とある公爵令嬢の恋の行方
ハムえっぐ
とある公爵令嬢の恋の行方
これは遥か昔の出来事。
もう覚えている人間などいない出来事。
***
「ごめん、付き合えない」
そう言われて、私は頭の中が真っ白になった。
「なんで……ですか?私のことを好きと言っておられたと、聞いておりましたのに」
私がそう言うと、彼、この国の第一王子は、悲しげな顔をする。
「ごめんね。別に好きな人ができて、ついさっき付き合い始めたばかりなんだ」
私は……放心してしまう。
「……そろそろ行かなくっちゃ。じゃあね、ベルガモット公爵家令嬢のエレオノーラ嬢」
そう言って去っていく彼を見ながら、私は思う。
なぜ……なぜこんなことになったのだ?と。
私はベルガモット公爵家の次女であり、この国の第一王子の婚約者になるに相応しい、格式の高い家柄の生まれ。
16の年齢となり、王立学校に入学して、ひと月。
王子様は美男子で成績優秀。透き通る金髪と碧眼も魅力的。
性格も温和で気遣いがあり、誰からも慕われる存在であり、私もすぐに好きになった。
けれど、いつも多くの女性に囲まれる彼の周囲に、私の入る隙はなかった。
引っ込み思案な私の性格も災いした。
でもそれは言い訳。
きっと私はこう思っていたのだろう。
「公爵令嬢の私です。アプローチしなくても、いつか彼は私のところに来てくれる」
王子様は私を選んでくれる。陛下と両親がなんとかしてくれる、と。
でも違うのだ。
私がアプローチをしなかったから、彼は別の女性のアプローチに応え、私ではなく別の女性を選んだ。
このまま私が彼を待っていても、王子はきっと私を見ない。
私は彼の一番になれなかった。
ずっと、選ばれてもらおうと、必死に勉学に励んでいたのに。
自信のあった容姿にも、磨きをかけていたのに。
金髪のウエーブヘアも、どんな女性よりも似合ってる自負があったのに。
化粧やドレスで、自分が美しく見えるように努力もしたのに……
***
昨日の夜の出来事。
王子様が、私を好きという噂が耳に入ってきた。
私は心臓が止まるかと思った。
私は王子様と一度も会話していないし、目があった記憶すらなかったから。
なのに、そんな噂が流れるなんて……
「エレオノーラ様、こうしてはおられません!王子様に告白して、婚約者になってください!」
そう、私の専属侍女のメリッサが言った。
彼女は、私が王子様を好きなことを知っていた。
だから、こうして勧めてくれたのだ。
私は昔から臆病者だった。人に嫌われるのが怖くて、いつも周囲の顔色を伺ってしまう。
そんな自分が嫌だった。
もっと自分に自信を持ちたい!そう思った私は、学校で勉学に励み、王子様にふさわしい女性になろうと努力したけれど……
「王子様が、エレオノーラ様を好きと仰られているのです。
……ですが王子様はお忙しい御方なのです。
しかも、アプローチしてこないエレオノーラ様に好かれてないかも、と考えておられるのも想像できます。
ですので、エレオノーラ様から告白するのが効果的なのです。
安心してくださいませエレオノーラ様、成功率は100%です。エレオノーラ様ほど美しい令嬢はおりません!」
メリッサは目を輝かせ、自信満々にそう言った。
昔から、彼女には励まされてばかりだ。
引っ込み思案で臆病な私に、いつも寄り添ってくれたのだ。
彼女の言うことは間違ってないかもしれない……私はそう思った。
私がアプローチをしなかったから、王子様が私が嫌っていると思われてる……
そう勘違いされるのも嫌だった。
「そう……ですわね。メリッサ、手紙をしたためますので渡してきてくださいまし」
私はすぐに手紙を書くと、メリッサにそれを渡した。
彼女はそれを王子様に届け、校舎裏の人気のない場所で明日会おう、との手紙の返事が王子様からもらえた。
告白は成功したのだ!と私は喜んだ。
今まで努力をしてよかった!と思った。
……でも、結果は振られた。
他の女性と付き合いだしたから、と。
