第9話 拠点決め
「はぁはぁ! やっと10層目だぁー!」
ダンジョンに潜ってから1週間が経ちようやく俺は目的の10層目までやってきた。
一層目よりも日本の森って感じがする。一層目はジャングルっぽかったが、どちらかというとこっちの方が俺は親しみやすい。
「ミーのおかげでしゅけどね!」
肩の上で偉そうに胸毛を出しているメルルだが、その通りだ。こいつがいなかったら途中でモンスター達に殺されていただろう。
でかいナメクジ型のモンスターや機械仕掛けのモンスター。ゴーレムのような岩で出来たモンスターもこいつが魔法で倒してくれなかったらと思うと今考えても恐ろしい。
そのお陰で俺の初期武器である棒もまだ全然使える。
「ほんと、お前のおかげだよ。じゃあとりあえず拠点になりそうなところ探すか」
「拠点でしゅか。目星はついてるんでしゅか?」
「ついてるわけないだろ? 初めてこの層までやってきたんだから、でもできれば自然に雨風が防げて近くに川が流れてるところがいいな」
まあ流石に全部は求めてない。
最悪条件の内のどっちか一つでも条件に合っていればいいかなと思っている。
「ぷしゅ、ぷしゅしゅ……カケルは望みすぎでしゅ。そんなんじゃ見つからないでしゅよ」
「ならお前ならどんな場所を拠点にするんだよ?」
「勿論フカフカのベッドがあるところでしゅよ! カケルの上も寝心地は悪くないでしゅがいびきがうるさいでしゅ」
なんだお前。俺は寝る時にいつも上にメルル乗っているせいで変な夢ばっか見てんのに。
「煩くて悪かったな」
「そうでしゅ、カケルが悪いでしゅ」
はぁ……
「グルゥ」
そんな話をしていると禍々しい感じの猪が出てきた。
普通の猪じゃありえないくらい、牙が鋭くでかい。しかも鳴き声が雑食の生き物のそれじゃない。肉食動物のそれだ。
まあどれだけ相手が凶暴でも関係ない。だってこっちには……
「メルル! 君に決めた!」
猪に指を向けてメルルに攻撃するように指示を出す。
気分はモンスターマスターだ。
「……いやでしゅ」
「よし! いつものように頼むぞってえぇ!? 今なんて言った!?」
「だから嫌でしゅ。ミーが倒すのは簡単でしゅ。でもそれをしたらカケルが成長しないでしゅ」
「はぁぁぁ!? 俺の成長とかどうでもいいんだよ! 俺達は一心同体なんだろ? だから代わりにお前が倒せばっ!? あぶな!?」
話の途中で猪が突っ込んできた。
それをなんとか横に飛んで回避する。
「だからこそでしゅ。カケルにはこれから沢山の運命が待ち受けているでしゅ。それまでこんなにヨワヨワなままでいるんでしゅか?」
「はぁ!? いきなり何言ってんだよ、今まで助けてくれただろ?」
「それはカケルが目的地にたどり着く手助けをしただけでしゅ。ここから先はカケル自身の手で道を切り開くでしゅ」
「道を切り開くんでしゅ。じゃねぇよ! 今まさに俺の体が切り裂かれそうになってんの! 分かる!?」
「本当に危なくなったら助けてあげるでしゅ」
〈引きこもり〉を使えば簡単に攻撃を無効化することはできる。でもそれから先がない。この棒切れであいつに致命打を与えられるとも思わない。
それに〈引きこもり〉にはクールタイムがある、ラストエリクサー症候群でもないけど使い所は考えたい。
こうなったら……
「分かった! なら拠点を作るまではメルルがこれまで通り戦ってくれ! それ以降は俺が戦うから! うぉ!?」
直進的な猪の攻撃を避けつつメルルに話しかける。
少しの間でもメルルに戦ってもらうしかねぇ! 拠点を作ってからもなんだかんだ理由をつけて戦ってもらおう!
「……ダメでしゅ。カケルは優しくすると図に乗るタイプでしゅ、ここは心を鬼にしてでも……」
だぁぁ!! こいつなんで俺の性格分かって来てるんだよ!
