9.不穏はいつもその時が来ないと自覚できないからタチが悪い。

そんなこんなで買い物ショッピングの続き。

まずは和菓子屋に向かう。


「そこの店の親父がなあああ、ちょおいちょおいいいーいいい味出すのよおおおーうおう。めえっさあ美味いっちぇえわけじゃあねえええけんどお、癖になある味っというかあ、みょおおおにたまるあん味をしてえるんよなあああ。人気はあねえええけんどおおお、ちょおーくちょおーくう買いに来てやってんだってんさあああ。」

「社長って結構好き者なんですねぇ。わざわざこんな辺鄙なとこでお菓子買うなんて。」

「ね。それに和菓子なんて値段で差が出そうなものだけど。一流なんじゃなくて、味が分かんないだけじゃないの?貧乏性なの?」

「どうううああああああむあああああああああるうううううえええええええええええええいいいいいいああああ???たっけえもんしか価値があんぬううううええええええええっとお思ってらあああやつらあああに食わすう菓子はあああぬうええええぞおおおおおお?」

「はいはいごめんて。あ、そこが和菓子屋?」

「みたいですけど、あれ?」

「んんーんんん?」


ズラァァァァン

ショッピングモールの端にあった小さな和菓子屋は、それに似つかわしくないくらい長蛇の列ができていた。


「うっわぁ、凄い人ですねぇ。なんだ、人気店なんじゃないですかぁ。」

「いいいんやあーあああ?こんなあに人が並んだこたあいっちどたりとてねええーえはずだぜあああ?なんじゃこらあああ?」

「ん、なんか店頭にのぼりが立ってるよ。どれどれ…」


『閉店売り尽くしセール』


「…だってさ…」

「ッッッッッッッッハアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアッッッッッッハアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアン???へ、へい、へいってえんだあ、とおおおおおおおおああああああああああ?????」


サカ、珍しく取り乱す。


「びっっっくりしたぁ。もう、大声止めてってば。」

「???どおーいうーこったあ?この俺ちゃあんがあ?買いに来てやってんのにい?へいってえええん、だああああああ???」


ダダッ

列を無視して店頭へと走る。


「あ、ちょっと社長ぉ!列には並ばないと!怖い目で見られてますよぉ!」

「うっっっっっすうううええええええ!!!!おおい親父い!!!どおしたんさあああああこりゃああああ!!!!」


サカが呼びかけると、


ひょこ、ひょこ

小柄で白の調理服に身を包んだ優しそうなジジイが顔を出した。


「あぁ、あんたかい。やっぱり今日も来てくれたのかい、嬉しいねぇ。」

「嬉しいもくそもおあるかあーあああよお。なんでえいこりゃあああ。」

「これかい?見ての通りだよ。今日付けでここを閉めることにしたのさ。ちょっと寂しいがね。」

「にしてもお…なんだってえこんなあ…」


サカの語気が弱まる。いくばくかショックを受けているようだ。


「まぁねぇ、前から経営自体厳しかったんだよ。あんたがたびたびどさっと買いに来てくれるとはいってもね。ここも治安がだんだん悪くなってきて、万引きやら強盗やらにぼちぼち遭ってねぇ。」

「そんなもんよお、警察にチクるかあ、それか傭兵でも雇ええばいいいーいじゃあねえかあ。」

「何を冗談を…それにね、もうキツいのよ、身体がね。婆さんがいなくなってから、一人で老体に鞭打って、日も明けないうちから仕込みやら何やらやってたんだけど…もう医者にも散々止めろって言われてるし、ここらが潮時かなって思うんだ。」

「身体、ねえ。まあ、そいつばかあしはあしょうがあああねえええかんもなあ…」

「そうそう。だから、ね。せめて最後くらいは商品の廃棄ゼロにしようと思って、赤字になっても全部売ろうとこんなことしてるんだよ。あ、そうそう、きっとあんたが来ると思って、とっといたのがあるんだ。」


ジジイはちょっと引っ込んだ後、大きな紙袋を持って現れた。


「はいこれ。」

「おおおい、こりゃあ…」

「うん、うちの菓子の詰め合わせ、アソートだよ。お金はいいから、持ってってくれ。」

「はあん、むうりいにい横文字やあつっかわなくてえええーえええんだあああよう。金はいらないだあああ?そんなわきゃああああいかねえええだろがあああい。」

「いいから。年寄りの恩だよ。大人しく受け取りな。」

「…わあああーったあよ。」


ガサッ

大人しく受け取る。それを見て、ジジイは満足そうに微笑む。


「…ああーあああ足があ滑ったあああ!」


スカァン

サカが唐突に、店頭のショーケースにちょびっと蹴りを入れた。ちょっと傷がついて凹んでしまった。


「あんりゃあああ、こおーりゃあいけねえええなああああ。こおんなあ高級品をお傷つけちまあってえよおおお。こんりゃあああべべべ弁っしょおおおしなっきゃああああいっけねええええなああああ。ううん、まちがいにゃあああい。」

