10.男も女も磨けば光る。どこを磨くのかが大事なだけ。

「どぉーしたんですかぁ、社長ぉ?!こぉーんなビッグチャンス、みすみす見過ごすんですかぁぁぁああああ???!!!ありえませんよぉ、さっさと行きましょうよぉぉぉおおおおおおお社長ぉぉぉぉぉおおおおおおお!!!!!」

「じゃあああーかあああしゃああああーあああ。そおおおーんなあにいっますぐううう行っきてえええんならあ、てんめえええ一人でえいっきなっさあああいあい。」

「えぇぇぇ?!そんな殺生なぁぁぁぁああああ???!!!ソートさぁん、何とか言ってやってくださいよぉぉぉおおお!!!」

「元気だねぇ、ヒナさん。こないだあんなに絞られたのに。」


結局あの後ヒナは捕まり、文字通り手と足を持たれて雑巾絞りみたいに身体を絞られた。痛そうだった。


「ただ僕もねぇ、ちょっとこれは今すぐ行こう、とはならないかな。」

「なんで?!なんでなんでぇ?!」

「なんでもクソも無いの。知らないの?豪皇院グループ。日本で一番おっきな企業集団。一次産業から三次産業まで何でもござれ。日本の会社の九割はここの傘下だよ。で、今回のターゲットって、そのグループの中でもとりわけ大きな会社の会長さん。豪雁撫黎ごうがんぶれい榛勃佐ばるぼっさ。今までとは訳が違う大物だよ。慎重になるしかないってこと。分かる?」

「うぅ…でもぉ…諦めるんですかぁ?」

「だあああああああっしゃあああああ。どうあああーるうえええがあああ諦めえっかあよおおお。俺ちゃあんはあ、殺る時あああ殺あーあああるうやっちゃあーぜえええい。だあんがまあああ、今けえええぶあっかありはあああ、ちいいいっとおおお準備があ、あ必要かんもおなあああ。」

「そうだね。こんな大物、普段はお目に掛かれない。どこにいるかも分かんないし、会社をしらみ潰しにやっちゃうわけにもいかない…でもちょうど明後日なら、確実にここに来るってのが分かる。」

「そんなのあるんですかぁ?都合良く?」

「あるんだなぁ、これが。リンク送ったから開いてごらん。」

「あぁ、これですか。何々…」


ソートから送られてきたURLを開いてみる。


『豪雁撫黎榛勃佐御会長生誕パーティのお知らせ』


仰々しく厳かそうなホームページにはこんな見出しがあった。


「お誕生日会ですかぁ?大分ゴォージャスなふいんきですけどぉ。」

「毎年港区の豪邸を会場にして、会社をあげて会長の誕生日を盛大に祝うんだってさ。命が狙われてるのに呑気なもんだね。」

「しっかあああしい、そおんな中でもおじゅうんじいい滞おーおりいいなくうやるったあああ、そうとおーおおのおーじっしいんがあああるうったあってえええこったあああ。気っにいっらぬうえええなああああああ???」

「各所のお偉いさんが集まるもんだから警備も厳重だし、そもそも会場も広いから、正面突破はまぁ無理だね。サカが警備を全滅させたとしても、その前に逃げられちゃう。」

「めえええんどくせえええよなああああああ。金もっちいいいの癖にいいい、ろおっくにい人前えに出やしねえええい。せせえっこまっしゃあああいヤロオーオオオだぜえええい。」

「生誕祭以外に明確なチャンスも無い。やるならここしかないね。」

「でも真ん前からドカァン!は無理なんですよね?こないだみたいに社長が、こう、バットで建物ごと、ズカァン!はダメなんですかね?」

「ダメだいやあああい。こんの家なあ大き過ぎらあああーなあああ。ギリッギリイイイ真っ二つうにゃあああできいっかもおおおしんぬえええがあああ、そいっつうをおピンッポイントオに殺るっちゃあああきいっちいいいなあああ。」

「そうだね。それにそんな派手なこと出来そうも無いし。治安、警備で来るみたいよ?それに勇壮も。」

「えぇぇぇ?!あの隊長さんも来るんですかぁこんなとこに?!暇なんでしょうかね、案外。」

「このおじちゃん結構ヤバい権力者だから。日本で五本の指入るくらいっぽいし。勇壮も動かせるみたいだよ。」

「かあああーあああ。おファックの輩あもお来んのかよおおお。めんどおっくせえええことおこの上ねえええいぜえええい。」

「どうするんですかぁ?ここしかチャンス無いんですよね?」

「うん、だからこれは…潜入、だね。」

「それしかにゃあああかもなあああ。」

「潜入って、こそこそ忍び込む、ってことですよね?できるんですか?社長なんかに、そんなスパイみたいな地味ぃなこと。」

「ハアアアアアアン?!ゆってえおくがあああよお、俺ちゃあんがでっきねえええわけじゃあああねえええぞおおお?周りがあああ俺ちゃあんのおかっがやかしゃあーあああオールアーに目えが眩んでえ騒ぎやがるあああーあのがあ、あわっりいんだぜえええあああ???」

「こんなことほざいてますけど。」

「まぁ実際潜入も厳しいよ。屋根上にも警備員がいるくらいだし。警備用のドローンも飛び回っているらしいから空から行くのも難しそうだし、地上からなんてもってのほかだし…まさかモグラみたいに地面から行くのも、ちょっと時間が無いね。」

「普通にパーティに参加出来ないんですかぁ?私達も。」

「招待状が無いとキツいね。」

「ギゾーとかできないんかあ?おんめえ。」

「この招待状ねぇ~。やってやりたいけどねぇ、ICチップやら生体認証やらが山盛りの超ハイテク電子セキュリティカードっぽいんだよ。僕ならできないこともないけど、明後日までには、ちょっと厳しいかなぁ。時間的にね。」

「もぉぉぉおおおおおお!!!無理無理無理なんじゃないですかぁぁぁあああああ!!!ああああぁぁぁーーーん!!!!五億、五億ぅぅぅううう!!!私のぉ、ボーナスゥゥゥウウウウウウ!!!!」


