第3話 後輩とメイド服
普段、俺がいつも時間を潰している放課後の部室への来訪者は極端に少ない。
大抵、部の存続のため俺に籍を置いておくよう頼んできた老齢の数学教諭が時折様子を見に来るか、既に入り浸っているくせに部員じゃないからと未だに「お邪魔します」と律儀に言いながら部室に入ってくるところが憎めないというかグッとくる系後輩こと
しかし、その日はいつもとは違った。
漫画を読みながら
「
唐突に現れたメイドに言葉を失った俺は、黙ってその人物を観察するしかできない。目の前に立っているメイドは、端的に言ってしまえばかわいらしかった。
白いヘッドドレスがその艶やかな黒髪によく映え、黒いドレスは一分の隙もなく首まで閉められ、その首元の辺りでさらさらとした髪の毛先がくすぐるみたいに揺れる。白いエプロンは腰の辺りで一度絞られ、またふわりと広がりながら足元を上品に隠し、歩くたびに愛嬌のあるフリルが目を惹く。いわゆる、クラシカルメイドというやつだ。僅かに余った袖口を纏める白いカフスからは、さらに細さの強調された手首が覗く。そしてこれまた白く綺麗な手が、手が……ひらひらと俺に向けて振られていた。
「お邪魔します。……先輩、何ぼうっとしてるんですか? 大丈夫ですか? ……その何も考えてないぽけっとした顔、私以外の人にはあんまり見せないほうがいいですよ。笑われちゃいますから」
綺麗とかわいいが絶妙なバランスで保たれた容姿に愛想の欠片もない表情を浮かべ、万事に興味がなさそうな冷たい眼差しでメイドさんが俺を見ていた。というか、その顔立ちも毒舌も十二分に心当たりがあった。鹿波だった。
「お、おう。そんな変な顔してたつもりもないけど……今日は遅かったな」
妙にそわそわとしてしまって、することもないのに立ち上がってしまった。鹿波がほんの僅かにくすくすと笑う。
「一人だったので、着替えるのに少し手間取りました。ほら先輩、メイドですよ。後輩女子のメイド服姿です。喜んでください」
「……なんでメイド服を着てるんだ?」
「今度の文化祭でメイド喫茶をやることになったんです。その試着みたいなものですね。……どうですか?」
持っていた鞄を置くと、澄ました顔のまま鹿波はやる気がなさそうに両手を広げ、衣装の全体を見せるように軽く体を捻って、自分でも見えづらい箇所を軽く覗き込んでいた。
鹿波のメイド姿は、似合っているかいないかと問われればそれはもちろん似合っていた。悔しいが、この後輩はちゃんと顔が整っているのだ。白と黒の二色で構成されたシンプルなメイド服の端々から拭いきれない女の子らしさが溢れており、正直に言ってしまえばかわいい。全然好きとか気に入ったとかではないが、後で写真を撮らせてもらえないだろうか。
「……先輩?」
黙っている俺に鹿波が声をかけてくる。
いっそのこと手放しで褒めてしまいたかったが、しかし俺とてオタクの端くれだ。年下の女子に対して素直にかわいいと言うのが恥ずかしいとかなんか負けた気がするとか、そういうくだらない理由を除いても、今回ばかりは譲れないものがあった。
「一人のオタクとして言わせてもらうがな、確かにその恰好はかわいらしいかもしれないが、お前はただのメイド服を着た鹿波だ。本物のメイドじゃない。いいか? メイドってのは格好のことを指すんじゃない、魂なんだ。そもそもメイドの起源ってのは、昔の貴族や家に仕えていた使用人でだな……」
それから、俺はネットでかじっただけの蘊蓄をぺらぺらと語った。俺が魂とか起源とか言い始めた辺りで既に鹿波はめんどくさそうな目で溜め息をついて俺を見ていた。そして、所詮は付け焼刃の知識なので万が一踏み入った質問をされると当然答えられず、そもそも知識量だって多いわけではないので、それ以上語れることがないことを察知した俺は強引に話を纏めにかかった。