「あ、あんた、何を…」

「っつうーことでえ、ほおらあよ。」


ポイッ

ジジイ目掛けて何かを投げた。


「わわっ、とお…えぇ?!」


ジジイがキャッチしたそれは、百万円の札束。


「ちょっと、困るって…!」

「いっしゃりょおーおおもこみこみでえええい。そおれで勘弁してくだせえええ、なあああ?」


じいっ

真剣な目、紅い瞳が真っ直ぐジジイを捉える。


「…全くもう…返さんぞ?」

「勝手えええにしろおおおおい。手向けえの香でえんもお含めてってことでえええ。」

「馬鹿にしおって!まだ生きるわい。」

「そんじゃあまあ、後はしっかりやれえええい。」


ザッザッザッ

ジジイを背にして歩き去る。


「あんたもな、元気で。」


ザッザッザッ

サカは振り返らない。


「…ちょっと、ちょっと!いつまで話してんの!もう!」


いい加減、列に並んでたおばちゃん達が切れ始めた。


「あ、はいはい!すみませんお待たせして!」

「お待たせもどうもこうもじゃないわよ!私らの貴重な時間を無駄にしやがって!許せないわよ!」

「すみませんすみません、で、どれにします?」

「それにさぁ、さっきの人に、あんた、タダで渡してたわよね?なによ、ズルじゃない!どうせ閉店するんなら、全部タダにしなさいよ!」

「えぇ?でも、お金は結局貰ったというか、全部タダにするのはちょっと…あの人は常連で、恩もありましたから…」

「しぃぃぃぃぃっっっっっっるぅぅぅぁぁぁぁぁああああああああああああああああんんぬぅぅぅぅぅぅぇぇぇぇぇぇぇええええええええええよおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおあああああああああああああああああああああ!!!!!!!んどぅぅぅぁぁぁあああああああああああああっっっっっとぅぅぅぅうううううううあああああああああああああああああっっっっっっるぅぅぅぅぅうううううううあああああああああああああああああっっっっっ!!!!!んんんぬぅぅぅぅぅううううううううううああああああああああああああにぃぃぃぃいいいいいいいいああああああああ??????!!!!!!ああああっっっっとぅぅぅううううううううしぃぃぃいいいいいいいるるぅぅぅううううううああああああああああにゃーーーーーああああああああーああああああああああ、おおおおおおんんがぁぁぁぁああああああああああああああ、んぬぅぅぅうううううううううううああああああああああああああああああああいいいいっっっっっっっっとぅぅぅうううううううえええええええええええええええゆゆゆぅぅぅぅぅぅぅううううううううううううううーーーーーうううううううううっっっ、んぬぅぅぅぅううううううううううおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおあああああああおおおおおおおおお??????!!!!!!」

「い、いえ、そりゃあ皆さんありがたいとは思ってるのですが…」

「っっっすぅぅぅうううううううおおおおおおおおおおおおうううううおうおうおうおううううおおおううううどぅぅぅぅううううううええええええっっっっっっすぅぅぅうううううううおおおおおおおおおおおおおおおおお??????!!!!!!!ドゥゥゥううウウウウああああアアアアアアッッッッッッとぅぅぅううううううあああああああああああああああああああああるるぅぅぅううううううううあああああああああああああああああああああがああああああああああ!!!!!!ぜぇぇぇんぶううう、ずぅぅぅぅうううううううううううううううえええええええええええええんんんびぃぃぃううううううううううううううう、トゥゥゥウウウウウウアアアアアアッッッッッッドゥゥゥウウウウウアアアアアアアアアアんよぉぉぉぉおおおおおおおおおおおおおおおおおおおんぬぅぅぅうううううううううううううええええええええええええええええええええええええええあああああああああ??????!!!!!!」

「いや…それは…」

「皆んなぁぁぁぁあああああああああ!!!!今っからぁぁぁぁあああああ、こっこぉぉぉのお商品、ぜぇぇぇぇええええんぶぅタダだってよぉぉぉおおおおおおおお!!!!!刈り取れぇぇぇぇえええええええええ!!!!!奪いつくせぇぇぇええええええええええ!!!!!」


ィィィイイイイイイヤアアアアッハアッハアッハアアアアアアアアアアアア!!!

ババア共が列を崩して店に雪崩れ込んでくる。


「あれこれもそれもぜぇぇぇんぶう私のものよぉぉぉおおおおおおお!!!!日持ちするなんて知らぁぁぁん、どうっせぇタダなんだからぁぁぁあああああ!!!余ったら捨てりゃあああいいーいいいのおおんよぉぉぉおおおおおおおお!!!!」

「それにそれにそれにぃぃぃいいい???!!!店のもの全部タダってことはぁぁぁああああ???!!!とぉーぜん、レジもタダよねぇぇぇえええええ???!!!ヒャッハァァァアアアアアア!!!!ぶっ壊してぇ金ぜぇーんぶ吸い取ったらぁぁぁぁあああああああ!!!!!」

「そんじゃああたしはぁ、奥の機械もらってくわねぇぇぇえええええええ!!!!何に使うかも分からん屑鉄だけんどぉぉぉおおおおお!!!!鐚金くらいにはなるでっしょぉぉぉおおおおおおおおおおお!!!!!」

