15.デジタルタトゥー
翌日の月曜日、いつものように教室に入ると、嫌な視線が自分に集まったような気がした。陰キャならではの悪感情センサーだ。
――なにかやらかしたっけ……?
その心当たりはまったくなかった。
翌日の月曜日、いつものように教室に入ると、嫌な視線が自分に集まったような気がした。
陰キャならではの悪感情センサーだ。
――なにかやらかしたっけ……?
その心当たりはまったくなかった。
私だけが提出物を出してなかったとか、掃除当番をすっぽかしたことに気づかず謝っていないとか、いろいろな可能性を考えてみたが思い当たることが何一つない。
そして朝のHR後、比較的気軽に話せるクラスメイトに聞いてみると、「見せていいのか分からないけれど……」とスマートフォンの画面を見せてくれた。
<新堂あかりはプロアカデミーで問題起こしてクビになったヒステリック馬鹿女。今度はVに媚び売って復帰するらしい>
喉の奥でひゅっと息を飲む音が鳴る。
それは私の過去について言及し、痛烈に批判するSNSの投稿だった。
既にたくさん拡散されているみたいで特にVtuber界隈からは、
<こころちゃんと同じチームの人? これやばくない?>
<メンバーチェンジ頼む!>
<顔見たけど陰気そう>
<どうせチート使ってんだろ>
<バケモンいて草>
といったような批判的な意見が目につく。
「これが新堂さんのことだってクラスの一部でも出回ってるみたいで……」
投稿について教えてくれたクラスメイトは不安げに周囲を見渡す。
そこには視線視線視線視線視線線視線視線視線視。
薄ら気味悪い視線がいたるところから感じられた。
お腹のあたりがずしりと重たい岩を乗せられたように苦しく、内蔵のどこかがピクピクと痙攣しているような気持ち悪さを感じた。
スマホからバイブ音が鳴る。通知にはココ助先輩からBiscordで個人DMが届いていた。
――見たくない……。
私は内容を見ることなくスマホをサイレントモードにして投げ込むように鞄へしまう。
何も見たくない。
何も聞きたくない。
それから私は、心ここにあらずといった状態で午前中の授業を過ごした。
先生の話は何も頭に入ってこなかった。
昼休みになると南先輩と琴崎先輩が私の教室へとやってきた。
「ココ助もDMの返信がないって心配してたよ」
二人ともネットで拡散されている件を知っているようで、心配になってわざわざ一年の教室まで来てくれたみたいだった。
――話したくない……。
けれど私は一人になりたかった。
先輩たちが心配そうになにか話しかけてくれているが、何も耳に入ってこない。
すべての音が耳障りなノイズのように感じてしまう。
先輩たちの言葉が頭に入ってこなくて黙り込んでいると、校内放送の機械的な電子音が聞こえてきた。
「一年C組、新堂あかりさん。一年C組、新堂あかりさん。至急職員室まで来てください」
私が職員室へ向かおうとすると、先輩二人も一緒に着いてきてくれた。
職員室に入ると学年主任の先生が別室へ来るように言う。
部活関連ということで、先輩も一緒で問題ないらしい。
「こんなFAXが学校に届いているのだけれど、心当たりある?」
生徒指導室に入ると何枚もの紙が机に並べられていた。
そのすべてが私を害するような言葉で埋め尽くされている。
心当たりがあるかと問われれば、あるとしか言いようがない。
――もう話すしかないか……。
私は自分の過去を説明した。
中学時代、プロゲーミングチームのアカデミー部門に所属していたこと。
そこで人間関係のトラブルを起こして抜けたこと。
なのでネットで非難されている内容は事実であること。
先輩たちはそんなことはないと言う。
けれど、その言葉は私には響かなかった。
事実は事実だ。
先生は学校側で脅迫として警察に相談すること。
そして、くれぐれもネットで反論したりして火に油を注がないようにすることを私に告げた。
私はこの日、初めて同好会を休んだ。
◆
翌日も親に体調が悪いと言って学校を休んだ。
Biscordにはみんなから大量のメッセージ通知がきているが、とても見る気にはなれない。