普通の会話をしているだけなのに何故か俺だけしょうもない心理戦を繰り広げていた。一人で仕掛けて一人で焦っている俺があまりにも滑稽すぎるだろ。黙って話を聞いてくれているだけの鹿波にすら苦戦するのか俺は……。
「つまりな、主人を労り楚々として尽くす奉仕の心こそがメイドの本質なんだ。プロのメイドさんを舐めるなよ。メイドは心なんだ」
俺が語り終えると、呆れたような顔をしている鹿波がぱちぱちと気の抜けた拍手をしてくれた。
「さすがです。知りませんでした。すごいですね、先輩は。そんなことまで知ってるなんて」
「お、おお、だろ? いや、俺って実は意外と雑学に明るいんだよなぁ。うん、そういうところあるな、俺は」
鹿波が素直に俺を褒めるなんて珍しい。たまには雑学も役に立つものだな、なんて考えていると、妙に生温かく優しい眼差しをした鹿波が言った。
「……先輩。さしすせそには気をつけましょうね」
「は? さしすせそ? 何、急に。五十音の話?」
「……先輩って、捻くれためんどくさい人間なのに変なところが純粋でおろかわいいですよね」
「愚可愛い!? なんでいきなり馬鹿にされたんだ俺は!?」
たった今奉仕の心云々を長々と説明したばかりなのに、メイドにあるまじき暴言だ。さてはこいつ、俺の話を真剣に聞いていなかったな。何もかも不敬すぎるだろ。
「許してください。愛のある罵倒なので」
「文字どおり愛が含まれた罵倒すぎて怒ればいいのか喜べばいいのか迷うところだな……」
愛があればなんでも許されると思うなよ。俺はそう甘くないぞ。メイド服の可愛さに免じて今回は不問にしておくがな。
椅子に座り直して咳払いを一つし、易々と鹿波に奪われかけたペースを取り戻す。
「まあ、あれだ。メイドコスプレとしては上出来だけど、それは本物のメイドではないと俺は言いたいわけだ」
「まためんどくさいことを言い出しましたね……」
うんざりとした表情を少しも隠さず、心底呆れたようにメイドさんはまた溜め息をつく。しかし、改めて思うがメイド服ってのは偉大だ。座っている俺を見下ろす冷たい視線も揺れるスカートやフリルのせいで少し優しく見える。
「じゃあ、仮に私がメイドらしいことをしても、先輩はメイドだって認めないってことですか?」
「当たり前だろ。メイドだと認められたいならまず隙あらば俺を揶揄おうとするのをやめろ」
「それは無理ですけど」
「無理ではないだろ……」
「そもそも、メイドらしいことって例えばどんなことですか?」
言われて、はたと気がつく。本来のメイドらしいことと言えば家事などの手伝いだが、まさかこんな冗談の流れで鹿波に掃除や片づけをさせてしまうわけにもいかないし、俺が手伝ってしまえばそれこそ本末転倒だ。労力がかからず、かつ単純明快にメイドらしさが出る行為はないかと適当に考えてみる。
「ん、そうだな。……わかりやすいもので言えば、相手をご主人様と呼ぶ、とかな」
「絶対に嫌です」
「そっか、絶対かぁ。……ちなみに理由は?」
「………………私はいつでも先輩の後輩でいたいんです。先輩を先輩と呼んでいたいんです」
「そういうことは、どんな嘘をつくか考えてるみたいな間を空けず言ってほしかったなぁ」
俺は遠い目をしてそうぼやいた。目が合うと、鹿波がほんの少しだけ口角を上げて微笑んだ。それに俺は呆れてみせる、ふりをする。
冗談に混ぜられた一匙の鹿波の本音を、俺はちゃんとわかっている。
「にしても、メイドらしいこと……メイドらしいことか……」
和やかな気分になっていたのも束の間、我に返ると感傷的になっていたのが妙に照れくさくなって、呟きながら誤魔化そうとする。
「あ。じゃあ、私、あれやります」
ふと思いついたように鹿波が言った。
「見ててください、先輩」
「ん、おお」