「皆さん落ち着いて…ひゃぁぁぁ!」


ジジイの静止虚しく、店内で暴れ狂う。


ガシャァーン

ズシャァーン


ザッザッザッ

ザッ…

くるっ

紅い瞳がこちらを向く。


ズゥッ

ズオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ

辺りに悪寒が満ちる。


「「「「「?!」」」」」

ババア共も思わず動けなくなってしまう。


はっ

サカの口が開く。


「並べや。」


ズラァッ

均等な間隔で一列に並んだババア共は、ゆっくり落ち着いて買い物を楽しんだ。


「…これと…これと…それからそっちも…くださぁい…」

「はい、毎度ありがとうございます!」

「…いえ、こっちこそ…すんませんでしたぁ…」


閉店間際、お客が段々とはけていく。ジジイの顔は、やりがいと感謝が滲み出てたように思えた。


「へえん。」


ザッザッザッ

今度こそ去った。これっきり、ジジイと再会することは無かった。


「潰れちゃうのは悲しいけど、仕方ないよ。元気出して。」

「はあああああーああああんあんあんあああんあんあああん???俺ちゃあんのどっこがあ元気無さあげに見えるううう???」

「そんなに気にしてないみたいですね、良かった良かったぁ。」


ケッ

「んっなああああこっとおよりむおおおおお、おんめえらあよお、買うもおん決まったあんかああああ???」

「あぁー!反故にされちゃうかと思いましたよぉ!五十万円、ですもんねぇ!いやぁー何にしようかなぁ?金券とか?」

「せっかくなら自分で買わないものにしたら?アクセサリーとかジュエリーとか、ヒナさん全然持ってないでしょ?この機会にいいもん買ってもらったら?」

「え…?そういうのでも、いいんですかぁ…?」

「勝手にしろってえゆうってるうだろおがあいやあ。」

「じゃ、じゃあ、ジュエリーで、お願いがあるんですけど、社長ぉ…」


もじもじもーじもじもじもじ

急にヒナがしおらしくなった。


「んなんだあああきんもちわりいいい。さっさと言えええ。」

「じゃあ、じゃあ…!私とペアリング、作ってくださぁぁぁぁぁああああああい!!!」


スタスタスタ


「ジュエリイってどこにあんだかなあああ。二階だっけかあああ?」

「そこの案内板見ようよ。適当なところがあるでしょ。」

「ねぇぇぇぇえええええ!!!!私の愛の告白をぉぉぉおおおおおお、無視しないでくだっさぁぁぁああああい!!!!」


スタスタスタ


それからかくして一時間後。

一行はショッピングモールの外に出ていた。


「~~~♪」


チャリ、チャリン

ヒナの両耳たぶに、ピンクゴールドとダイヤで拵えた、小さくも高級そうなイヤリングが下がっていた。

先ほど適当なジュエリーショップにて。


「ペアリングにしましょうよぉぉぉおおおおおおおお!!!!!!」

「んだああああああああああああ!!!!!鬱陶しやああああああああああああああああ!!!!!そおんな我儘ゆーうううう子にんはあ、なあああんにもお買ってえあげまっすうううううええええええええん!!!!!」

「成人男性女性のやり取りかねこれが。」


若干の押し問答があった後、サカの激しい抵抗とソートの慧眼により、ヒナには一点物のイヤリングを贈ることで各方面合意した。


「ったあああくう、現金キャッシュなやっちいにもおほんどがあるぜえい。けえーきょくう、高けれゃーあああ、なあんでもいいんじゃあねえええかあああ。」

「その分扱いやすくていいじゃない。僕も満足してるよ、いろいろ買ってもらって。」

「おんめえええはなあああんも面白っくうううねえええんだよおお。」


ソートが選んだのは家電。冷蔵庫やら電気ケトルやらのそこそこ高級モデルをいくつか選んだ。


「そりゃ仕事で使うもんとかは自分で良いの買うからね。痒い所に手が届くようなものを買うのが一番なの。堅実的でしょ?」

「堅実っちゃあああなあああ。リスクを取れねえやっちゃあのお言い訳えにもおなりえるんだあああぜえええ?まあ、いいーいけんどよお。」

「ねぇー?!社長ぉー?!これからどうするんですかぁー?!解散ですかぁー?!解散なら私はさっさと家に帰って、このイヤリングの温もりを感じながら寝たいんですけどぉー?!」

「寝る時は流石に外した方がいいよ。耳が腐っちゃう。」

「んんんいやあーあああ、もおおおーう一件だけえ、ちょいと違うとこにい寄ろうとお、あ思うぜえええいえいえい。」

「あ、まだ行くんだ。」

「どこにですかぁ?」

「高田馬場だあああよ。」

「高田馬場、か。」

「…え?」


眩しかったヒナの顔が一瞬で暗くなる。


東京、高田馬場。


『大川地工務店』


「やっぱりここだぁぁぁぁあああああああああああああああ!!!!!!もう嫌ぁぁぁぁあああああああああああああああああああ!!!!せっかくの思ひ出がぁぁぁぁぁあああああああああ最悪なジジイに上書きされちゃううううううううううう!!!!!!」

「いつまでもおもおんく言わないのおーう。さあっと手短あにい、ジジイ起こすぜええええい。」


グッ

グググググググッ

バットを逆手に持ち、先を奥の引き戸に向けて振りかぶり、


「ほいっとお。」


シュパァッ

ズゥドォグワァァァッッッシュァァァアアアアアアン!