見るのが怖い。
世界中から拒絶されたような、この世のすべてが敵になったような気がして何も考えられなくなる。
目につく文字すべてに悪感情が乗っかっているような感じがして、頭の中に情報を入れたいと思えない。
――どうしてこんなに苦しいことをしなきゃいけないの……。
eスポーツは残酷だ。
どちらかのチームは必ず負けて不幸になる。
非生産的だ。
そもそもゲームというものは楽しむためのものであって、人を不幸にするものではない。
小さい頃にやっていたRPGなどのゲームは、どれもゲーム内で示される方向に従って動けば自動的にストーリーが進んだり主人公が強くなるなど、簡単に成果が得られるものばかりだった。
けれど、FPSは対人ゲームだ。
どちらかが必ず負ける。
人を負かすことでしか楽しくなれない。
お互いに傷つけあうことの何が楽しいのだろうか。
――なんで私は、絶対に誰かが不幸になるようなゲームをしているんだろう……。
その翌日、私はお母さんに言われて登校することになった。
抵抗する気力もなく、何も考えたくなかった私は、素直にそれに従った。
「ご、ご迷惑お掛けしました……」
放課後、私は部室に入ってすぐに謝罪した。
部活を休んだこと。
Biscordの連絡を見れなかったこと。
自分の過去のせいでみんなに迷惑をかけたことについてだ。
というのも、ネットには私に対してだけでなく、みんなにも言及するような酷い言葉がいくつも書き込まれていた。
<絵畜生の賑やかし枠なんだから少しぐらい炎上してたほうがおもろいやろ>
<初心者もいるし、そもそも勝つ気ないんじゃない? Vtuberに利用されただけ>
<エンタメ高校>
<プレイ見たけど酷いわ。やっぱ女のレベル低すぎる>
<絵より初心者の一年のほうが可愛くね?>
<二年の二人は絶対円光してる>
それを思い出すと、途端に泣きたくなってくる。
私は自業自得だけど、みんなに飛び火しているのは私のせいだ。
涙を抑えようとして目にぎゅっと力を入れるけれど、逆に溢れ出てしまった水滴が頬を伝う。
「大会はもういいから、みんなで楽しくゲームやろ?」
宮本さんのよく通る声が耳に入る。
みんなの話を聞くと、私が休んでいた間にいろいろ話し合ったようで、今回の大会はここで辞退しても良いという結論になったそうだ。
無理して傷つきながら大会への出場を強行すべきではないということらしい。
その話に私は無言で頷いた。
みんなの表情は涙でよく見えなかった。
そして、ゲームをする気になれなかった私はそのまま帰宅した。
◆
次の日、私は学校近くにある由比ヶ浜海岸を学校指定のジャージ姿で歩いていた。
今日は学年行事の清掃活動だ。
手に軍手をはめてゴミ袋を持ったお掃除スタイルである。
心を無にしながら一人で黙々と作業できるので、今の私にとっては心が洗われるような心地の良い時間だ。
「ちょっといい?」
声を掛けられた方に目をやると、宮本さんのクラスメイトで陸上部の尾花さんが私のことを睨むように立っていた。
「あんたどーすんの?」
そんなしかめっ面で言われてもなんのことか分からない。
思い返せば前に会ったときも喧嘩腰だった気がする。
せっかくゴミ拾いをして無心になっていたところだったのに心がざわざわしてきた。
私は少しだけ不満を表情に出しながらぶっきらぼうに返す。
「ど、どーすんのって、何がですか……」
「そりゃ大会のことでしょ」
ことでしょって言われても、何で尾花さんに話さなきゃいけないのかが分からない。
一時は助っ人として部員になることもありえたが、今は完全な部外者だ。
私は必要以上のことは口にしないよう簡潔に答えた。
「み、みんなで辞退することに決めました……」
「それ歩も言ったの?」
「そ、そうです……。宮本さんが私に言ってくれました……」
「……それ、歩に言わせてなんも思わないわけ?」
矢継ぎ早に聞いてくる尾花さんが嫌になってきた。
何が目的でそんな質問をしてくるのかも分からないし、ずっとチクチクと刺してくるような言い方にうんざりする。