ごろんばたん

じったばったじったばった

ヒナは床に転がり、駄々をこねる。


「そんな駄々こねないでよ。僕だって打つ手が無いの、歯痒いんだから。」

「いいいんやあああーああ?打つ手っちゃあああ、にゃあああーいいわっけじゃあああ、なあああいぜえええい。こっこお、見やがれえええいよおい。」


そう言ってサカが見せるスマホ画面には、


『一般参加について』


「あれぇぇぇ???!!!私達でも、参加、出来るんですかぁぁぁああああああ???!!!」

「いや僕も気付いてたけどさぁ、その参加資格見てよ。」


『参加資格』

『…満二十歳以上三十歳未満…身体的性別が女性であること…以上の条件を全て満たす場合でも、会場判断で入場を拒否するケースがある。』


「要するに、容姿が良くて若い女の子なら一般人でもOKってことだね。」

「ルッキズムですかぁ、こんな堂々と。」

「権力があればこんなことも許されるんだよ、良いよね。それで、とにかく女の子を囲い込んで酒池肉林したい、と。」

「酒飲んでえええ乳繰り合あうだっけえならあえええけんどなあああ。そんれ以上のこともおおおやってらあああなあああ、どおおおせえなあああ。」

「あぁ、監禁して人間を玩具にしてそうだよね、あのババア芸術家みたいに。」

「ひぇぇぇ、おっかなぁい…で、これがどうしたんです?女の人しか潜入できないみたいですけど、代わりにやってくれる誰か、アテでもあるんですか?」


じいっ

サカと目が合う。紅い瞳。真っ直ぐ見ていると吸い込まれそうになる。


「アテがあ喋ってらああああなああああああ。」

「まぁ、そりゃそうだよねぇ。こういう時のために雇ったんだし。」

「へ…?いや、その、まさか…?」


雰囲気で察するが、脳がそれを拒絶している。


きひぃっ


「おおおうよおおおーおお、ヒンナアちゅわあああん。そんのお正義のをおこんぶしでえええ、夢のを大金をお掴み取ってえええきやがるえええええい。」

「…え?」

「五億全部自分のものになるよ、良かったね。」

「…へ?何?」


ヒナは次の言葉を待つが、二人は何も言わない。ヒナの反応を待っているかのように。

やがてどうにか、二人が意味するところを理解してしまった。


「………っっっっっっぎぃぃぃいいいいいいいいいいいいええええええええええええあああああああああああああああああああああああ??????!!!!!!んぬぅぅぅううううううううあああああああああああんどぅぅぅうううううえええええええええええあああああああっっっっっとぅぅぅううううああああああああああすぃぃぃいいいいいいがああああああああああっっっっっっ????!!!!むりむりむり、無理無理無理むーーーーーーーーりいむりムリムリムリムリですよぉぉぉぉおおおおおおおおおああああああ!!!!!!」

「いいいいいーんやあああ、いっけるねえええ。そんのおド貧相ボデエーをさっらけだしてえ、顎振り腰振りしてんりゃあ、あっちいのほおーから寄ってえくんだろうがあああいやあい。」

「ヒナさん容姿はそれなりだし、ちょいと着飾ればイケるでしょ。あ、武器とかそーいうのはボディチェックで弾かれちゃうから、別に送るね。あのババア芸術家の作品、元々そこに送る予定だったみたいだから、それにちょちょいと上手く混ぜておくよ。僕そーいうとこも抜け目無いから。サカ、ヒナさんの服のアテとかないの?スーツじゃダメだろうから。」

「あああああーああ。なあああいこともおなあああいぜえええい。安しいんしなあ。」

「ちょっと、話が、勝手に、進んで、ません、かぁぁぁ…?私、まだやるとは言っていませんがぁ…?私の意思とはぁ…?」

「ヒイイイーナアアアーーー」


がしっ

サカに肩を掴まれる。


ぐぐぐいっ

いてて、指が食い込んで痛そう。


「覚悟せえええいいいやあああ。にゅうーしゃあしてからあ一月余りい。とおーうとおう独り立ちのとっきゃあがあ来たんだあよおおおう。こいっつうの睾丸たまたまをひいこら転がしてえええ、そのままあ、ぷちゅん、と潰しちゃあうのよさあああ。かあんたあんでえっしゃあろお?」

「んなぁぁぁぁあああああにぃぃぃいいいいがあああああああかぁぁぁあああああんんたぁぁぁああああああんなぁぁぁああああああんでぇぇぇぇぇえええええすぅぅうううううううかあああああああああああああ????!!!!自分がぁぁぁ行けないからぁってぇぇぇぇええええええ!!!!!可愛い可愛い社員をぉ、そぉぉぉおおおーんな死地にぃ、おっくりこまないでぇぇぇえええくだっさぁっいぃぃいいいいよおおおおおおおおおお!!!!!」

「ばあああっきゃあろおい。かわちいからこそお送り出すんだあろおがあい。しゃあいんのとどまるこったあああしらあん成っちょおおおうおう、あっててかっくう見守ってえええやあんのもお、シャッチョのお仕事おなあのよおおおーう。おおおーいおいおい、嬉し涙あが出てくらあああなあああ。」


ぐしぐし

サカはわざとらしく手で目頭を押さえる。


「もし上手くいったら儲けもんだし、ダメならダメで、サカが中に入れるよう色々してくれればいいし。僕はどうにでもなるから。荷物に隠れたり警備の機械に紛れるなりなんなりできるし、最悪スマホ越しにサポートするよ。」

「できませんってぇぇぇええええええ!!!!私に人殺しなんてぇぇぇええええええ!!!!ずっと傍観者でいたかったのにぃぃぃいいいいいい!!!!綺麗な手のままでいたかったのにぃぃぃいいいいいいいい!!!!これじゃあ麻酔銃のくだりも、要らなかったじゃないですかぁぁぁぁああああああ!!!!!」

「あああだあこおおおだあ、うっせえええよおおおーい。気張ってえ、こんのシャッチョを安心させてくれえええいなあい。きったあいしってるうぜえええい。」

「そぉんな勝手なことばかり言ってぇぇぇええええ!!!!私、行きませんからねぇぇぇえええええ!!!!」

「ダアアアーアアメダメダメえええい。おんめえは行くのおおお。けってえーじこおうなのおおお。」

「嫌ですぅぅぅ!!!行きませぇぇぇん!!!」

「行くのお。」

「行きません!」

「行けえ。」

「や!」


ぷっつん

サカの中の何かが弾けた。


「んんん舐んめえたあああ口いきいてええええんじゃああああああねええええええぞおおおおおおゴッッッッッルルルウウウウウウウウウウアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!!!!!俺ちゅわあんがあああ、行けってええええゆうううーうううたらあああ、黙ってえええ喜んでえええいっかんかあああああああああああああいああああああいいいあいあいあいあいあああいいいい!!!!!こんなあいだあああナマこいたあああああああツケエエエエ、こっっっこおおおおおおでええええ、はっっっるうううわああああああんかああああああああああああいあいあいあいああああいいい!!!!!」

「まぁぁぁぁあああああーーーーだぁぁぁあああ引きずってんでっすかぁぁぁあああああああああんのおおおおこっとおおおおおおおお????!!!!しゃっちょぉぉぉもぉぉぉおおおお女っっっめぇぇぇえええしぃぃぃいいいいいいいいでぇっすぅぅぅねぇぇぇぇぇええええええええああああ??????そぉぉぉおおおんなぁぁぁあああああああ女々しかったらぁぁぁぁあああ、社員もぉぉぉ誰もぉぉぉ付いてくるわっけぇぇぇえええええああありませぇぇぇえええんよぉぉぉおおおおおおねぇぇぇぇえええええ??????ブラでもしたらぁぁぁぁああああどうでっすかぁぁぁぁああああああああ??????貸してぇ、あっげまぁしょぉぉぉおおおおおかあああああああああ??????」