私は動きだすのが遅かったのだ。もう遅い。もう、何もかもが遅い……
「エレオノーラ様……」
部屋に戻り、私の表情から察したのか、メリッサは心配そうな顔で言う。
「なんでもないわ。メリッサ、勉学に今まで以上に励みますので、教材を持ってきてください」
私がそう言うと、メリッサは何かを言いたげにしていたけれど……口を閉じた。
勉学しながらも考えてしまう。
王子様とお付き合いすることになった、女のことを。
「メリッサ、王子様のお付き合いされてる方を、少し調べてくださるかしら?」
無意識に、口から漏れた。
「……お任せください、エレオノーラ様」
あ、ちょっと……そう止めようと言葉を発しようとしたけど、口にはしなかった。
パタリと閉まる扉を見て、私は思う。
……もう、どうでもいい……と。
***
王子様の相手はすぐに判明した。
別にメリッサに調べてもらわなくても、翌日に教室に行けば、瞬時に悟れることだった。
王子様の相手は、男爵令嬢だった。
ほぼ平民と変わらない身分。
いつも王子様の周りにいた女性たちがいなくなって、彼女だけが王子様の隣にいた。
『彼女の名前は、カトリーヌ・シャーリー。赤毛が特徴なだけの、特に特徴のない女の子でした』
メリッサは彼女のことをそう評した。
私もそう思った。でも王子様は彼女を好きになったというのだから、何かあるのだろう、とも……
その日から、私は勉強に集中できなかった。
今まで以上に勉学に励んでも、王子様のことが頭から消えなかったからだ。
そして王子様とカトリーヌが仲良くしているところを見てしまうと、胸が締め付けられる思いになった。
苦しい……辛い……悲しい……
そんな思いが私を襲う。
そしてそんな日が続いたある日、女神様がお膳立てしてくれたのだろうか?
私はカトリーヌと二人っきりになる機会を得たのだった。
その日は王立学校の校外学習。
要はピクニックだ。
誰とも会話する気分になれなかった私は、森の奥のほうへと一人で足を進めていた。
すると森の中なのに、そこにはカトリーヌがいた。
彼女は私に気づくと、すぐに笑顔で挨拶してきた。
私は少し戸惑ったけれど……無視するわけにもいかなかったので、軽く会釈した。
そしてそのまま通り過ぎようとしたら……彼女が私に声をかけてきたのだ。
彼女の話はこうだ。
王子様が最近元気がないので、心配でたまらない。何か悩みがあるなら相談してほしいのに、彼はそれを打ち明けてくれないから悲しい……とのことだった。
そんな王子を励ますために、この森のどこかにあるという、願いの叶う美しい泉に行ってみたい。
そしてそこで、彼の悩みを解決したい……と。
私は彼女の話を聞いて、なんてお人よしなのだろうと思った。
でも同時に、その優しさが羨ましいとも感じ、その存在が憎くてたまらないとも感じた。
「エレオノーラ様!こっちです!」
「あ、ちょっと……」
彼女が私の腕を引っ張って、泉へと案内する。
この行動力が彼女の特徴で魅力なのだろう。
ふと、そう思った。
私は抵抗せずについていった。
もうどうでもいい……王子様の悩みなんて私には関係ないし、それにカトリーヌがいれば彼は幸せなのだから。
やがて泉についた。
確かに美しい泉だ。
願いが叶うというなら、私も何かお願いしたいものだ……
そんな私に構わずに、彼女は泉に手を入れている。
すると、泉が光りだした。
これは一体?そう思った時、彼女が言った。
「泉の女神様!どうか教えてくださいませ!王子様は何に悩んでおられるのでしょうか?
解決策も教えてくださいませ!」
張りのある声で、心から心配そうに叫ぶ彼女を見て……私はとても惨めな気分になった。
彼女は、他人のことを想い、考える余裕があるのだ。
嫉妬するのさえバカらしくなるほどに、自分とは違う存在なのだと感じられた。
『王子の悩み、ベルガモット公爵家に恨みを買っていないかという事。
……解決策、エレオノーラ公爵令嬢が死ぬ事』
……え?