何が始まるのかと、鹿波を見つめて姿勢を正す。そして鹿波も改めて俺に向き直り、小さく息を吸った。
やる気のない冷めた顔のまま、ちっとも尊敬の念の籠っていない目でこちらを見て、鹿波は胸の辺りでハートを作った。そして、びっくりするくらい平淡な声で言った。
「もえもえきゅーん」
それは、クソ適当なもえもえきゅんだった。絶世の雑もえもえきゅんだった。これほどなんの感情も籠っていないというか、めんどくさいという感情が籠っているもえもえきゅんを俺は見たことがなかった。
これでメイドらしさを認めると思われるほど、俺のオタクとしての矜持は舐められているのだろうか。舐められているのだろうな。舐められているに違いない。舐めんな。
「……はっ、あまり馬鹿にするなよ。そんな適当なもえもえきゅんを食らったところでこの俺が靡くわけがないだろ」
「……まあ、そうですよね。いくら先輩といえど、やっぱりこんなにいい加減なもえもえきゅんだとダメですね。もっと本気でやらないと……」
「本気でやったところで無駄だ。俺の意思は鉄より固い。で、そんなことより毒舌後輩メイドさんに永久就職してもらうためのお金はどの口座に振り込めばいいんだ?」
「ちゃんと堕とされてるじゃないですか。何が『鉄より固い』ですか。先輩、絶対メイド喫茶とか行かないでくださいね。ずっぷりハマってお金を搾り取られるのが目に見えてるので。どうしてもメイドさんが必要なときは私がしてあげますから」
破壊力が凄かった。なんだかとても情けない約束をしてもらってしまったが、これは不可抗力というやつだ。だって仕方がないだろう。この世には、毒舌クールメイドが刺さってしまう悲しきオタクだって存在するのだから。俺はそんなオタクでは決してないけれども、一ミリも愛想を振り撒くつもりのない仕草や眼差しは素晴らしかったと言わざるを得ない。
もえもえきゅんを食らい悶え苦しむ俺に、鹿波が若干引き気味に困惑していた。
◇◇◇◇◇
それから、鹿波のクラスが文化祭で具体的にどんな出し物をするのかとか、準備はどこまで進んでいるのかとか、そんな話を聞いた。どうやら至って普通のメイド喫茶をやるらしく、クラスの中心人物たちが発案し、誰も異を唱えられないまま話の流れで決定してしまったらしい。不服そうに鹿波が言っていた。
「にしても、当日は楽しそうだな。時間あったら鹿波のクラスにも寄ってみるよ」
「時間がなくても寄ってください」
「えー……」
「私の手が空いてたら相手してあげますから。というか先輩、時間が余らないこととかあるんですか?」
「……ないです。見栄を張りました」
「どうしてそうすぐわかる見栄を張るんですか……」
気まずいからに決まってるだろ。知り合いが多くいるわけでも友人を引き連れて覗きに行くわけでもない俺は、いったいどんなテンションで一学年下の生徒たちがやっているメイド喫茶を楽しめばいいのだろうか。賑やかな教室の中、愛想だけはいいメイドさんが注文を持ってきてくれた後は誰と喋ることもなく、萎縮した様子で黙々とオムライスを食べてそっと教室を後にする俺。孤独が滲むその寂しすぎる姿はどう考えても不審者かそれに準ずる類の何かだが、まあ、別にいいか。そうじゃない場合は軽く地獄だが、鹿波が接客してくれるならなんだかんだ楽しそうだし。
「……わかった。ぜひ鹿波のメイド姿を拝ませてもらいに行くよ」
鹿波の手が空いてないようだったらこっそり立ち去ろう、と内心で決意していると、文庫本を開こうとしていた鹿波が不意に言った。
「え? 私はメイド服着ませんよ。あれ以来クラスでも腫れ物みたいな扱いですし、私の担当は裏方です」
「……ん? じゃあなんで俺をクラスに誘ったんだよ。……あ、裏で料理を作る担当だからそれを食べてみてほしかったってことか?」
「いえ、違いますね。料理は男子の担当なので。当日は簡単な片づけくらいで、私の主な仕事は事前準備になります」