「っっっっっっっだあああああああrrrrrrrrrrるるううううううううえええええええがああああああああああんんぬうううううあああああああああああもおおおおおおおおおおおおおん要っっっっるううううううかあああああああああああよおおおおおおおおおおおおお??????!!!!!!そぉぉぉおおおおおんなぁぁぁあああああペエラアアアアアッッッッップエエエルウアアアアアッッッッッなああああああああヌウウウーーーウウウウウブウウウウウウルウウアアアアアアアんんぬうううあああああああああああああああんんてええええええええよおおおおおおおおおおおおあああああ!!!!!!俺ちゅううううわあああああああんあんあんああああんのおおおおおお、ヴイイイイイイイイイクトリイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイなあああああああああああああああきょううううううううううううううううおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおきいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいんもおおおおおおおおおおおお、カッッッッッッッッブウウウウアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアでえええええっっっっっきいいいいいいいいいいぬううううううううううううううええええええええええええだああああああああああああろおおおおおおおおおおおおがああああああああああああ!!!!!!!」

「言っっっわせてぇぇぇぇえええええおおおっっっけぇぇぇええええええばああああああああああああ!!!!!!あのですねぇぇぇ、前から前からわったしの身体のことぉぉぉ、やれ貧相だのぉボンキュッボンのボの字も無いだのぉ抜けないだのぉと言いますがねぇぇぇ…」

「そこまで言ってないけど誰も…」

「こぉれぇぇぇえええええふぅっっっつぅぅぅううううううううううううでぇぇぇっっっすぅぅぅうううううかぁぁぁぁああああるぅぅぅぁぁぁぁああああああああああ!!!!!ちゃぁぁぁぁあああああんとおおお膨らみ柔らかみ温かみ包容力ありますからぁぁぁぁああああああああ私にもぉぉぉぉぉおおおおおおおお!!!!!顔よりでぇぇぇええええっっっかぁぁぁぁああああああああいい乳ぃぃぃいいいなぁぁぁあああんてぇぇぇえええええええええ、げんっじつっにはぁぁぁぁあああああああほっぼぉほぼほぼぉぉぉああああぁぁぁぁぁりませぇぇぇぇぇえええええんんかるるぅぅぅぅぁぁぁぁぁあああああああああああああああ!!!!!!そぉぉぉおおおおおおおおんなぁぁぁああああにぃぃぃいいいいいいボボォンキュキュゥッボボボォォォンがいいいいいいならぁぁぁぁ、もおおおう二次元からああああ出ってくうんじゃぁぁぁねぇぇぇぇぇええええええええええええああああああああああ!!!!!!!こぉぉぉおおおおおんのぉぉぉぉぉおおおおおおおおお、おおおお童ぅぅぅっっっっってぇぇぇぇぇええええええええええええええいいいいいいどぉぉぉぉおおおおおおんんもぉぉぉぉおおおおおおおおおおおおおがあああああああああああ!!!!!!!」

「ていいいいいいいいいいえええええええええええええええんんんむううううううええええええええええええええええええええええええあああああああ!!!!!!ぜえええええええええええええええええええんじいいいいいいいいいいいいいいるううううううううううううううううういいいいいみいいいいっっっっっっっとおおおおおおおおおおおおおおおおおおうおうおうおうおうおうおおおおおおうのおおおおゆうううううんんめえええええええをおおおおおおおおおおお、ブアアアアアアアアアアアアアッッッッッッカアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアにいいいいいいいいいいいすうううううううううううううううううんんじゃああああああああああああああーーーーああああーああああああぬううううううううううえええええええええええええええええええええええええええええああああああアアアアアンバアアアアアアズウウウウウウウウレエエエエエエエエエエエアアアアアアアアア!!!!!!!!」


ギャー、ワー

どんがらがっしゃぁぁぁん

乱闘が始まった。


「仲良さそうでなにより。でも確かに、ヒナさんだけ潜入させても上手くいく確率なんて低いよね。どうしよう…?」


明くる日。

東京、新橋。


サカがヒナを小脇に抱えながら町を歩く。


「こおおおんのおじゃあじゃあああ馬があああ。手間あかけさせえんじゃあねえええいやあああい。」

「嫌ぁぁぁぁあああああ!!!!誰かぁぁぁぁぁああああああ助けてぇぇぇぇええええええええ!!!!!エッチィことされそうになってますぅぅぅうううううう!!!!!」


ちら、ちら

まだ日も高いうちの女性の悲鳴。自然と周囲の視線を集めてしまう。


ズオオオッ


「なあああに見てんだあよ。」


スタスタスタ

サカの気にあてられ、皆んな何事も無かったかのように歩き出す。


「うぇぇぇぇえええええん!!!!!世間の馬鹿ぁぁぁぁあああああああ!!!!鬼ばかりぃぃぃいいいいい!!!!」

「まぁまぁ落ち着いて。エッチィことはされないから今日は。本番は明日だから、気楽にね。」

「どこが気楽ですかぁぁぁぁあああああああ!!!!ずっと私の貞操危険に晒されて仕方ないんですけどぉぉぉぉおおおおおお????!!!!なぁんなんですかこの作品んんん???!!!やる気あるんですかぁぁぁぁああああああ????!!!!」


まぁ一応、無くはない。


「それで、ここで潜入用の衣装のアテがあるって、本当?」

「ほおおおんとおおおよおおおお。馴染みいのおスナアックウがあああーるかあーらあああなあああ。ほおらあよお、見えたあぜえい。」


大通りを背にして五分ほど、入り組んだ路地。その一角にけばけばしいスナックが。その表看板には、


『Burn Knuckle』

『closed』


「これ、店名?酒場とはとても思えないな。」

「ただあSNSをおてっきとおおおにいぶうらぶうらしてたらあ、たんまたんま目えに入ったあ文字列があああそおおおーう見えたからあああってえらっしいぜえええい。」

「へぇ、どうでもいいや。準備中みたいだけど?」

「ナシはあああつけてあらあああ。こんままあ入ってえいいぜえええい。」

「こぉんな怪しいところに連れてきて、どうするつもりですかぁぁぁあああああ???!!!嫌ですよぉ初体験がこぉんな場所なんてぇぇぇ!!!ちゃんと清潔で高級なホテルにしてくださぁぁぁあああああい!!!!そして二人きりじゃないと嫌ぁぁぁぁあああああ!!!!」