私が質問に答えずそっぽを向いていると、尾花さんもそんな私の態度に気づいて悪態をつく。
「ふんっ、ほんと自分のことばっか。こんなんだったら陸部に来てもらったほうが良かったわ」
「……私だって宮本さんは陸上部のほうが活躍できたって思いますよ」
少しばかりの反抗のつもりだった。
けれど、尾花さんは血相を変えて声を荒らげる。
「はぁ⁉ あんた本気で言ってんの⁉」
これまでとは明らかに違うトーンで、私への純粋な怒りを感じた。
けれど、どうして私が尾花さんにそこまでの怒りを向けられなければならないのか、理不尽に感じてならない。私もその勢いにつられて言葉が強くなる。
「ほ、本気でって……。尾花さんが言ったんじゃないですか!」
私は威圧感のない顔でむっと尾花さんを睨みつける。
宮本さんは陸上部に入ったほうが良かったと尾花さんが言ったから、私はそれに同意しただけだ。
多少の自虐はあったにせよ、それで私が怒りを向けられる謂われはない。
それなのに尾花さんは心底軽蔑するような視線を向けてくる。
「私はあんたみたいな奴がいる部にいるぐらいなら、うちでマネージャーしたほうが歩も楽しめたって言ってるの! ていうか歩の足が悪いの知ってるのによくそんなこと言えたね。あんたマジでありえないから」
「……え?」
尾花さんは今なんて言っただろうか。
「歩の足が悪い」。たしかにそう聞こえた。
その言葉が私の頭のなかをぐるぐると反芻する。
「足の悪い歩に対して陸部のほうが活躍できたとか……。ちっ、あーガチで胸糞悪い。ネットで悪口書かれてヘラってるんだろうけど、流石にライン超え過ぎ」
尾花さんから向けられた怒りを理不尽に思ったこととか、ネットに書かれた悪口で心を痛めたこととか、そういう些細なことはすべて私の頭の中から吹き飛んでしまった。
今、尾花さんに聞かなければならないことが一つある。
とても大事なことだ。
私はそれをゆっくりと口にした。
「……宮本さん、足が悪いんですか?」
尾花さんは驚いて目を見開くようにこちらを見つめる。
「……なんであんたが知らないのよ。え、嘘でしょ。もしかしてずっと隠して……? けどうちのクラスはみんな知ってるし……。だって、いつも教室移動とかで歩の荷物をみんな持ってあげたりして……」
尾花さんはうろたえたように言葉を続ける。
私が知らなかったことが信じられなかったのだろう。
それは私も同じだった。
「ちょっと、私が泣かせたみたいになってるってば!」
気づけば私の足元の砂浜には大粒の涙がぼたぼたと落ちていた。
慌ててハンカチで顔を拭われるが、涙は止まりそうもなかった。
これまでの宮本さんの言葉が私の頭に蘇ってくる。
<これ本当にスポーツだね! ゲーム中はずっとドキドキして体が熱くて、心臓もバクバクで、手も血行が良くなって真っ赤! やば、なんかめっちゃ汗出ちゃった!>
宮本さんにとって、eスポーツとはなんだったのか。
<私、部活動で仲間と一緒に何かに打ち込んだりするのに憧れていたんです!>
宮本さんにとって、仲間と一緒に活躍できる部活とはなんだったのか。
<今日はみんなで楽しくゲーム出来て、本当に楽しかった!>
宮本さんにとって、このeスポーツは、この同好会という集まりは、唯一自分が本気で頑張れる場所だったのではないか。
唯一みんなと一緒に選手として青春できる場所だったのではないか。
「そ、そんなに泣かないでよ」
溢れてくる涙が止まらない。
悲しいからじゃない。
悔しくて、恥ずかしいからだ。
ずっと自分のことだけ考えていた自分が情けなくて仕方ない。
<大会はもういいから、みんなで楽しくゲームやろ?>
私はなんてことを宮本さんに言わせてしまったのか。
宮本さんはどんな気持ちで私にそう言ったのか。
自分に対する怒りで顔が熱くなってくる。
まるで壊れた蛇口のようにとめどなく涙が流れてしまう。
だが、それと一緒に頭の中にあった余計なものも流れ出ていき、頭の中が洗われるような感覚になる。そして、次第に凪いだ湖のように静かに思考できるようになり、自然と涙も枯れていった。
