いだしたので、戻ります!」

「な、なな、なぎも急がないと……ごめんなさいっ」


 苦し紛れの言い訳をして、その場から逃げ出した。

 できるだけ早く遠くに逃げようと決意して、三秒後。その願いが壊れた。


 「ま、ハアハア、待って……よ……」


 後ろからナギの声。振り返ると、ナギはまだ20メートル先の角を曲がったばかりだった。

 そうでした。梛は、とっても運動音痴なんでした。五十メートル走は十一秒、シャトルランは二十回で脱落。

 誰もが認める美少女、兼運動音痴。

 ナギの元にかけより、私はそろりと角から姫香さんの方を見る。

 すると白髪少女が姫香さんの頭に手を置いて、何やら言っていた。


「ワオンちゃん…ハア……足…」


 ナギの言葉に、全身に汗がにじみ出た。

 嫌な予感しか、しない! そう思いながらも白髪少女の足を見る。やっぱり!

 白髪少女の足が浮いていた。


「「ゆゆゆ、幽霊!?」」


 まさか、姫香さんのことを呪っているの!?

 シンクロして、皆に見られた。そのせいで、幽霊がこっちに向かって走ってきている!


「「ギャァ―――――――!」」


 私は階段を駆け上る。足が遅いナギを気遣う余裕なんてない!

 怖い!嫌だ、ここで呪われるなんて!


「符川―――」


 後ろから声がする。声の主は数学の先生だった。


「階段を駆け上がらない! 走らない!」

「ごめんなさい!」


 ナギが数秒遅れて、やってくる。梛は運動音痴すぎて、走ってると思われてない!? そんなことってある!? …いや、ある。

 数学の先生と喋っている場合じゃない、と思ったけれど白髪少女は追いかけて来なかった。

 結局昼休みの終わりまで怒られ、昼休みは無くなった。


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