「入ろうか。」

「おおおう。」


キャーキャー

未だ暴れるヒナをしっかり抱えて薄暗い店内に入っていった。


カランカラン


「うおおおおおおおいい。きったあああぜえええい。」


バタバタバタバタ

野太い足音が奥から聞こえてくる。


ドバァッ


「~~~ィィィイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイヤァァァァアアアアアッッッッッハアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアッッッッッッッッッッッッハアアアアアアアアアアアアアアアアアアアッッッッッッッハアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアン!!!!!!あああああああ会いいいいいたぁぁぁあああああかぁぁぁぁあああああああっっっっったわあああああああああああああああんん!!!!!ンムァァァァイィィィ、ンプリプリィィィィイイイイイイン、スゥゥゥウウウウウウウオオオオオオオオオ!!!!!!」


唐突に誰かが飛び掛かってきた。


ひょい

ズッシャァァァアアアアアアアアン

冷徹に避け、誰かが盛大にコケる。


「いぃぃぃったぁぁぁぁいぃ。ひっどぉぉぉおおおおいんだからぁ、もぉぉぉう。」


むっくり

それでも怪我無く起き上がる。

ド金髪の長い髪は少し色が抜けかかっており、プリンの様相を呈し始めている。女性とは思えぬほど顔の彫が深く、眼力が鋭い。ガタイも良く、肩回りの筋肉がゴツい。


「…何、この人?おネエ?」

「おネエに見えるただの女だあああよおおおい。紛らわっしゃあああよなあああ。」

「色んなところが濃ゆそうな人ですぅ。辟易しちゃいますぅ。」

「なぁぁぁあああああによおおおーう!!!こんっのぉボディにはぁ、女性ホルモンがムムンガムゥン!!!それに負けずぅに垂れ流されるぅ男性ホルモン!!!!マグマ溜まりがごとく滾るそれらにぃ、バランスなんて関係なぁぁぁぁぁああああい!!!!全ての男性とぉ女性のぉ頂点に立つぅ、そぉれがこのアッタシィ、七尾錦ななおにしきレミなのよぉぉぉおおおおおおおおお!!!!!」


ブワッ

キラキラキラァ

七尾錦がポーズを取ると、何やら飛沫が飛び散った気がする。


「うぇぇぇ、なんか飛んだ気がしますけどぉ…体液ですかね、ばっちぃ。」

「こおう水だろおおおがあああ。やったらあめったらあにつけやがってえええええい。相も変わらずうさっわがしゃあああいやっちゃあだぜえええい。」

「うっふぅん。そりゃあもう、せぇっかく、ひっさしぶりにサカちゃんプリンスに会えたんだものぉ!滾るもんも滾っちゃうわよぉ!寂しかったんだからぁ、ぜぇんぜん連絡寄越さないでぇぇぇ!!!」

「きんもちわっりいいいルビ振ってんじゃあねえええいよおおおい。用がなきゃああああこねえよおおおこんなとっこおおお。」

「そぉんなこと言わないでよぉぉぉおおおおおお!!!!嬉しかったんだからぁぁぁあああああ!!!!あの時、半グレたちに因縁つけられて困り果ててたところに颯爽と現れて、瞬く間に蹴散らした、あの豪快さ…!惚れ惚れしちゃったわぁ、アタシだけじゃない、店にいたみぃんな胸ズッキュン♡されちゃったんだからぁぁぁああああ!!!!」

「そんなことしてたんだ。意外と正義のヒーロー気質なんだね。」

「ちいっげえええよおおお。あんとっきゃあ新橋でえしっこたま飲んでえええ、そんれでめえっさあったま痛くて気分がわりいいい中あ、酔い覚ましにいこの辺ぶらついてたあのおよおお。そっしたらあ、やれ『ぶっ殺す』だの『金返せ』だの『ブスどもが』だあの、ぐっじぐじぐっじぐじいしたあ文句うが耳に入ってきてえよおおお、そんれでイラついてえ、そいつらあの首引っ掴んでえ、酔った勢いでえ半殺しい、あいや、七割殺しい?くらあい?しちゃったあんだよなあああ。そんだけえのことだからあ、俺ちゃあんもおあああんましい覚えてえねえええのよおおおう。」

「ううん、経緯なんてどうでもいいの…!大事なのはアタシたちの心…!助けてくれたって事実が、アタシたちの心に火をつけてくれちゃったの…!」

「はぁ、乙女脳って大概ですねぇ。」

「ヒナさんが言えたことではないけどね。」

「とにかくせっかく来たんだから、ゆっくりしてって!開店前だけど、サービスしちゃうんだから!おぉぉぉぉぉぉーい!!!皆んなぁぁぁぁあああ!!!サカちゃんが来たわよぉぉぉおおおおおおおお!!!!」


七尾錦が奥の部屋に声を掛ける。すると、

ガッチャァ

何人ものドレス姿の女性が顔を出す。


「え、マジィ?」

「うっわ、マジじゃあん!」

「サカちゃん、おひさぁ!」

「きゃあー!今日も白くて可愛い!ワンちゃんみたぁい!」

「んっほほぉぉぉおおおおおおおい!!!私を抱いてぇぇぇえええええええええん!!!いやむしろ、こっちが抱いてやっるぅぅうううううううあああああああああああ!!!!!!」


ワーキャー

あっという間に囲まれてしまった。


「え、ロボットもいるじゃんねぇ。」

「ラジコン?ドローン?だっけ?てか、さっき話してなかった?」

「誰か動かしてんのかな。もしもぉーし?聞こえてますかぁー?」

「は、はい、聞こえて、ますが。」

「きゃー!やっぱいるじゃあん!」

「聞こえてますだって、やだぁ、かーわいい!」

「は、はは。」


派手な女性に囲まれ、ソートもたじたじだ。


「どいつもおこいつもおまあーああ騒がしっしゃあああこと。頭があああんなだからあああ、子がこおんなになっちまうんだぞおおお。自重しやがれえええい。」

「ちょっと!ママを悪く言わないでよ!恩人なんだから!見た目はアレだけど!」

「そうよ!行き場の無くなった私達を雇ってくれてるんだから!感謝してもしたりないの!見た目はアレだけど!」

「っっっ抱っっっっっかぁぁぁぁああああすぅぅぅうううううううううううううううえええええええええええええるるるぅぅぅううううううううううおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおいおいおおいおいおいおいっっっっっっひぃぃぃいいいいいいいいいいいいいいああああああああああああああああ!!!!!!!!!!」

「へいへいへえええい。悪かったなあああ。」

「分かればいいんだから!もう!いけず!」

「そうよぉ久しぶりなんだから、楽しまなきゃ!貸し切りにしちゃおうか?」

「ダメよぅ。ちゃんと営業はするからねぇ。それまでならいいわよぉ。」

「もぉーう、ママのケチィ。」

「あのぉぉぉおおおお???!!!もっしもしぃぃぃいいいい???!!!私の存在忘れてませぇぇぇえええん???!!!いつまで抱えられてるんですかぁぁぁあああああ???!!!」