「大丈夫? 落ち着いた?」
尾花さんは心配そうに涙で濡れた目元へハンカチを当ててくれる。
今なら尾花さんの言っていたことも、私に対する怒りも理解できる。
「尾花さんごめんなさい。知らなかったとはいえ、宮本さんにとても酷いことを言っちゃって」
「いや、むしろこちらこそっていうか……。ほんとにごめんね?」
尾花さんはすごく申し訳なさそうにしているが、悪いのは宮本さんの状態に気づけなかった私だし、尾花さんの怒りは宮本さんの友人として当たり前の反応だと思う。
「私、宮本さんに謝らなきゃ」
きっと藁にも縋る思いでeスポーツに打ち込んできたに違いない。
これが宮本さんにとって唯一選手として活躍できるスポーツだったから。
それなのに宮本さんは自分の望みを押し殺して、友人である私の心の平穏を優先させてくれたのだ。
宮本さんが本気で私のことを心配してくれたのは嬉しい。
けれど……。
――本当に恥ずかしい。
かけがえのない友人にそんなことをさせてしまったのが、本当に恥ずかしい。
私が過去の黒歴史を掘り返されて勝手に落ち込んでるだけなのに、それで宮本さんが割を食うのはありえない。そんなの、友人として許せない。
「尾花さん。教えてくれて本当にありがとう」
凪いだ心にふつふつと別の熱い何かが湧き出てくる。
宮本さんの優しさに報いたい。
何か恩返しがしたい。
私は宮本さんに何を与えられるだろうか。
友人として何をしてあげられるだろうか。
――宮本さんのために頑張りたい。
自分のことも、外野の雑音も、関係ない。
私はもうそれしか考えられなくなっていた。
◆
「この大会、絶対に優勝しましょう」
放課後、部室に入って開口一番に私は宣言した。
みんなは時が止まったように目をぱちくりと見開いて私のほうを見ているが、構うことはない。
自分の気持ちを素直に伝えるだけだ。
「あかちゃんはもう大丈夫なの?」
宮本さんは不安そうに私へ訊ねる。その心配はもっともだ。けれど、もう覚悟は決まっている。
「実は足のことを尾花さんから聞いて」
私がそういうと、やはり知られたくないことだったのだろう。
宮本さんの顔が少しだけ暗くなったような気がした。
「えっと……、もし私に気を遣って大会に出るならやめたほうが――」
「それはこっちのセリフですよ!」
私は宮本さんの言葉を強く遮る。
相手に気を遣って大会に出るのも、大会を棄権するのも、気を遣うという意味では同じことだ。
けれど、私は違う。
私には望みがある。
「昨日は、気を遣ってくれて嬉しかったです。大会辞退も私のためだってことは理解しています。けれど、私は対等になりたいんです!」
どうすれば力になれるか、ここに来るまでずっと考えていた。
「私は頼りないかもしれないですけど、もっと頼ってほしいです。チームメイトじゃないですか! 一方的に守られたり気を遣われたりするなんて嫌です。これじゃあ迷惑かけっぱなしの私が大馬鹿者ですよ!」
正直、今でもネットの誹謗中傷を見ると心が暗くなる。
大会に出て、また何か言われると思うと足が震える。
けれど……。
「宮本さん、大会出たくないんですか? 一緒に頑張りましょうよ!」
私がそう言うと、狭い部室はしんと静まり返った。
みんなが宮本さんの言葉を待っていた。
「私、宮本さんと一緒なら何も怖くありません」
あなたのためなら私は頑張れる。
あなたの本当の望みを教えてほしい。
私が宮本さんの目を見て自分の気持ちを真摯に伝えると、宮本さんは瞳を少しだけ潤ませながら、絞り出すように声に出した。
「……ありがとう。ほんとは大会出たかった」
少し裏返ったようなかすれ声だった。
宮本さんは赤くなった鼻を隠すように両手で顔を覆う。
すすり泣くような音から、どれだけの我慢を強いてしまっていたのかが伝わった。
けれど、それは十秒にも満たないことで、顔を隠していた手を降ろせばいつも通りのけろっとした笑顔を見せる。
「はぁー、やっぱ見栄張るって良くないね!」
どれだけ取り繕うのが上手いのだろうか。