放たれたバットは引き戸を貫通して虚空に飲まれ、またその衝撃で扉やらガラスやら机やら椅子やらが全部吹き飛んだ。


パラパラ、パラ…

シィーン


「あーあ、死んだんじゃないの?大川地さん。」

「死んじゃあいねえええよおおお。たぶうん。七割くらあい生きてるぜえええ。」

「その三割引けたら最高…!こい、確定演出こぉぉぉい!」


奥の部屋に注目が集まる。

やがて、


ぬうううっ

バンダナ白髪が顔を出した。


「すり抜けたぁぁぁぁぁあああああああああああああああああ!!!!!!嫌ぁぁぁぁぁああああああああああああああああああああ!!!!!!もう無理ぃぃぃいいいいいいいいい!!!!!!このガチャ信用できなぁぁぁぁああああああああああいい!!!!!」


ずん、ずん

ジジイは片手にバットを持ちながら、元気そうに近づいてくる。


「あんっなぁ、クソガキちゃあん。もっとさぁ、ふっつーに、オーソドックスに、起こしてあげようとか、思わないワケェ?辰五郎ちゃんのタフさが無かったら、今頃お陀仏よぉ?」

「ジジイイイにゃーあああ、そおんくらいエキゾチックウなあ方があいいーいんだあああよ。心臓も飛び起きたろおおお?」

「ふん、生意気言いやがって。むかつくんよ。」


ポイッ

パシッ

バットを投げて寄越した。


「んでぇ?こぉんな大惨事を起こしてまでぇ、辰五郎を起こしたんだからにゃあ、よぉーぽっど大事な用があるんだよなぁ?そうに違いないよなぁ?そうじゃなかったら怒られても仕方ないよなぁ?」

「まあああよ。まずはこいつだあ、ほおれ。」


ゴソゴソ

ポォイ

バサバサバサッ

札束をいくつかジジイに投げた。


「おうっとお…六百かぁ。随分物分かりがいいじゃん?前持ち逃げしやがった分、利子付けて払うとはなぁ?」

「利子もあらあああーがあ、そんだけじゃあねえ。こいっつうに合う武器い、テキトオーにい見い繕いやがれえい。」


ちょいちょい

サカが指でヒナを示す。


「えぇぇぇええええ?!私、私に武器、ですかぁ?!な、なんで…」

「何でもくそもべそもあるかあああいやあ。護身用のがあああいるだろうがあああい。玩具で飛んでるソートたあ違ってえ、おんめえはあ生身フレッシュなんだからあああん、俺ちゃあんが守ってやる気も無いしいいい、てんめえの身体はてんめえが守るんだああああよおおおーう。」

「玩具じゃないし、高性能集約型ドローンだし。」

「武器、武器ですかぁ…?えぇ…?」


恐る恐るヒナが大川地と目を合わせる。


「おぉー?!そっかぁ、ヒナちゃん武器が欲しいのかぁ!いいよぉ、あげちゃうあげちゃう!」


ほっ

ヒナ、安堵。


「良かったぁ、じゃあ…」

「でもまずは、ねぇ?」


がっし

肩を掴まれる。デジャヴ。


「ひっげぇぇぇぇえええええ?!」

「辰五郎の股間についてる武器はそれはもう立派よ?いつでもヒナちゃんを守ってあげられるくらい。でもさぁ?武器を使う前ってぇ、メンテナンスと装填が必要じゃあん?だから今晩はぁ、ヒナちゃんとゆぅーっくりぃ、熱く蕩けるくらいの準備しようかなって、ねぇ?じゃあ、奥の部屋いこっか!」

「またじゃぁぁぁぁああああああああああああん!!!!!もう嫌ぁぁぁぁああああああああああああ!!!助けてツダケェェェェエエエエエン!!!!カジサックゥゥゥウウウウウウウウウウ!!!!」

「大丈夫だから!優しくするから!先っちょだけだから!あとカジサックって梶裕貴のことじゃないからね?他にいるからね?そこもじっくり、教えてあげちゃうねぇぇぇ!!!」


ダンダン

サカが足を鳴らす。


「おい、ジジイ。」

「その辺で、大川地さん。」

「ちぇっ、わぁーったよぉ、もぉーう。」

「もう、私の貞操、本当にどうなるのぉ…?こんなに軽々しく扱っちゃあいけないんだからぁ…」


さめざめべそをかきながら、奥の部屋に向かった。

作業場。


「どぉーんなのが欲しいんだぁ?色々あるよぉ、光線銃とかぁ、毒鎌とかぁ、バイブとかぁ、三節棍とかぁ、バイブとかぁ、モーニングスターとかシャイニングスターとかぁ、バイブとかぁ、人を殺すのいーっぱい!」

「人殺しはちょっと、嫌ですぅ。その一線だけは越えないようにしてきましたからぁ。」

「それえにい、こんなあにそおんな度胸も豊胸もおねええええよおおお。もっとお軽くてえ、殺傷能力もおないけれどお、でもでも相手を無力できるう、そおんなやつう、寄越せやあああ。」