「ぐっっっぎゃぁぁぁぁあああああああああああああああああああああああああああ!!!!!!」


キャーキャー

皆んなの興奮が落ち着くまで少しの時間を要した。


「で、用って何なのさ。わざわざ来たんだ。そこそこに大事な用なんじゃないの?」


奥のテーブルに座って話をする。他の女性たちも肩がくっつくくらい一緒のソファに座っているが、難しい話を始めるのを察したのか、皆んな静かにしている。流石はプロというところ。


「はい、どうぞ。」


一人が適当なお酒を作って、グラスをサカの前に差し出す。


「おおおう、サンキュウなあああ。」


ぽっ

グラスを出した女性の頬が少し染まる。


ちびっ

グラスに口をつける。唇に温度を感じる。冷た過ぎず温くも無いちょうど良さ。


くっ、くっ

そのまま喉まで通す。とても甘い口当たり。だが甘ったるくはなく、喉を通せばすっきりとした味わいだけが残る。アルコールはほどほどで、最初の一杯としては悪くない。忘れず好みを抑えてくれている気遣いが染みる。


ぷはぁ


「大したあことじゃあああねえええ。たんだあこいつをお、ちょいとばあかあしいお着換えメーキャップさせてやっちいくりいいいなあ。」


パッ


ようやくヒナを抱える腕を解いた。


ドスッ

そのまま床に落ちる。


「うげぇ!いきなり離さないでくださいよぉ!びっくりしちゃうからぁぁぁ!」

「あらぁ、それ女の子だったのぉ。あんまり軽々しく抱えてるもんだから、てっきり子猫か何かかと思ってたわぁ。」


少し嫌味ったらしい言い回し。ヒナを見る目もどこか冷たいような気がする。


「で、この子を綺麗にしろですって?そりゃあいくらでもできるけど、どうしてそんな?聞いてもいい?」

「んあああー別にい構いやしねえええよおおお。ソートオオオ、おんめえから話せえええ。こいっつらあああはあ俺ちゃあんの仕事のことお知ってってっからあああ、そんままあ話してえいいぜえええ。」

「…ん?あ、話、話ね、うん、分かった、僕からするよ。」

「おいおいおおおーい、頼むぜえええ?きけえええのくせえにい、骨抜きいになってえんじゃあああねえええぞおおお?」


かくかくしかじか

ソートはさっきの事情をかいつまんで話した。


「…なるほどねぇ、潜入…」

「ねぇ、それって、私達じゃあダメなの?」

「あん?」


傍の女性が話に入ってきた。


「そういうパーティなら雰囲気は良く知ってるし、それに最悪、何かされても…結構我慢できる。私達、慣れてるから…」


皆んな目を伏せる。さっき漏れ聞こえたが、ここにいる女性らはワケありだらけ。それぞれに凄惨な過去があり、なんとか乗り越えた今、ここで働いている。


「んなあああーにい言ってえやがらあああーああなあ。おんめえらあなあんかあをおおっくりいこむうわけがあああにゃあああーいだあろおうがあああ。」

「でも…!」

「サカちゃんの言う通りよぉ。」


七尾錦が真剣なトーンになる。


「あんたらの身を預かる立場としても、そんな危ないとこに送り込ませる訳にはいかないわよ。それに、サカちゃんにはサカちゃんなりの考えがあるの。アタシらがでしゃばっちゃあ、邪魔になるだけよぉ。」

「…」

「私も一般人なんですけど?十分、危ないんですけどぉ???」

「見た目にい似合わずう話が分からあああなあああ、おんめえはあよおおお。」

「押すときは押す、引くときは引く。そのライン引きが世渡りのコツなのよ。」

「あっれぇぇぇえええ?!私、見えてますかぁぁぁあああ???おぉぉぉーいぃぃぃ!!!」


ヒナは一旦無視して話を続ける。


「とにかく綺麗にするだけならいくらでもできるわよ。奥に衣装なんて山ほどあるから。いつする?今?明日?」

「話があはっやくてえええたあすかあるうぜえええい。メインは明日の夕方だがあああ、そんのお前にいい、いっぺえん今あ、どおんなあ感じになるかあああ、見してみてえくれえええい。」


にかっ

七尾錦の笑顔が光る。

「オッッッケェイィィィ!!!じゃあ、あんたたちぃぃぃ???!!!」

「「「「「はぁぁぁい?!」」」」」

「そこの芋臭ぁい子猫ちゃんを、いっぱしの女に仕立て上げなさぁぁぁい!!!あんたらのセンスに任せるわぁぁぁああああ!!!」

「「「「「はぁぁぁーい!」」」」」


がしっ、がしぃ

ヒナの両脇をがっちり女性たちが抱える。


「へ?へぇ?」

「さぁ綺麗綺麗、しましょうねぇ~。」

「でも元が結構良いわよこの子。下手にいじんなくても良さそうねぇ。」

「それに幼さが残る感じだし、無理して肌は出さない方が良いわね。」

「抱かせろぉぉぉおおおおおおおおおおおお!!!」

「えええぇぇぇ???!!!本当に、本当にやるんですかぁぁぁぁああああ??????」

「ほら、すぐ動くすぐ動く!!!」


わっせ、わっせ

奥に運び込まれるヒナ。


「社長ぉぉぉ!!!ここまでされたら流れ的に断りにくいじゃないですかぁぁぁあああああ!!!!止めるなら今ですよぉぉぉおおおおお!!!!他の作戦とかぁ、考え直してくださぁぁぁああああい!!!!」


ひらひら

サカは小さく手を振って、


「があんばあれえええい。」

「んんもぉぉぉぉぉおおおおおおおおおおおおお!!!!」

「ほらほらお着換えお着換え!」


キィッ

ガッチャン

奥の部屋に消えた。


「それで、どうするの?」

「あん?あんだお?」

「本気であの子一人でやらせる気なんてないでしょ?サカちゃんはどうするの?」


はぁぁぁー

珍しく、サカが大きな溜息。


「さああああああなあああああああ。俺ちゃあああんのおスッパコオン脳をおおおフル稼働させてえっけんどおよおおお、なんかなあああ、クレエッブアーなあアイデエーアアがあ、ポコオーンとお、出ってこねえええんだよなあああ。」


くいっ

グラスを傾ける。さっきより甘くない気がしてしまう。


「やっぱり、勇壮もいるしね。滅茶苦茶なことができないってのが鬼門過ぎるよ。サカのスタイル真向否定されちゃうから。」

「でもこのままだったら見殺しよ?何とかしてあげないと。」

「わああああってえええらあ。分かってるんだけんど、よおおお。」


カラン

氷が解ける音がした。


一時間後。


「ぬああああああんでえええ、女の着替えってやっちゃあああ、こおおおーもおおお、お時間があああかかるかねえええ?こんの時間がありゃあああ、朝ごはあん昼ごはあん夜ごはあんぜえええーんぶくっちまえるぜえええあああ。」