泉から聞こえてきたのは、不気味な老婆の声。
老婆は、王子の悩みを解決できる方法があると言っていた。
そして……それは王子に恨みを持つ私の死を、と……
カトリーヌが驚いた顔をして、私を見ている。
けれど、私は泉の女神が言った言葉を理解するので精一杯だった。
私が死ねばいい?私が死ぬ事で王子様を救うことができる? そんな……まさか!?
「そうですよね。王子様の悩みは私なんかじゃ解決できない問題でしたね。
……エレオノーラ様、帰りましょう」
カトリーヌの言葉で我に返る。
そうだ、私も帰ろう……そう思って泉に背を向けようとした時だ。
背中に、何かがぶつかった。
「ごめんなさい、エレオノーラ公爵令嬢様。本当に、ごめんなさい」
カトリーヌの声。
……え?なに?力が入ら……ない。
「ごきげんよう、エレオノーラ公爵令嬢様。……この森は誰も入ってきませんよ?
あはは、勉強ばかりされてて知らなかったのですね。
ここは、邪悪な者がいると噂されてる有名な森なのですよ?
発見される可能性はありませんので、ここで朽ちてくださいね」
倒れ込んだ私の瞳に、カトリーヌの笑顔が映る。
「私ですか?私はここに来るの二度目なんですの。
……前回は王子様と、どうやったら恋人になれるか相談しましたわ。
ではごきげんよう、エレオノーラ様♪」
倒れてる私を残して、スキップして歩きだすカトリーヌ。
……待って……私を置いてかないで! そう叫ぼうとしたけれど……声が出ない。
私の倒れている場所が、赤い液体で染まっていく。
血だ……私、血を流してるんだ。
私は理解した。
カトリーヌは私を刺したのだと。
彼女は最初から、私に死んでほしかったのだと……
悔しい、苦しい、痛い……どうして私がこんな目に……
そして私の視界から、彼女の姿が消えた瞬間だった。
『願いは、あるか?』
泉の女神の、老婆の声。
「……死に……たく……ない。彼女にも……彼女を選んだ……王子も……許したくない」
必死に振り絞って出した声。
『よかろう。ならば力を授けよう』
私の身体が光った。
……動く。動かせる。痛みもない。
「泉さん!泉のおばあさま!泉の女神様!
……ありがとうございます。
……この御恩は必ず返します」
それだけ言い残して、私は森を出ていった。
森を出ると、メリッサに教師にクラスメイト、王子やカトリーヌも、行方不明になった私を探していた。
「エレオノーラ様!」
抱きついてきたメリッサの頭を撫でてゆく。
「ご心配おかけしました。森の中でうたた寝してしまったようです」
そう私が口にすると、みんながホッとしていた。
……二人以外は。
「王子様、カトリーヌ様、お顔の色が優れませんわ。
どうかお休みになってください」
私がそう言うと、二人は動揺しつつも、周りに合わせて私の心配を口にする。
それを見て悟る。
……ああ、王子様は、カトリーヌが私を始末したのを耳にしてたんだ、と。
なら、遠慮する必要はない。
私は私の復讐をしよう。
私だけが得をする、誰もが得しない結末になろうとも。
***
泉での出来事から一週間が経過した。
カトリーヌは、今必死になって私の靴を舐めている。
「エレオノーラ様!お靴を舐めた私に、どうか慈悲をお与えください!
私はエレオノーラ様のお靴を舐めたいのです!お願いします!」
彼女はそう言って私の足に縋りつく。
……彼女には本当に感謝している。
彼女が私を殺そうとしたから、こうなったのだから。
「そうねえ……どうしましょう?
私を刺した事実が公になれば、カトリーヌさんの男爵家は全員、断頭台行きですわよねえ」
悩むように、私は言う。
「もっと舐めます!お靴を永遠に舐め続けます!ですので、私を見捨てないでください!」
「必死ねえ。可愛いわ。……じゃあこうしましょうかしら?」
私は悪戯っぽく笑みを浮かべる。
「なんでもします!私はエレオノーラ様の犬でございます!なんなりとお申し付けくださいませ!」
本当に必死ねえ。そこまでして、生きていたいのかしら?