私がそれに驚いていると、宮本さんはすぐにいつもの調子に戻った。
「それじゃあ週末の二回戦と三回戦突破を目指して練習がんばろー!」
「で、どうやって勝つつもりなの?」
意気込む宮本さんにずばっと現実問題を突きつけたのは琴崎先輩だ。
けれど、その顔は楽しそうに笑っていた。
「それは……ええと……、あかちゃんお願い!」
「お、さっそく頼ってるねぇ」
みんなの視線が私へと向かう。
どうやって勝つつもりか? そんなの、当然決まっている。
手段なんて私がいる時点で解決している。
「私がみんなを勝たせます。私がIGLして負けるわけがありません。もちろん横浜女子にも勝ちます」
「お、横浜女子にも?」
「当然です。優勝するって言ったじゃないですか。そもそも横浜女子の神原さんをアニマルズに導いたのは私です。手の内は分かっています」
みんなが「おぉ……?」と感嘆と困惑の声をあげる。
HoneyBeeGamingのアカデミー生時代、神原先輩と一緒にランクを回して最上位のアニマルズまで駆け上がったのが懐かしい。
「てか吹っ切れたみたいだから聞くけど、あかちゃんって実際のところ昔なにやらかしたの?」
南先輩は問題になっている件について質問する。
他の二人は「それ聞くか⁉」という顔をしているが、なんてことはない。
私は素直に答えた。
「ああ、ネットで叩かれてるやつですね。私も当時は人間ができてなかったので、チームメイトの下手クソにごちゃごちゃ戦術のこと言われて取っ組み合いの喧嘩になったんですよ。当時はまだまだ子供でした」
「思ったよりもしっかりトラブってるね!」
「ぶっちゃけ自分でも叩かれてしょうがないと思ってます」
私としてはもう過去のことだし、今はそれ以上に大切なことがあるから、ネットでチクチクと叩かれても耐えられる。けれど、ココ助先輩はそうは思わなかったようだ。
『そんなことないよ? あかちゃんが知らない人たちから酷い言葉を浴びせられていい理由なんてない。自分で納得してたとしても、そんなこと言っちゃ絶対にダメ』
もっと自分を大切にするように、とココ助先輩は私のことを諭す。
たしかに私もネットの誹謗中傷がみんなにまで飛び火しているのを見たとき、とても嫌な気持ちになった。
それをみんながしょうがないと言ったら、同じように「そんなことはない」と言いたくなる。
私は素直に「ごめんなさい。もう言いません」と反省した。
『うん。それにうちの可愛い後輩に汚い言葉を浴びせたクズどもは、全員開示請求してブタ箱にぶちこむから大丈夫。私の所属してる会社が動いてるからすぐに訴訟までもってけるはずだよ。Vtuber界隈はこの手の案件には慣れてるから安心してね』
何を安心すればいいのか分からない。
ただ、ココ助先輩の声のトーンが怖いので、私は顔に笑みを張り付けて頷くことにした。
先輩ありがとう!
「あっ、ただ宮本さんに一つお願いが」
私は伝え忘れていたことを思い出す。
優勝するとは言ったものの、それは私一人の力ではできない。
宮本さんは「どんとこい!」と胸を張っているので、私は遠慮なくお願いをぶつけた。
「うへぇ……。あかちゃんはスパルタだねぇ」
私が宮本さんにお願いを伝えると、南先輩は苦虫を噛みつぶしたような顔になるが、優勝するために必要なことなので仕方ない。
目的のために必要だと分っていることだ。率直に伝えるほかない。
「大会はもう始まっていて時間もありません。大変な練習になると思いますけど、ついてきてくれますか?」
けれど、宮本さんの顔にプレッシャーは一切感じられない。
むしろ挑戦的な笑みを浮かべてくれている。
「もちろんだよ!」
これまでの過程に価値がある。
勝ち負けでその価値は変わらない。
その意味はまだ分からない。
私にとっては勝ち負けがすべてだ。
けど、それはきっと、その過程を全力でやりきってないからなのだろうと思う。
だから、私は全力で勝利を掴みに行く。
そしたら納得のいく答えに近づけるかもしれない。
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