「そんなこと言わないの。男は髭沿ってスーツ着れば終わりかもしれないけど、女はその日の雰囲気に合わせて色々変えなきゃいけないんだから。化粧の時間だってあるし。」

「にしてもなあああああ?こいつあきっちいいいぜえええい。」


ドタドタドタ

ガッチャン


「お待たせしましたぁ!出来たよぉ!」

「お、出来たみたいよ。」

「やあああっとかあああいあいあい。なあんもお変わってえなかったらあ、しょおーちしんねえぞおおお?」

「大丈夫だって!ほら、おいでおいで。」


コッ、コッ

奥から見慣れない存在が姿を露にする。


「…ほぉ?」

「へぇ、まぁ、いいんじゃなぁい?」

「…へえん。」


もじもじもじ

こそばゆそうに現れた彼女は、ベージュのドレスに身を包み、ネックレスとイヤリングを下げている。イヤリングは当然、先日買ってもらったピンクゴールド&ダイヤのやつ。髪を後ろで編み込み、花のヘアアクセサリーも添えられている。はっきりと書かれた眉毛に、長いまつげとアイライン。不自然なく染められた頬は、照れの赤みだけではない。淡い赤で強調される、ぷるんとした唇。

元の面影はそのままに、個性を静かに目立たせるような装いをしている。

ソートもサカも、見違えたヒナの姿にしばし言葉を失った。


「どうママ?悪くないでしょ?」

「うんうん、立派立派、良いセンスだわねぇ。拭えないシンデレラ感はもういいとして、パーティに行くんならこのくらい決めてて良いでしょうねぇ。」

「あぁ、うんうん、良いんじゃ、なぁい?僕そういうセンス皆無だから分かんないけど、とにかく、良いと思う。」


じぃっ

サカはヒナから目を逸らさない。

一方ヒナは目を合わせられない。自分でもなかなか良いと思ってる。でも他からは、サカからはどう見えているか、気になる。だからこそ目は見れない。怖くて。


「いいんじゃあんいいんじゃあああん?ちょうとよお、金持ちのお豚をお釣れそうなあああ見た目してらあああなあああ。」

「確かに、なんかこう、逆にいい女に飽きちゃって、こういう田舎っぽい娘を狙いたがる人にまさに刺さりそうな感じがして堪らないわね。モロ遊ばれて捨てられそう。」

「身体あの穴とおいうあんなにい、何でもかんでもお突っ込みたくなるよおおおな感じしてえるよなあああ。不幸にさせたあくて堪らあああん感じがあああ漂いまくりいこのまくりいいいよおおお。」


わなわなわな

ヒナの身体が震えてくる。


「なんっでっすっかぁぁぁああああ!!!!もぉぉぉおおおお!!!!言うこと聞いてここまでしてあげたのにぃぃぃいいいい!!!!もういいですよぉ、私が汚いギラついたおじさん達にぐっちゃぐちゃにされるのを、せいぜい眺めてればいいんです!!!ふん!!!」

「こっちはそれで何も困らないんだけど。てかその覚悟出来たんだ、凄いね。やっぱ適任だよ。」

「それで、この子は立派になって、そのパーティにも参加できそうだけど、どうするの?サカちゃんは?」

「そおおおーさあああなあああ。どおおおうすっかああああなあああ。」


もじもじもーじもじもじもじ


「うぅ~、うぅぅぅ~~~」

「?ヒナさん、呻ってどうしたの?獣の本能に目覚めた?」

「やっぱりぃ…」

「ん、何?」

「やっぱりぃぃぃいいいいい、社長ぉもぉぉぉ、一緒に来てくださぁぁぁぁあああああああいよおおおおおおおお!!!!!」


ヒナ、思いの丈が飛び出る。やっぱり不安だったみたい。


「はあああ?だからあ、無理だってえいってっからあ、こおんなに悩んでえんだあああろおおおがあああ。」

「無理でも無理くりでも来てくださいよぉぉぉぉおおおおおおおおお!!!!!不っ可能ですってぇぇぇぇええええええええやっぱりぃぃぃいいいいいいいい私一人じゃぁぁぁぁあああああああああ!!!!怖くてなんにも出来ませんよぉぉぉぉおおおおおおおお!!!!一緒にいてください傍にいてください一人にぃ、しないでくださぁぁぁあああああああああああい!!!!!!」


えーん、えぇーん


「ありゃりゃ、泣いちゃった。」


周りの女性らがよしよしして慰めている。


「まあああったくう、いっつまでえ経ってもお、社長離れえでっきねえええ困ったちゃあああんだぜえええい。」

「…そうよ、そうしたらいいじゃなぁい。ね、サカちゃんも一緒に、ついていってあげなさいよ。」

「え?」

「はあああ?だからそれがあ無理だってえ…」

「無理じゃないわよ、多分。」


じろぉっ

七尾錦の目がサカを上から下まで嬲るように見る。


「サカちゃん、男の人にしてはそんなに背も高くないし、筋肉もあるけど、ボコボコ出てるわけでもないし、それに…」


ずいっ

七尾錦が顔を寄せてくる。キツイ。


「それに、あなたも負けず劣らず童顔よぉ♡最初、十代の坊やかと思っちゃったんだものぉ。」

「あ、それ私も思いました思いました!年齢の割にすっごい幼いなんですよね!顔も中身も!肌も綺麗だし!年齢に合わず!」

「…おい、おいおいおおおおおーいおいおい。マジでえ言ってんじゃあねえええだろおおおなあ。」


サカの顔から血の気が引く。珍しいことこの上なくて雪越えて槍が降ってきそうに思える。


「つ、つまり、サカが女装する、と…?」

「そ♡ゆ♡こ♡と♡サカちゃん、顔も可愛い系だし、男の子らしいとこを上手く隠せば、案外イケちゃうわよぉ。声もハスキーな感じで誤魔化せそうだし、間違い無い、私の勘がそう言ってるわぁ。」

「えぇぇぇ???!!!社長ぉの女装ぉ???!!!いいいぃぃぃーーーじゃぁぁぁああああないですかぁぁぁああああああ!!!!見たぁぁぁあああああいい!!!!社長がメスになるとこぉ、メス堕ちするとこぉ、見ぃぃぃっっったぁぁぁぁああああああああああああいい!!!!!」