「じゃあ、王子様を殺してきてくださる?」
「喜んで!」
即答するんだ。……クスクス、面白い子。
「やり方は任せます。期限は明日まで。失敗して私の名を出すヘマをしたら……わかってますよね?
男爵家を皆殺しにしますわ」
「わかってます!私は王子様の恋人なのです。教室で刺します!明日の授業前!いつものようにお喋りする体を装って!
……どうか見届けてくださいまし。私の覚悟を!」
私は頷く。
……彼女ならできるわ。
だって、彼女は生きるのに必死。幸せになるのに必死なのだから。
「王子殺しで捕まるでしょうけど、私が貴女を弁護しますので御安心を。
その後は私の専属メイドにして、一生幸せに過ごさせるのを約束させますわ」
「御慈悲をいただき、ありがとうございます」
平伏するカトリーヌを見て、心が高揚する。
……ああ、幸せだ。私は今とても幸せだわ。
翌日、カトリーヌが王子を殺し、彼女も捕まって即時に処刑されるんですもの。
***
興奮して、少ししか眠れなかった。
「エレオノーラ様、本日はお休みになられたほうがよろしいかと……」
朝を報せに来たメリッサが、心配そうに言う。
でも、休むわけにはいかないの。
……今日は私の人生で、最高の出来事が待ってるのだから!
「エレオノーラ様?」
「どうしたの、メリッサ?」
「……失礼を承知で申し上げます。貴女は本当にエレオノーラ様ですか?」
「何を言い出すの?私が私以外の誰に見えるのかしら?」
メリッサったら、突然おかしな事を言い出してどうしたのかしら?
……もしかしたら、私の復讐を邪魔しようとしてるのかしら?
……それは、メリッサが王子に取り込まれている可能性もあるのではなくて?
「校外学習で行方不明になり、森から出てきてからのエレオノーラ様は、私の知っているエレオノーラ様ではございません。
……あの森には、古くから邪悪な者が泉に巣食い、人を人ではない存在に変える逸話がございます。
エレオノーラ様!お答えくださいませ!
あの日、何があったので……」
うるさいなあ。
「メリッサ。今まで仕えてくれてありがとう。
ゆっくりお休みなさい」
血を吹き出して、倒れ、動かなくなったメリッサの瞼を閉じていく。
「メリッサ、桶に沸かした湯を。……ネグリジェに血が付いてしまったわ。
着替えなくては」
返事がないわね。どこに行ったのかしら?
まあいいわ。身体拭いて着替えて、登校しなくては。
「フンフフーン♪」
今日のこれから起きる事に、胸をときめかせる。
さあ!私を殺そうとしたカトリーヌに、私を消そうと考えていた王子に天罰を!
私は鼻歌を歌いながら、身支度を調えていくのだった。
***
私は学校につくと、カトリーヌを探す。
「カトリーヌでしたら、まだ登校してませんですわ」
クラスメイトの一人からそう言われ、私は少し不機嫌になった。
「ひっ!……エ、エレオノーラ……様?」
何故怯えるんですの?何故私を疑問形で呼ぶんですの?
どうやら、まだ王子も登校していない。
いつも王族の務めとか言って、誰よりも早く登校しているくせに。
今日この日という、祝福溢れる日に早く登校しないなんて、どんな了見なのかしら? まあ、いい。どうせ来るのだ。
その時が最期よ♪
私がそんな気持ちで二人を待っていたら、教室の戸が開いた。
来た!王子だ! 横にはカトリーヌもいる!
さあ、カトリーヌ、早く王子を殺しなさい♪
そうして、王子の苦痛の呻きと、クラスメイトの悲鳴と、カトリーヌの高笑いを教室に響き渡らせなさい!
ワクワクドキドキして、帰ったらメリッサに面白おかしく語るべく、両眼をかっぴらいて脳裏に刻んでいこう♪
だけど……
「エレオノーラ・ベルガモット公爵令嬢。貴女を王子暗殺の首謀者として拘束します」
衛兵が大勢、教室になだれ込んでくる。
え?
「エレオノーラ公爵令嬢!貴女の部屋から、メイドのメリッサ嬢が刺殺体で発見されている!これについても説明してもらうぞ!」
は?何を言ってるんですの?