「だからまだ成長期なんですってぇ!これからどんどん大きくなるんですからぁ!絶対に揉ませてあげないですからねぇ!ふん!」

「気にすんなぁヒナちゃん!胸の大きさなんて関係ねぇ、大事なのは男のアレを受け入れる勇気と情熱とプッシーがあるかどうかよぉ!お、いいのあったあった、これはどうだぁい?」


ジジイが取り出したのは、片手に収まりそうな小型の銃。一見すると玩具にしか見えないが、何やら液体を入れるタンクが付いていて、発射口は長めのノズルになっている。注射器のように見えなくもない。


「何ですか、これ?」

「名付けて『辰五郎睡眠姦☆スペシャルライセンス☆セックス・ピストルズ』よぉ!どうだぁい?キュートだろぉ?」

「なるほど麻酔銃ですか。」

「麻酔なんたあああ、きっくもんかああああ?」

「ばっかにすんでねぇい、この睡眠薬が塗られた麻酔針に当たっちゃうとぉ、象をも多分一時間眠らせるし多分、人間ならギリ即死するかどうかのレベルの強烈なやつよぉ!それがこのタンク一杯で三十発は撃てる!ま、ヒナちゃん持ってみ?」


大川地から受け取る。


「へぇ…」


見た目より軽く、ヒナの手でもしっかり握れるし、持ちやすい。


「このくらいなら、なんとか使えそうですぅ!」

「んでえ、実せえーに効くかあだよなああああ。ジジイで試してみたらあどおうだあああ?」

「そうですね、そうしましょっか。」

「待て待て待て待てって、ねぇ。ジジイにそんなごっつい薬入れたら死んじゃうよ?ぽっくりいっちゃうよ?実験用のマウスかなんかいないか探すから待ってって。」

「それにしても、ちゃんと銃の形してるんだね。引き金、ちゃんと引ける?」

「そうですね、結構、あれ、固いかも?うんしょっと。」


カチッ

ピャァッ

なんか出ちゃった。


ドスッ

サカの首筋にクリーンヒット。


「んあああ?…あーああ…」


べっしゃあ

サカが倒れ込んだ。


「「「…」」」


静寂の時が流れる。


「…どういうこと?解説求む…」

「…いやあの、引き金がどれくらい固いかなって、撃つつもりはなくて、それでちょっと押し込んだだけで、ピャッと…」

「…フェザータッチにしてたからね、ちょっと押すだけで発射しちゃうんだぁ…」


シーン

サカは倒れたまま動かない。


「…どうすんの?これ?…」

「…いやこのクソガキのことだから、絶対に死んでない、ただ寝てるだけだと思うけど…」

「…起きたら殺されますよね、私…?」

「…殺されるだけで済めばいいけど…」

「…ヒナちゃんのご家族まで鏖に遭うかもなぁ…気の毒に…」

「…?!い、嫌、嫌ですよぉ、そんなの…?!」

「…でもありえちゃうからねぇ…」


ピクッ

ビクビクッ


「あれ、動いた?」

「嘘、もう起きちゃいますぅ?」

「早過ぎんか?十秒くらいだぞ、まだ。」


ビクビクビクッ

ガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガ

サカの身体が小刻みに震え出した。


「うっわぁ?!なんだこりゃ?寝相?イビキ?」

「こんなんで寝れてんのかぁ?どうなってんだぁこいつぁ?」

「え、もう起きますよね、起きちゃいますよねぇ?!」

「うん多分。」

「そうだなぁ。」

「じゃ、じゃあ、私逃げまぁぁぁああああす!!!お疲れサマンサタバサァァァアアアアアアアアア!!!!ソートさぁぁぁあああん代わりに退勤切っといてくだっさぁぁぁぁぁああああああああああああい!!!!!」