ヒナが元気を取り戻す。


「ふいいいーっとお、邪魔したなあああ。帰るぜええええい。」


話を置き去りにして帰ろうとするサカ。


「ちょっとおおおお社長ぉぉぉおおおおお???!!!ズルいですよぉぉぉおおおおおおお!!!!!逃げないでくださぁぁぁぁあああああああいい!!!!!!」

「でもさぁサカ、五億、諦めるの?」


ピタッ

出て行こうとしたサカが動きを止める。


「はああああーあああん????あっきらめえるうわっきゃあああねええええーえええだろおおおがあああい。こんのおおおビッグビッグビッグライトオチャアアアンスウをお逃すほんどお、俺ちゃあんはあ玉無しじゃあああねえええいぜえええい。」

「でしょ。だったらこれも一考の余地アリ、なんじゃないの?」

「ソートさぁぁぁん!そうですよねぇぇぇええええ!!!」


ソートまでもがあっち側に着いた。サカ、孤立無援。


「おんめえええまでなあああにい言ってやがるううう。無しに決まってんだあああろおおおがあああいあいあいあーああい。」

「じゃあどうするの?他の作戦は?」

「…俺ちゃんがあ気合でえ建もおんごとおぶった切るう。」

「一番ダメだって。自分でも言ってたでしょ。勇壮抑えながらそんなことできるの?」

「…じゃあああ、ちょおっとずつう近づいてえ、すこおしずつう建もおんごとお切っていくう。」

「その間に逃げられるんだって。会場はとっても広いの。ちょっと問題起きたらすぐ逃げられちゃう。分かってるでしょ?」

「…ヒコオーキでもお墜落させたらあああ。」

「正確性に欠けるじゃん。それにそんな飛行機どこにあるの?空港をジャックする?今日明日で計画も無しに?」

「…」


サカ、黙ってしまう。現実的に考えて、それ以外の選択肢が無くなっていくことを認めたくないと思っている。

だが、それしかないのかもしれない。


「サカちゃん、潜入って線が一番である以上、そこにサカちゃんも寄っていくのが妥当じゃないのぉ?」

「時間も無いしね。五億本気で狙うんだったら、そのくらい屁でもないでしょ?」

「社長ぉ…」

「…」


皆んながサカを見ている。まるで駄々をこねているのがサカであるかのように。


「………ああ…」

「?何て?」

「………あああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ、あああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああがああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああおおおおおおおおおおおおおおおおおおあああああああああああああああああ!!!!!!!!!!!!!」


ビリビリビリビリビリィ

サカ、咆哮。

だが手加減したのか、店の窓も瓶もギリギリ割れていない。


「びっくりしたわぁ、何なのよぉ。」

「サカ?観念した?」


ぶるぶるぶるぶるぶる

サカの身体は小刻みに震えている。


「社長ぉ?おしっこですか?トイレ、あっちですよ?」


ブッチィ

サカのこめかみから血が噴き出る。


「んんんんおおおおおおおおおおおおおおーーーーーーーーーーーーーーおおおおおおおおおおお!!!!!おおおおお?おお?お?お?お?おおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおああああああああああ!!!!!!んんやああああああああああああああっっっっっっっっとうううううううううううううえええええええええええええええええええええええやあああああああああああああああんんるううううううううううううううううああああああああああああああああああああああああああ!!!!!!んぬううううううううううううううあああああああああああああああああああああああああんんどううううううえええええええええええええええええんもおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおんよおおおおおおおおおおおおおおおあああああああああああああああああ!!!!!!!五おおおおおおおおおおおおおおっっっくううううううううううううのおおおおおお前にゃあーーーーあああああーーーああああああ、ああ?あ?あ?あ?プウウウッルウウウアアアアアアアイイッドオオオオオオオオオオオなああああああああああああんかああああああああああああああ???????ああああ?ああ?あ?あ?屁のおおおおおおおおお屁えええええんんのおおおおおおおおおおおおおおおおお屁へへへへええええええええええええんんんんんんのおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおくうううううううううううううううううああああああああああああああああああっっっっっぷうううううううううううううあああああああああああああああぷうううううううううううううあああああああああああああああああああいあいあいあいあいあああああいんうううよううううううううおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!!!!女おおおおっっっっっそおおおおおおおおおーーーーおおおおーおおおだあああああんがああああああ、ぬううううあああああああああんんだああああああがああああああああああああああ知んんるううううううううううあああああああああああああああああああんぬうううううううううううううええええええええええええええええええがあああああああああああああああああああああああああああああああ!!!!!!!んんぬううううううううううううううあああああああああああああああああああんでええええええええええええむうううううううううううううおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお、おお?お?お?お?お?んんあああああああああゆううううううあああああああああああああああっっっっっっっっっっっとうううううううううううううううううあああああああああああああああああああああああああああああんるううううううううううううううううううううああああああああああああああああああああああああああああああああああがああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!!!!!!!!!!!!!」


サカ、ついに陥落。女装童貞、ついぞ散る。


「きゃぁぁぁあああああ!!!!やったぁ、やったぁぁぁああああああ!!!!社長ぉメス化確定堕ちんぼ大回てぇぇぇぇえええええん!!!!さぁさぁ、決まったなら早く早く、着替えてきてくだっさぁぁぁぁああああいねぇぇぇぇえええええ?????」


ヒナ、悪い笑顔もできます。


「よっしゃぁぁぁああああ!!!じゃあぁぁぁああんたたちぃぃぃいいい!!!!一人前の女もぉう一人ぃぃぃ!綺麗綺麗にしてあげなっさぁぁぁぁあああああい!!!!」

「「「「「はぁぁぁぁぁああああああーーーい!!!!!」」」」」


ぎゅいぎゅい

サカを圧殺するがごとく女性が取り囲んで奥へと運ぶ。


「サカちゃんの身体、堂々とまさぐれる日が来るなんて!大事なとこにキスマーク残しちゃおうかしらぁ?」

「わぁ、お肌がスベスベ、スベスベマンジュウガニだわぁ!いいなぁ、男の子でこんな綺麗なの、嫉妬しちゃう!」

「髪もさらっさらで、白が眩しいわぁ!銀髪、よね?白髪じゃないわよね、だってキューティクル凄いんだもの!」

「目もやっぱり綺麗ねぇ、紅い瞳がとってもチャーミングだわぁ、食べちゃいたいくらい!」

「ふぁっ、ふぁぁぁっ、だぁっ、抱かせろぉぉぉぉおおおおおおおおおおおおおおおおおおおああああああああ???!!!」

「じゃあああああああああああああああっっっっっかああああああああああああああしゃああああああああああああああああ!!!!!いいかあおんめえらあ、やるっからにゃあああ真剣にやれよおおおおおおあああああ????!!!!でんねえええとマアーアアジデでえ、ぶうっ殺しちゃあるかあらあああなあああああああ!!!!!」