「……お前、さては客を一人でも多く確保しておきたいだけだろ」
「……そんなことはないですよ」
俺を見ず、手元の文庫本に視線を落としたまま鹿波は言った。そんなことしかなかった。
……じゃあ、今日メイド服を着てたのはなんの確認だったんだ? クラスで使う衣装の大まかなサイズチェックとかだろうか。事前準備が仕事って言ってたし。
さっさとそう結論づけ、それ以上考えるのをやめた。
「ところで、先輩のクラスはどんな出し物をするんですか?」
思い出したかのように鹿波が訊ねてきた。
「ああ、俺のとこは劇をするはずだ。童話の展開に少し手を加えたものをやるらしい」
「え、劇? 先輩、演技とかできるんですか?」
「いや、俺は連携が必要そうな作業からはいつの間にか外されていた結果、当日に看板を持ってその辺をウロチョロする仕事になった。この係やるの俺だけらしくて、交代要員とかいないらしいから劇が始まったら途中でサボろうと思ってる」
「……先輩らしいですね」
看板片手に校内を彷徨う俺を想像したのか、冷たい呟きに反して鹿波の目は心なしか楽しそうに細められていた。ウロチョロするのがらしいという呟きが普通に失礼に当たるということに気づいていないのだろうか……。
「それで、どんな劇をやるんですか?」
「さあ、劇の詳しい内容は俺も知らないけど……ほら、あのイケメンがいるだろ、春に一悶着あった奴。あいつが主役なんだと。周囲の人たちから推されて、本人も満更でもなさそうな顔してたよ」
なんにも考えずにそう口を滑らせてすぐ、言わなきゃよかったと思った。
「……ああ、あの人が主役なんですね。そうですか」
途端に、鹿波の声音が一気に氷点下まで下がった気がした。鹿波の表情から怒りを読み取れないのがかえって怖い。ある程度親しくなった今、鹿波に突然こんな対応をされたら泣く自信がある。
「告白してきた相手をキープしておきながらその子の友達に手を出そうとして、断られたら根も葉もないデマを流すような腹の黒い人はやはりやることが違いますね。主人公にぴったりだと思います、転落劇の。……あんな人、早く別れたらいいのに」
確かな敵意と侮蔑を込めて、鹿波は春先の一件に言及する。最後の呟きは、喧嘩別れのような形で交流が途絶えてしまった友人に向けて言った言葉なのだろう。
鹿波本人に改まって詳しく訊いたことはないが、おそらくそれが春先の件の真相だった。要するに、件のイケメンは二股をしようとしたのだ。根はいい奴というか、愛想が悪いだけで鹿波は根も葉もいい奴なので友人を想って憤り、手酷い拒絶を受けたイケメンが報復として悪い噂を流したというのが事の顛末なのだろう。恋は盲目という言葉のとおり、鹿波の友人である女子生徒は鹿波の言い分より件のイケメンの言い分を信じたらしい。
それで長年一緒にいた友人どころか学校での居場所すら失ったのだから、鹿波が腹を立てるのももっともだった。
あの春先の一件さえなければ、鹿波はもっとまともに青春を謳歌できているはずだったのだ。こんな辺鄙な部室に通うこともなく、俺みたいな変人とも関わらず、文化祭当日にはかわいいメイド服なんかをちゃんと着て、素直で楽しい高校生活を送っていたはずだったのだから。
俺に義理を感じることも、そもそも知り合うことだって、本来はあり得なかったのだ。そう考えると、少し複雑な気分になる。
居場所がなくなった末に辿り着いたこの空間には、誰にも傷をつけられないという消去法的な居心地のよさがある。それが悪いことだとは決して言わないが、けれども、特別いいことだとも思わない。どこか健全でなく、相応に歪んでいるのだと思う。一度正しさで指摘してしまえば脆く崩れ去るこの名前さえつかない時間は、いったいあとどれだけ続くのだろうかと、そんなことを思った。