騒然とする教室。
……うるさいなあ。これからカトリーヌが王子を殺すシーンなのに、邪魔しないでほしいなあ。
「私にエレオノーラ様は、はっきり言いました!王子様を殺せと!
エレオノーラ様は王子様が好きだったのです。
……ですが、恋が叶わず、王子の恋人となった私に嫉妬したんですわ!
想いが届かなかった王子様にも憎悪を向けて!
ですので私を脅して、私に王子様を殺させようとしたのです!」
「カトリーヌ嬢の言う通りかい?……残念だよエレオノーラ。
君はおとなしい、良い子だと思っていたのに」
カトリーヌも王子も、何を言っているのかしら?
「そんな事よりカトリーヌ、早く王子を刺し殺しなさい♪
私は楽しみにしてたのですよ?」
そう私が口にすると、困惑していたクラスメイトたちも悲鳴をあげて離れていく。
「聞きましたわよね!これがエレオノーラ公爵令嬢様!……いえ、エレオノーラの本性であり、今の発言が本心なのです!」
「……残念だ。衛兵、彼女を拘束したまえ」
いつ始まるのかしら?私の見たい光景は。
衛兵たちが私に近付いてくるけど、何がしたかったのかしら?
黒炭になって消えていきますけど?
「う……わ……あああああああああああ」
「きゃあああああああああああああああ」
耳障りですわね。王族と、仮にも男爵家とはいえ貴族令嬢なのですから、品を持ってもらいたいですわ。
他のクラスメイトたちも、悲鳴をあげてうるさいですわ。
パチンと指を鳴らしてみた。
教室に黒炭がたくさん増えた。
「ば……化物……」
「なんで!なんで戸が開かないのよ!」
王子もカトリーヌも、いつまで待たせるのかしら?
あ……私はこれだから駄目だったのです。
待ってるだけでは、何も掴めなかったのですから。
パチンと再び指を鳴らすと、王子の首が飛んだ。
噴出する赤い液体が、カトリーヌに浴びされていく。
「あ……あ、ひっ!た、助けて……エ、エ、エ、エレオノーラ様」
ガタガタ震えちゃって、カトリーヌったら面白いし可愛いわね。
「ん〜、そうですわね。王子様の遺体、食べてくださる?」
「は、はい!喜んで……っぐ……オエッ……おえっ!」
あらら、吐いちゃった。
……これは教育が必要ね。
「お、お願いします……ゆ、許してください……」
「カトリーヌ?どうして王子を殺さなかったのかしら?そうすれば、他に死ぬ人間なんていなかったのに。
……クスッ。でも許してあげる。
だって私、今物凄く気分良いんですもの♪
引っ込み思案で臆病だった私が、自分から率先して動くって素晴らしさを、悦びを、味あわせてくれたのですもの♪
気づかせてくれたのはカトリーヌ、貴女なの。
……だから、許してあげる♪」
「あ、あ、ありがとう……ございます」
目から、鼻から、口からも、股からも、身体中から色んな液を垂れ流しながら感謝するカトリーヌ。
なんて……素敵な姿なのかしら! クスクスと笑いながら、私は思う。
その様子はさながら、女神を拝む信心深い哀れな人の姿。
それを見て、嬉しく思う自分がいる事に驚きながら。
さあ、カトリーヌ。私のためにもっと踊ってちょうだい♪
もっともっと私に悦びを与えて♪
ありがとう、女神のおばあさま!
私を私にしてくれて♪
私に、カトリーヌをくれて!
……とある森の、泉に棲む老婆の女神の、くしゃみをした音が聞こえた気がした。
私はカトリーヌの唇にキスをした。
***
これは遥か昔の出来事。
もう覚えている人間などいない出来事。
とある国で起きた、公爵令嬢の引き起こした惨劇。
泉に潜む、何かに願った哀れな二人の少女の物語。
数日後、この国は滅びた。
二人が国を滅ぼして以降、エレオノーラ・ベルガモットという魔女の名と、彼女の従者カトリーヌ・シャーリーの名は、歴史書に、記載がない。
完
とある公爵令嬢の恋の行方 ハムえっぐ @hameggs
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