「キャッ、怖い怖い!言われなくってもちゃんとやりますよぉーだぁ!」


ギャーギャー

キャーキャー

キィッ

ガッチャン

奥に消えて行った。


「楽しみですねぇ、社長が苦悶の表情を浮かべるの。想像しただけでご飯一升いけそうですよぉ。」

「服装とかじゃなくてそっちなんだ。性格悪いね。あと一升なんだ、三杯とかじゃなくて。つくづく恐ろしいよ。」

「ねぇあんた、名前は?」

「?あ、私ですかぁ?」

「あんたよ。名前、教えなさいよ。」

「吉原、ヒナです。」

「ヒナ、ヒナちゃんね。そう…」


七尾錦はどこか遠い目をしている。


「な、なんです?どうしたんですか?」

「…あんた、大事にされてるわね。」

「…へぇぇぇえええええあああああああっ???!!!」

「なぁに、その気の抜けた声。やめてよ。」

「大事に?されてる?この私が、あの社長に?」

「そうよ、気づかないの?」

「大事に、そうかぁ、大事に…」


ちょっと目を閉じて考えてみる。すると瞼に浮かんでくる、この一月、サカと共に過ごした日々が。

前の会社で部長をぶち殺したあの日、殺人現場の清掃を始めたあの日、バイクのボロいところに乗せられて駆け回り、暴走列車で大泣きしたあの日、セクハラ性欲大権化ジジイに迫られた…のは関係無いか、それと芸術家ババアのとこで老若男女解放して怒られたあの日、イヤリングを買ってもらったあの日、ついでに麻酔銃で撃っちゃって東京中追いかけまわされたあの日…


「…??????」


やっぱり見合わない。大事にしてもらった記憶がイヤリングぐらいしかない。それを大きく上回るほどの死にかけた思い出。


「大事に、されてるんですかねぇ?色んなところに連れ回されては、危険な目に遭って、どうにかこうにか生きてるとしか、思えないんですけど…?」

「それが大事にされてるって思える人間もいるのよ、馬鹿ね。」

「は、はぁ…」


七尾錦とヒナ。どこか噛み合わない組み合わせだった。


また一時間くらいして。


「おっそぉぉぉいでっすねぇぇぇ。なぁぁぁーにをそんな迷うことがあるんだかぁ。きっとアレですよ、社長が『そおおおんなあああけえったあいなもおん着れえっかあよおおお。ほっかにしろおおおい、ほっかあああ』とか何とか言って、無駄に時間かけてるんですよ!もう、待ってる人がいること考えてほしいですよね!」

「驚いた。似たもの同士なのね。」

「えぇ、だから仕事にもついていけるし、サカも自然と傍に置いてあげてるのかも。」

「ね、そうよね。でも怖いわぁ、ネジが外れた人多くなるの。サカちゃん一人だと愛嬌で何とかなるけど、それが段々増えてくると恐怖に変わっていくものよねぇ。」

「分かります、すっごい分かります。」


勝手に七尾錦とソートの仲が深まっていた。


ガッチャァァァン


「出来た!出来たよぉ!凄いよぉ!これは!」


ドアが開いた。奥からゾロゾロと女性たちが出てくる。その顔はどれも、失笑を我慢しているように見える。


「来た来た!お待ちかねですねぇ、さぁ何が出てくるのか…?」


ドキドキ、ワクワク


カッカッカッ

カッ

何の躊躇いも無くその存在は、さっさと明かりの下に歩いてきた。


「…」

「…」

「…」


三者、無言。


「…」


周りも無言。悠久の時が流れたかのように思えた。

その沈黙を破ったのは、やはりこの男。


「…何かあ言えよい。」


その発言が皮切りになって、


ぷっ

ぷぷぷっ

ぶわぁぁぁぁあああああああああああっっっはぁぁぁぁああああああああああああっっっっっはぁぁぁぁああああああああああああああああっっっっっはぁぁぁぁああああああああああああああああ!!!!!!

爆笑の輪が一気に広がった。スナックが笑顔で溢れる。


「なぁぁぁぁあああああああああんですかぁぁぁぁああああああああああああそぉぉぉおおおおおおっっっれぇぇぇぇぇえええええええええええええ?????!!!!!いいいぃぃぃんやぁぁぁぁあああああああ、いいいいぃぃぃーーーーいいいじゃぁぁぁああああ、なぁぁぁぁあああいでぇぇぇえええええすっかぁぁぁぁぁあああああああ????!!!!ぶふぉっ、ふふぅっ、サカ子ちゃぁん、似合ってますよぉぉぉおおおおおおおおおおおおおおおwwwwwwwwwwwwwwww」


ソート、マイクオフ。


カシャシャシャシャシャシャシャシャ

シャッター音だけが永続的に聞こえる。


「ちょ、ちょっとソートちゃあん、その写真、後で送ってちょうだいねぇ。うふふっ、引き延ばしてカウンターに、飾るんだかっ、らぁwwwwww」


ソート、マイクオン。


「えぇ、それはもうwww好きに飾っちゃってください、あはっ、あはははははwwwwww」


きゃははははは

あっははははは


わな

わなわなわな

わなわなわなわなわなわなわなわなわなわなわなわなわなわなわなわなわなわな


ブッチィィィ

今度は反対のこめかみが切れた。


「やああああああああああああああああああめええええええええええええええええええっっっっっっっっっだあああああああああああああああああああああああああああああああ!!!!!!!!!!!!!こおおおおおおおおおおおおおおおおおんんなああああああああクッッッッッッッッッソオオオオオオオオオオオオみいいいっっってえええええええええええええええええなあああああああああああああああさああああっくううううううすううううううううううええええええええええええええええんん、だあああああああああああああああああれええええええええええええええええええええええがああああああああああああああああやあああああああああっっっっっっっっっっかあああああああああああああああああああよおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!!!!!!!そおおおおおおおおおおおおんでええええええええええええええ、てええええええええええええんめえええええええええええええええええらああああああああああああああああああああああああああああああああああああああおおおおおおおおおおおおおおおがあああああああああああああああああああああああ!!!!!!!わああああああるううううううううああああああああああああああああああっっっっっっってええええええええええええええええんじゃああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああっっっ、ぬううううううううううえええええええええええええええええええええええあああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!!!!!!!!!」


ガッダァァァァアアアアアアアアン

サカ、ついに暴れる、あられもない姿で。


「これで一緒にパーティ行けますねぇ、社長ぉ!素敵な夜に、しましょうねwww」

「くっっっさあああああああああああ生やああああああしてえええええええええええんじゃああああああああああああああねええええええええええええええええだああああああああああああああああああああああああああああがああああああああああああああああああああおおおおおああああああ!!!!!!!!」

「ちょっとちょっとぉ、お店壊さないでよぉw」

「まずいよサカ、まずいってw」

「ああああああああああああんぎゃああああああああああああああああああああああああああああああああおおおおおおおおおおお!!!!!!!!」


一体サカはどんな姿になったのか。

それで実際にパーティに潜入できるのか。

果たして五億の行方やいかに。

次回に続く。

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