ドッ

ヒュゥゥゥウウウウウウウウウン

キラーン

あっという間に姿が見えなくなった。


「は?足はっや…」

「ヒナさん、足の速さだけはサカに並びますから。」


ガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガ

ぱちくり

目が開いた。


ガバァッ

そのまま身体が跳ね上がり、


くるくるくるっ

宙返りして、


ズドォォォン

着地。


「…」

起き上がったサカは、天井を見つめている。


「…サカ?大丈夫?」

「…?お?おお?大丈夫っちゃあああ大丈夫うだあああぜえええい。ちいっとばかしいまどろおんじまったああみてえーだなあ。お陰でえ、いいーいいい夢見れたぜえい。」

「…あれでまどろんで済むのか、流石だな、ハハハ。」

「ハハハ、そうですよね、ハハハ。」

「全くでえああああい、ハハハハハハァー」


ハッハッハッハッハッハッハッハッ


「で、だ。」

「で?」


ぐりぃんっ

サカの目ン玉に血管が浮き出る。


ヒナクソどこよ?」

「…さぁ…」

「…知らんなぁ…」


一方その頃。


ダダダダダッ

ヒナは遠くの路地裏まで逃げ込んでいた。


はぁ、はぁ


「ここまで逃げれば一旦はいいかなぁ。はぁー、つっかれたぁぁぁ。」


地面に座り込む。


「もう、どうしてこうなっちゃったんだろ…私が、悪いのかなぁ…?」


チャリ…

今日買ってもらったイヤリングを触る。綺麗だし、既にお気に入り。

だったのだが。


「社長ぉ…」


ジリリリリリリリリリリィン

ジリリリリリリリリリリィン


「?!はっ?!この黒電話の音は、きっと私の携帯の着信音に違いない!え、誰から?!」


『ソートさん』


「ソートさん?でも、きっと社長も傍にいるだろうし、出ていいのかなぁ…?」


ジリリリリリリリリリリィン

黒電話が急かしてるように聞こえる。


「えぇい、私はママよ!」


ピッ

電話に出る。


「もしもぉし?!ソートさんですかぁ?!何ですかぁ私を捕まえに来たんですかぁ?!」

「いやいや違うって。今どこにいるの?」

「ほらぁぁぁぁ!居場所を社長に伝えるんじゃないですかぁぁぁ!」

「まぁ、サカに言われて電話してるのは本当だけど、でも心配してるよ?サカが。」

「え…心配…?」


トクン

心臓に不整脈が起こる。


「そう、心配。」

「あの、社長は…?大丈夫だったんですか…?」

「ピンピンしてるよ。大川地さんと仕事の話してる。あれくらい何とも思ってないって。」

「本当ですかぁ?いや、元気なのは本当なんでしょうけど…何とも思ってないのは…」

「ホントホント…え、何?サカ、自分で話す?いいよ、転送するね。」

「え、え?!社長に?!いやちょっと、ソートさん…」


ツー、ツー

トゥルルルルルル

電話の転送音がする。


ごくり

生唾を飲み込む。


カッチャ

繋がった。


「…おおおーう。」


びっくぅぅぅ

全身の毛が逆立つ。サカだけに。

そんなことはともかく、言葉が出てこない。きっと怒ってる。何て言うのが正解なんだろう?何も、分からない。


「まあああ、怒ってねえわきゃあああねえええわなあああ。」


ひゅっ

やっぱり、怒ってるんだ。全身から力が抜けていってしまう。


「でもなあああ?こおんくらあい普通だべやあああ。俺ちゃんはあ社長でえ、おめえええは社員だからあああ、失敗をお受け止めてやるのがあああ、シャッチョサンとしてえのお器だろおおおがあああい。」


ふっ

抜けた力が少し、戻ってくる感じがした。

あなたは社長で、私は社員。許してくれるの?本当に?


「…麻酔、撃っちゃったんですよ?社長に?許してくれるんですか?」

「あああんなあ、あんなあちいこいせせこまあい玩具でなあああ、俺ちゃあんのヘッルシイーな身体をお、害せるわっきゃあああねえええだろがあああい。そんくらあい分かんだあろおう?」

「そうですけど、でも…申し訳なくて…」

「だあーくわあーるあー、言ってんじゃあねえかあ。社員の失敗をおいっちいちいっちいちい、咎める社長があるもんかあああよおおお。何ともねえええんだあああよ、あんくらあああい。蚊に刺される方があようっぽどお不快だわなあああああ。」


ふふっ

ついつい笑ってしまう。何となく気遣ってくれるのが分かる。胸のわだかまりが少しずつ解けていく。


「そう、ですか。良かったです。逃げちゃって、ごめんなさい。」

「ったあああっくうよお、逃げるなんてえめんでえいことしやがってえええよおおお。そんなことしなくたあってえいいのによおおお。それに、なあ?イヤアリングウ、買ってやったあろお?」

「はい、はい、これ、綺麗です。ありがとうございます。」

「そんだけなあああ、おんめえにはきたあいしてんだわあああ。これからもお、ようやってくれえってえ気持ちを込めてなあああ。」

「え…期待…?」


トクントクン

不整脈が激しくなる。


「そおーうだあああ、ようやってるたあ思うぜえええ?俺ちゃあんのピーキーなあ仕事にゃあついてくるうなんてえ、誰にもおできるこったあじゃあねえ。ソートはあ、生身じゃあねえええしなあああ。」

