2

緑生い茂る木々の中、一人の少女が怪我をした小鳥を見つけて手に乗せた。


「おまえ、どうしたの?」


羽をばたつかせるも飛べない小鳥は、少女の掌で何度も転倒を繰り返す。


「羽を痛めたの?可哀想に……」


少女は鳥の羽根を一撫ですると、小鳥は首を傾げてまた羽ばく。


今度は飛び立つ事が出来た小鳥は、空に向かって飛んでいった。


「良かった。気を付けてね!」


空を見上げて手を振る少女の背後に立つ若い男は、小さく溜め息を吐き少女に声を掛けた。


「ソレイユ」

「あ、アナン!」


少女は振り返り、男の名を呼ぶと、すぐさま笑顔を浮かべた。男はそんな少女を軽々と抱きかかえると、困り果てた顔で告げる。


「駄目じゃないか。勝手に外へ出ていったら……」

「ごめんなさい。ちょっと外の空気を吸いたくなって」


切れ長の赤い瞳で見つめる男の首に、少女は手を絡めるとクスクス笑う。


「笑い事じゃ無いよ。心配したんだ……君が家にいないから」

「凄い汗……探し回ったの?」

「勿論」


額に貼り付いている男の黒髪を手で掻き撫でながら、少女は眉を潜めて優しく告げた。


「ほんと、アナンったら心配性ねぇ?」

「当たり前だろう?君は私の妻なんだから……」


少女の額にキスを落とした男は、少女を抱きかかえたまま家へと歩き出す。


彼らが此処へ訪れたのは、つい数ヶ月前の事。


広い庭付きの家を買った男が、少女を連れてこの田舎町へとやって来た。


少女の名はソレイユ・シャイン。


眠り姫の如く、ずっと眠りについていた一国の姫君だ。

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