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傍らで未だに眠る彼女を私は見つめていた。


首には赤黒い紐状の痣、長かった赤毛の髪は短く切り揃えられ、蒼白の顔はまるで屍人のようだと黒髪の男、アナン・シャドウは思う。


愛くるしい寝顔を手で撫でながら、その瞳が開くのをジッと待つ。


彼女が首を吊ったあの日、私は彼女の遺体を持ち去った。


「アナン、貴女は凄い魔術師ね?」


彼女の微笑む顔が忘れられなかった。


「貴方達の事をどうにかして誤解を解きたいのだけれど、なかなか上手くいかないものね……」


日に照らされて輝く赤毛が美しかった。


「でも、いつかきっと認めさせてみせるから!」


射貫く琥珀色の瞳が眩しかった。


「待っててね?アナン!」


差し出された手が温かかった。


嗚呼。


我が身を焦がす光よ。


この手が届かない太陽よ。


我が愛しのソレイユ・シャイン。


「別に、どーでもいいんだ」


彼女の唇を親指でなぞり、チラリと見えた赤い舌にうっそりと目を細める。


「あんな民衆【クズ】どもなんかに認められなくとも……」


輪郭をなぞり、彼女の唇に自身の唇を重ねた。


「君が、、君さえ居てくれるなら」


優しい口付けをし、舌を這わせれば。


「他に何もいらないよ」


眠り姫は静かに瞼を開く。


「おはよう……我が愛しの姫君」


彼女は私を見据えて告げた。


「貴方は……誰?」


その言葉に、私の唇は自然と吊り上がる。

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