「悪かったね。」


ソートが一瞬だけカットイン。


「いえ、そんな、必死に付いていってるだけで…」

「それでいいーいいいのよさあああ。入社したばあっかの新人にいいい、付いてくる以上のことを求めちゃある会社あの方があ腐りも腐ってんのよおおおーう。なあ、ヒナア?」

「はい?」

「おんめえはあ十分、よおーうやってらあああなあ。自信もてえええい。」


ずびっ

いつの間にか鼻が垂れてきてた。なんとか啜り込む。目頭も熱い。抑えて、抑えて。


「は、はいっ、自信、持ちます、自信たっぷりです。」

「おおおーう。しっかりなあああ。そんのイヤアリングウに誓えよおおおう。」

「はい、誓い、誓います!」


イヤリングを触る。すっかり熱くなっていた。


「…でもなあ?イヤアリングウはあ、ちいっーとお、しっぺえしたかんもしんねええええはなあああ?」

「え?失敗?何でですか?」

「いやあ?もおおおっとお、適したもんがあったような気がしてええええなあああ?」

「?何です?」

「そりゃあ、なあ…」


少し溜めてから、


「胸パッドオ、とかあ。」


ブッチィィィ


「だぁぁぁぁぁぁぁぁああああああああああああっっっっっくぅぅぅううううううううあああああああああああっっっっっっるぅぅぅうううううううううううあああああああああああああああああああああああああああがああああああああああああああああああ!!!!!んんむぅぅぅううううああああああああああああどぅぅぅうううううああああああああああああむぅぅぅぅうううううううううああああああああああああああどぅぅぅっっっううううううううううううううああああああああああああああああああああっっっ、すぅぅぅううううええええええええいいいいいいいいいいちょぉぉぉぉおおおおおおおおおおおおおおおおおううううちぃぃぃいいいいゆぅぅぅぅうううううううううううううううううううううっっっとぅぅぅぅぇぇぇぇえええええええええええええええええええええええええええあああああっっっっっ、いいいいいぃぃぃぃぃぃいいいいいいいいいいいいいいいっっっっっっっっとぅぅぅぅぅうううううううううううううえええええええええええええええええええんんどぅぅぅぅううううううううううううううううううえええええええええええええええええええええええええしぃぃぃぃぃいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいゆぅぅぅぅぅうううううううううううううおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお、おおおおおおおおおおおぐぅぅぅううううううううううううああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああっっっっっっっ!!!!!!!!!!ずぅぅぅううううううううええええええええええええっっっっとぅぅぅううううううううああああああああああああいい、ずぅぅぅぅぇぇぇぇぇええええええええええええええええええええええええええええっっっっっっっとぅぅぅぅううううううううああああああああああああああいいいいにぃぃぃぃぃいいいいいいいいっっっ、揉ぉぉぉおおおおおおおおおおむぅぅぅぅううううううううううううああああああああああああああああすぅぅぅぅううううううううううううええええええええええええええええええええっっっっとぅぅぅうううううううううううううううええええええええええええええええええええええええええ、ああああああ、ああああああああぐぅぅぅぅぅううううううううええええええええええええええええむぅぅぅぅうううううううううあああああああああああああすぅぅぅぅうううううううううううえええええええええええええええええええええええええええんんぬぅぅぅうううううううううううううううくぅぅぅううううううううあああああああああああああああああああああああああああるるるっっっっっっああああああああああああああああああああああああああがあああああああああああああああああああああああああ!!!!!!!!!!!!!」


ボッガァァァン

ヒナ、ブチ切れて吠える。


ああああああああああ!

あああああああ!

ああああ!

あ!

…!


ピィーン


「みいっけえ。」


バツン

ツー、ツー…


はぁ、はぁ

「…あ、あれ?切れちゃった?いや私じゃなくて、電話が?流石に?もう、とにかく、高田馬場に帰るかなぁ?それとも、このまま帰っちゃうか…」


…ヒュゥゥゥゥゥウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウ

ズッッッガァァァァァアアアアアアアン!

ヒナの近くに、何かが降ってきた。


シュゥゥゥウウウウウウウ


「…へ?あ、れ、あれぇ?」

「よおおおーう、ちゃんヒナアアアア。」


サカ、ヒナと相対す。

大川地工務店では。


「あいつ、電話して何がしたかったの?」

「なんか叫び声が聞きたかったらしいですよ。大きさと方向で大体の位置分かるからって。」

「エコーロケーションかよ、相手を利用した。怖過ぎだろ。」

「ええ全く。ヒナさん、南無。」


ザッ、ザッ

たじ、たじ

サカが一歩ずつ詰め寄るのと連動して、ヒナも一歩ずつ後ずさりする。


「え、ちょっと社長ぉ、怖くないですか?逃げたのは謝りますけど、え、その、来ないで、来ないでください?」

「なあああに言ってんのおおお、可愛い可愛い社員との再会よおおお、ハグハグしたくなっちゃあうのはあとおーぜえんよおおお。ほおら、逃げるんじゃないやい♡」

「社長が♡つける時なんてロクでもないんですから、やめて、止まってくださいって!」

「おんめえええがあ止まれよおおお。なあああんもやましいことねえええんならあああ、止まれるよなあああ?」


ザッザッザッ

たじたじたじ


「止まれってばあああよお。」

「嫌ですってばぁぁぁぁぁ!」


ザッザッザッザッザッザッ

たじたじたじたじたじたじ


「止まれえい。」

「嫌ですぅぅ!」


ザッ…

たじ…


両者、顔を見合わせる。

そのまま、


グッ、グググググググッ

姿勢を低くし、スタンスを取り、大地を強く踏みしめる。


そして、

グィィィッ

ドッ

ドッ

ドオッッッヒュゥゥゥゥゥウウウウウウウウウウン

キィィィイイイイイイイイイイイイイイイイン

両者、爆走。


「まっでえええええええゴッッッッッルウウウウウウウウウウウウアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!!!!!!んぬうううううあああああああああああああにいいいいいやらかしてえんだあああああああああああああああああああああ!!!!!こんっのおおおクッソアマアアアアアアアアアアアアアア!!!!!」

「やぁぁぁぁっっっっぱり怒ってんじゃないですかぁぁぁぁあああああああああああああああああああ!!!!!社員の可愛いドジでしょぉぉぉおおおおおおおおおおおお????!!!!許してくれるんじゃないんですかぁぁぁぁぁあああああああああああああああああああ????!!!!」