そうやって俺がぼんやりしていると、ふっと鹿波の気配が柔らかくなった。先程までの声の冷たさもとっくになくなっている。
「じゃあ、先輩。お互い、あまり大事な仕事は任されてないみたいなので、当日の仕事が終わったらこの教室で一緒に時間でも潰しませんか? 私たちには逃げ場が必要だと思うので」
がやがやとした喧騒から離れて、校舎の外れでこれでもかというくらいに変哲のない言葉を交わす瞬間を想像する。当てつけのように文化祭の話題には一切触れない。その際の、ふとした瞬間にほんの少しだけ卑屈に笑う鹿波の笑顔を、想像する。
本当に、間違った文化祭の過ごし方、間違った高校生活の送り方だと思う。ラブも青春もどこかへ行ってしまって、変に歪んだコメディだけが残っているみたいだ。
「……そうだな。どうせ文化祭なんて楽しめないだろうし、そのほうが建設的かもな。……不本意だけど」
文化祭の正常な楽しみ方をしないことが決まって文化祭が少しだけ楽しみになった、なんて。おかしな話だ。
窓から秋の風が吹いて、夕映えたメイド服のスカートがふわりと揺れた。
◇◇◇◇◇
それからしばらく、互いに漫画を読んだり小説を読んだりして、無言のまま時が過ぎた。漫画を読み終え、凝り固まった姿勢を解しながら時計を見ると、もう少しで下校時刻という頃だった。立ち上がって、暮れ泥む空を四角く切り取る窓枠に寄りかかる。眼下の校庭に広がる部活動の光景から目を逸らそうと、静かに遠くで燃えている夕陽へ目をやった。健全な青春というのは、太陽よりもよっぽど眩しいらしい。
「俺もイケメンだったら、もっとちやほやされてたのかなぁ」
なんだか退屈になってこれ見よがしに呟いてみると、ぱたんと小説を閉じた鹿波が小さく息を吐いた。無視したっていいのに、怠そうにしながらもこういう呟きにちゃんと反応してくれるのが鹿波の素敵なところだ。それにしても、この後輩は仕事をさぼって本を読むメイドさんの恰好が様になりすぎている。
「……先輩はそのままでいいと思いますよ」
「え? 今俺がそのままでもイケメンだって言った?」
「言ってないです、そんなことは全然言ってないです」
物凄いめんどくさそうな顔をされてしまった。
「ていうか、先輩はお世辞にもイケメンってタイプじゃないですよ」
「あ、うん。そうだね……イケメンじゃないよね……」
俺はそれ以上追及するのをやめた。ここは酷評されなかっただけでもよしとしておくか。別に、自分の顔を改めて評価されるのが怖くなったとかでは断じてない。外見でとやかく言うのはナンセンスであり、人間はやはり心だよなと思っただけだ。
しかし、分が悪くなって話を切り替えようとした俺を鹿波は逃がしてくれなかった。
「客観的に見ると先輩の顔は……良く言えば塩顔、忖度なしだと普通、悪く言うと陰気そう、超悪く言うと開き直り方がちょっとキモめのオタクですね」
「超悪く言う必要あったか!? 開き直ってる自覚あるせいで反論できないけども……」
どこが客観的だったんだ。そもそもの評価軸に露骨な悪意が含まれている。開き直っている自覚は多少あったが、俺、開き直り方がちょっとキモめだったのか……。ショックだ……。
「でも大丈夫ですよ、気にしなくても」
内心で密かに落胆している俺を見兼ねたのか、鹿波はそうつけ加える。そして、なんでもないような顔をしたままさらりと言ってのけた。
「先輩、顔は普通だけど心が超かっこいいので」
「え……あ、うん。その……ぁ、ありがとうございます」
俺は何故か敬語で照れた。さながら初めてのメイドカフェに戸惑うオタクだった。
毒舌後輩メイドさんは、開き直り方がちょっとキモめのチョロいオタクを喜ばせるのが上手だった。
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