「って言ってもここに来るので俺も限界だったんだよ! 頼む、最後の休憩のつもりで……な?」
「む、むぅ……」
揺れてるな!
「俺、メルルの格好いい魔法見たいなぁ!!」
「か、かっこいいでしゅか。仕方ないでしゅね!」
「グルゥ!?」
メルルが俺から飛び降りると風の魔法を使って猪を真っ二つにした。
「ふぅー、助かった。じゃあいつもの頼むわ」
「そ、れ、よ、り、も! ミーの魔法はどうだったでしゅか?」
「ん? あー、格好良かったぞ。あの猪を紙みたいに切断するんだもんなびっくりだよ」
「……適当に言ってるでしゅね」
うぐ、バレた。
「とにかくいつもの頼む」
「……分かったでしゅ」
メルルは二つになった猪に近づくと死体をカチカチに凍らせた。そして次に風の魔法を死体を浮かせた。
「よし、じゃあなるべく早く拠点を探すか」
「でしゅね」
メルルは俺の肩に飛び乗った。
歩き始めると後ろから凍った猪がついてくる。名付けてメルル運搬術! 四次元ポケットがない俺にとって大きな荷物を運搬する唯一の方法だ。しかも氷魔法が使えるから肉が腐ることもない。最高の運搬方法だ。
「とは言え川なんて流れてんのかな。どこをみても木と草しかないけど……」
「流れてましゅよ。耳を澄ませるでしゅ。遠くからせせらぎの音が聞こえてくるでしゅ」
「え? マジ?」
目を閉じて耳に集中してみるけど全然聞こえない。
「はぁ、カケルは耳が悪いでしゅね〜、あっちの方でしゅ」
メルルは小馬鹿にしたような顔をすると耳で指示を出して来た。
「俺が悪いんじゃない。人間だとこれが普通なの。言っとくけど学校の聴力検査じゃ問題なかったんだぞ?」
まあ検査受けたの10年以上前だけど……
「口を動かす前に足を動かすでしゅ」
こいつ〜!!
「はぁ、分かったよ」
それからしばらく歩くと本当に小川があった。
あの距離からこの音が聞こえてたのかよ。凄いなこいつ。
「どうするでしゅ? ここに拠点を決めるでしゅか?」
辺りを見渡すが木がたくさんあって見通しが悪い上にここじゃ雨ざらしだ。
「いや、もう少し上流に行ってみよう」
「え〜。もうここでいいじゃないしゅか。ミーは疲れたでしゅ」
「お前、俺の上に乗ってるだけだろ?」
「誰がアレ、持ち上げてると思ってるんでしゅか」
「うっ……」
後ろで浮いている猪を見てぐうの音もでない。
「拠点作ったらフカフカのベッドも作ってやるからそれでいいだろ?」
まあ作れるか分からんけど……
「本当でしゅか!? 約束でしゅよ!」
目をキラキラさせるメルル。これ出来なかったら後が怖いな。
「お、おう……」
そんなこんなでまたしばらく歩いていると湖のような場所にやって来た。近くには浅い洞窟があった。
洞窟に入ってみるとすぐに行き止まりだったが、なかなかいい感じだ。
風は塞げないけど、雨は防げる。しかも近くに湖まである。条件としてはこの上ないだろう。
「ここにしましゅか?」
「おう、〈引きこもり〉発動!」
「……そのポーズはなんでしゅ?」
格好いいと思うポーズを取るとメルルにツッコまれた。恥ずかしい。
とは言え、俺のスキルも成長はしている。今では直径10メートルをセーフティゾーンに変えることができるのだ。
これでこの洞窟もすっぽり覆えている。
「気にしないでくれ……とりあえず猪はそこに置いといてくれ。今からちょっと出てくる」
「どこに行くんでしゅか?」
「お前のベッド、作るって約束しただろ?」
「……カケル、覚えてたんでしゅね!」
「当たり前だろ。ってことでちょっと待っててくれ」
「分かったでしゅ!」
俺は素材を集める為に洞窟の近くを散策するのだった。
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