美少女をナンパから助けたら仲良くなりました。

麻婆豆腐

第一章

第一話 出会い

 俺は完璧な人間など存在しないと思っていたが高校に入学してそれは間違いだということに気付かされた。


 容姿、勉学、運動、性格などどこを取っても超一流。欠点などない人間を目の当たりにしたからだ。名は桝井ますい麗沙れいさというのだが、当然俺みたいな平凡と関わりはない。


 それに加えてクラスも違うので入学して約2週間となるが会話すらしたことがない。きっとこれからも関わることはないのだろうと確信していた。


 そんなある日のこと、高校がない土曜日に本屋に立ち寄ろうと町中に繰り出していた。


 ちらほらと高校生カップルが仲睦まじそうに手を繋いでいて少し羨ましいと感じたが手を伸ばしても届かないので嘆息し視界から外す。


 いつも通っている本屋に着くとその前に女子高校生とチャラそうな男がいて、何やら会話をしているようだった。


 まあ俺には関係ないので無視して中に入ろうと思う――その時、二人の会話が耳に入った。


「あなたには興味ありませんと言っています。何度言ったら分かるんですか?」


「え~、照れてるだけでしょ? 美味しい店知ってるからさ、一緒に行かない?」


「だから行かないと何度言ったら分かるんですか。そもそもあなたみたいな軽薄な人と関わりたくありません」


「……へ~、そんなこと言っちゃうんだ。なら、力づくで分からせるしかないね」


「――っ!」


 チャラそうな男がナンパしている女子は確かに顔立ちが整っていて美少女と形容できる。腰まで伸びた流麗な黒髪に透明感のある肌、すらりとした体躯。――ナンパしたくなる気持ちも分かる。だが暴力はいけない。


 リラックスしたい休みの日に面倒ごとに関わるのは勘弁願いたいのだがこれはさすがに無視できる範疇を超えた。俺は強い力でチャラそうな男の手を取って女子高校生の腕から外す。


 すると彼は不快そうに眉を顰める。誰だお前と言いたげな様子だ。


「……なにお前。良いところだから邪魔しないで貰えるかな」


「暴力をしているのに見過ごせるわけないだろ。最悪、警察沙汰になるぞ」


「うるせえよ。俺はこの子と食事に行く約束をしてたんだよ」


「きっぱり断られただろ、どう考えても脈ないぞ。諦めろ」


「……ちっ」


 否定するところのない完璧な正論にチャラそうな男は苛立ちを表すように、舌打ちをして場を去った。その後、俺は様子を確認しようと横目で女子高校生を見る。――あの桝井麗沙だった。


 彼女なら休日に町中でナンパされるのも頷ける。しかも学校とは違い私服。おしゃれで可愛い服装で彼女の美をさらに引き上げていた。


「あの、助けていただいてありがとうございました。あなたがいなければ私は何をされていたか……」


 桝井は暴力を振るわれた恐怖が残っているのか体が震えていた。そんな彼女に何か優しい言葉を掛けた方がいいのかもしれないけど生憎俺にはそんな知恵も経験もなく。あったらぼっちなどやっていない。


「そのなんだろう、お節介かもしれなけどもし彼氏がいるならさ、その彼氏と出かけた方がいいと思うよ。今回はたまたま俺がいたから良かったけど、次は助けてくれる人がいるとは限らないんだからさ」


「……お気遣いありがとうございます」


「じゃあ、俺はこれで」


「あ、あの――」


 俺は桝井に警鐘を鳴らし踵を返す。本屋に行く気分じゃなくなったのでコンビニでも寄って帰ろう。去り際に何か後ろから声が聞こえたが気のせいだろう、きっと。



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