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明け方からコソコソ挑んだケーキ作りも、スポンジは綺麗に型抜きできなくて端々は欠け放題剥げ放題だったし、それを補おうと伸ばしたクリームも、下手で。上に書いた文字もきっと松方は読めないだろうなと思いながらそーっとそーっとバイト先に持って行ったけど、冷蔵庫に隠す時ぶつけてしまったのがやっぱり取り出したら不格好に傾いてて。それでも、メインは中に隠した“駆け落ち券”だからと持ち直してキッチンから松方のいる事務所へと運んだ。


そうしたら。



『松方にその気・・・がないのかと思って』



聞こえてきた梶の声が何を指しているのか。


最近あたしが、梶に色々訊いていたから解ってしまって。もうそこから恥ずかしくて堪らなかった。その場の話題になっていることが。


その場の中心に、松方がいることが。だから、



『ないと思いますか』



それに対する松方の答えに——脚が竦んで。



指先の熱で緩いクリームはもっと溶けてしまいそうだった。



その指先を、松方が舐めたりするから…。





『駆け落ちしよう』




ケーキを作った所でも材料を買いに行った所からでもない。どうそれを伝えようか考えた所から。何もかも台無しになっても多分もう、この先の人生で口にする事もないであろう台詞だけは伝えたかった。



松方はそれに、何と答えるのだろう。


何度かシュミレーションした。『はい』と頷くか。


少しは嬉しい顔を見せてくれたりするかな。


それともやっぱり驚いて、聞き返す?



松方は、何を聞き返すことも揶揄うこともなく



『喜んで』



そう、捉えていた手首からするりと熱くなった指先を手に取り返事した。




好きだなぁ、と、堪らなく想った。




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