「ブアアアアアッッッカアアアアアアアアがあああああああああ!!!!!ぜえんかあいのはなあし読んでえぬうううううええええええええええのおおおおおおかああああああああああああああああああんあんあん???!!!許すにしろお、罰は受けさせるっちゅうーーーーーーたがあああああああああああああああああああああああああ!!!!!!!おんめえもおおおおおおお報いをおおおうっけやっがれえええええええええええええええええええええええええええええいい!!!!!五十万もお返してえもらああああああああああああああああああああああああああああああああああああああううう!!!!!!」

「ずぅぅぅううううううううええええええええええええっっっっとぅぅぅぅううううううううううううあああああいいいいにぃぃぃ、いっっっやぁぁぁぁああああああどぅぅぅぇぇぇぇえええええええええええええええええええすぅぅぅ!!!!!!これはああああ私たちの絆ですからぁぁぁぁああああああああああああああああ!!!!!天地神明に誓って返しまっすぅぅぅうううううううううええええええええええええええええええええええんん!!!!!!!」

「おうおうおおおおおーーーう!!!!!だったらああああ身体で働いて返しやがれえええええええええ!!!!そんの貧相なあああああ、涙もちょちょぎれえそうなあああああ、わびちいわびちい身体でなああああああああああ!!!!!!!!」

「カッッッチィィィイイイイイイイイイイイイイン!!!!!もぉぉぉおおおおおおおおーーーーう堪忍袋の緒が切れましたぁぁぁぁあああああああああああああああああ!!!!!辞めまぁぁぁぁああああああああす!!!!!辞めてやりまぁぁぁぁぁあああああああああああああああす!!!!!退職金の用意をしておいてくだっ、すぅぅぅうううううううううああああああああああああああああああああああああああああいいいいいいい!!!!!!!」

「んんんんんぬううううああああああもおおおおおおん、出るわっきゃあああああねええええええだろおおおおおがああああああああああああああああい!!!!!!シャッチョへの暴力でえええ懲戒解雇だわあああああああああああああ!!!!!!ぎゃっくに慰謝料まで請求、しっちゃるわあああああああああああああああい!!!!!!!」

「そんなぁぁぁぁぁああああああああああああああ!!!!!!やっぱり世間、どっこもかしこもブラックだらけなんだぁぁぁぁああああああああああああああ!!!!!!!!」


ギャーギャー

叫びながら二連星が駆けて行く。

束の間の休息を楽しむ一行であった。


一方その頃。

東京、品川。

とある超高層ビルの最上階で。


「…以上が事の顛末です。いかがでしょうか。」


スーツの卑屈そうな男、高橋が畏まって何者かに報告している。

その者はやけに大きな椅子でふんぞり返り、静かに報告を聞いていた。


「ふぅーん…いいね!」


にっこり

男は無邪気な笑顔を浮かべる。

綺麗に左右に分けた金髪、色白で、西洋風の顔立ち。白スーツに白手袋。ほっそりとした身体には何が詰まっているのか。

豪皇院天馬ごうおいういんてんま

二十代の若さにして、日本最大の財閥、豪皇院グループの頂点に立つ。


「いいじゃないか、こんなに早く動いてくれるなんて。結構単純なタイプかな?いや、分かった上でそうしてるのか…何にせよ、ありがたいな。」


カッ


「して、次はどうされます?」


もう一人の男が高橋の横に歩み出る。

ハゲで推定五十代くらいのメタボ体型のおっさん。爆滅不動産の社長。今日はきちんとスーツを着ている。


「私も彼を一目見ましたが、まさに暴力そのものといったところ。常識では測りきれません。もし下手に近づこうものなら…」

「なら、何?」

「いえ、あり得ないことではありますが、あなた様の御命まで、危険になるやも、と。」

「えぇ?それがいいんじゃあん!今まで僕を暗殺しようって人たちはいっぱいいたけどさぁ、どれもこれも小賢しくてつまんないだけなの!引っ掛かるふりも飽きちゃうくらいに、ね。でも、彼は…?」


モニターに映るサカの姿をうっとりと見つめる。


「彼だったら、僕をどんなふうに殺してくれるのかな…?」

「で、では、あなた様自ら?」

「うぅーん、まだちょっと早いかな。準備もできてないし。その間に、彼にはもう一段、ステージを上ってもらおう。」


ピッピピッ

手元の端末を操作して、高橋らにデータを送信する。


「これ、あのサイトに載せといてよ。タイミングもそろそろバッチリでしょ。」

「はい…え、えぇ?!しかし、これは…」


高橋が狼狽える。


「いいから、僕のお願い。ダメ?」


少し緩やかな、妖艶な目つきで睨む。


「い、いえ、あなた様の仰ることは絶対です。直ちに、掲載します。」

「うんうん、じゃ、もういいよ。出てって。」

「「はい、失礼します。」」


二人揃って出ていった。


ぎぃっ

背もたれに身体を預け、


ふぅー

溜息を一つ。


「僕も棺桶の準備を急がなきゃ。それまで、僕を楽しませて、ね…?」


その日、驚天動地☆滅殺撃滅闇サイトに過去最高額の懸賞金が掲載された。


『豪皇院グループ豪雁撫黎株式会社 会長 豪雁撫黎ごうがんぶれい榛勃佐ばるぼっさ

『¥500,000,000』

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