第7話 下へ
「んんっ……背中いてぇ……寝た気がしねぇ……」
太陽の日で目を覚ました俺だが、身体中がバキバキだ。背中は痛いし、疲れが取れた気がしない。
腹の上を見るとメルルは丸くなって寝ていた。
……これメルルが起きるまで待ったほうがいいのか? 仕方ないか。とりあえずスマホを……
ポケットを探すがスマホがない。横を見るとスマホがあった。そうだった昨日寝落ちしてたんだ。
昨日も調べたがもう少し詳しい情報が欲しい。
そう思いブラウザアプリを開けると1番上にダンジョンにてドラゴン出現!? との見出しがあった。
「まさかな……」
昨日のことではないだろうと祈りながら記事を開けると昨日のことだった。
しかも、一層はドラゴンの目撃報告後、一時的に封鎖されることになっていたらしい。そして今日の朝から調査を始めるらしい。
「ってことはここにいるとまずいよな……」
バレたら逮捕……しかもこんな珍獣連れてるんだ、何をされるか考えただけで嫌になる。
「おい、メルル起きろ!」
「……んー、なんでしゅか? ミーはまだ眠たいんでしゅ。もう少し放っておいてくれでしゅ」
聖獣とか言ってたくせに寝起きは悪いな!
「ゆっくりできなくなった。ここに調査団が来るかもしれない」
メルルを無理やり腹から下ろして棒を取る。レッドウルフの肉はもう食べれるだけ残ってないし、置いていくしかないだろう。
昨日調べた情報によると、ダンジョンで殺したモンスターは他のモンスターに食べられたりして、無くなるため素材を取ったら放置しても問題ないと書かれていた。
ならば置いて行ったほうが早く移動できるだろう。
「調査団? それなんでしゅ?」
「あー、調査団ってのは……とにかく捕まったら面倒なことになるってことだけ分かってたらいい、急いで二層に向かうぞ」
「……分かったでしゅ」
納得したのか、メルルは頷くと俺の肩に飛び乗った。
「うっ、おも……」
「何嫌そうな顔してるんでしゅか。ミーを肩に乗せれるなんて名誉なことなんでしゅよ?」
テメェが走りたくないからって適当こいてんじゃねぇぞ! と言いたいが、今は一分一秒が惜しい。
「へいへい、いくぞ!」
と言ったはいいものの走り出せない。
「動かないんでしゅか?」
「どこにいけば二層目に行けるのか、分からないんだった……」
あの男にダンジョンに連れてこられてから右も左も分からないままなの忘れてた。
「はぁ、カケルはダメダメでおバカさんでしゅね」
「うぐっ!?」
正論パンチに声が出せない。
「あっちでしゅよ。あっちに行けば二層目に行く為のゲートがあるでしゅ」
メルルが耳を器用に使って道を教えてくれた。
「分かるのか!?」
「当然でしゅ、ミーは聖獣メリクリウスでしゅよ」
誇らしげな顔をするメルルに一切怒りの感情が湧かない。むしろ感謝しかない。
「流石メルルだ! あとでよしよししてやる!」
昨日1日でこいつが撫でられて喜ぶことは分かったからな。
「ふ、ふん! カケルから撫でられて嬉しくないでしゅ!」
「そうかよ! じゃあ行くぞ! 道間違ったらナビ頼む!」
俺はメルルを肩に乗せたまま森の中を走り始めるのだった。
「はぁ、はぁ、クソッ、地面が湿って滑りやすいせいで、走りずらいな」
あれからしばらく走っているがサンダルで来るんじゃなかった。いや、そうじゃなくてももう少し動いとけばよかった。これじゃあ私のスタミナ低すぎ!? だ。
「さっきまでの威勢はどこにいったんでしゅか?」
「お前が降りてくれたらもう少し早く走れるんだけどな!」
「ぷしゅしゅ……ミーが自分で走り始めたらカケルが迷子になってしまうでしゅ」
じゃあやるか!? なんて言った日には本当に置き去りにされてしまうのだろう。
「はあはあ、そうならないように肩に乗ってくれてるってか? 優しいねぇ」
「そうでしゅ、ミーは優しいんでしゅ。あっ、そこ左でしゅ」
嫌味も効かないって最強かよ……
「おう、でもまだモンスターにあってないだけマシか」
昨日からレッドウルフ以外のモンスターと出会ってないが、今はそのおかげで素早く移動できている。
「ヴァルスのせいでしゅね。他のモンスター達は逃げてしまったでしゅ」
まあ、あんなドラゴンがいたら逃げたくもなるか。俺も〈引きこもり〉がなければすでに死んでいたはずだろう。
「ん? あれは……」
走っていると白いモヤのような物が見えてきた。あれは確かゲートだ。ここに来る前に見たものと同じものだ。
「やっとついたでしゅね」
「これは潜れば二層目に行けるんだよな?」
「そうでしゅ。次の層は確か……洞窟の中に居るみたいな場所だったはずでしゅ」
昨日寝る前に調べたがネットに出ていた情報通りか。
「分かった。じゃあ行くぞ……」
俺は未知の状況に多少の恐怖とワクワクを感じながらも足を動かす。
「んっ……暗くはないみたいだな」
洞窟内と聞いていたから光がないのかと思っていたが、壁が緑色に光っている為真っ暗ということはなかった。
周りを見渡すが、どうやら人はいないようだ。良かった。もしゲートを通る瞬間を人に見られていたら言い逃れできなかった。
「近くに人は居ないみたいだな」
「いるでしゅよ。あっちの方から人間の匂いがいっぱいするでしゅ」
メルルは匂いを嗅ぐ動作をとるとそう言った。
「マジか……」
今、人に会うのは得策じゃないよな……仕方ない。
「メルル、人がいないところから三層目に行く方法あるか?」
二層目、というかこれから十層目までは生活するのに向いている層はなかった。
ネットの情報によると、十層目は比較的一層目に似た環境であると記載されていた。そして俺はそこを拠点にしようと思っている。
つまり十層目まではほぼスルーしていったので問題ない。
「それはできましゅけど……何ででしゅか?」
「今、人と会ったら確実に面倒なことになる。ネットで見た情報によるとドラゴンのせいでダンジョン内にいた冒険者達の気は立ってるらしい。もし身分証、つまり冒険者カードの提示を求められたら1発アウトだ」
二層目より下に閉じ込められた配信者の証言がネット記事に載っていたがかなり荒れてるようだった。
そもそも部屋着とサンダル姿の俺がダンジョンにいること自体おかしいだろう。それに今は非常事態が起きたあとだ。こんな格好のやつがいたら絶対に冒険者カードを見せろと言ってくるだろう。
「カケルは資格なしにダンジョンに入ったんでしゅたよね。ぷしゅ……自業自得でしゅ」
だから何で四字熟語知ってんだよ!
「うるせぇな。とはいえ、お前だけが頼りだ。できるか? メルル」
「み、ミーだけが頼りでしゅか……カケルはミーがいないとダメダメでしゅね!」
嬉しそうにいうなよ……
「頼むぞ、メルル」
「任せなさいでしゅ! まずはあっちに行くでしゅ!」
「OK」
俺はメルルの指示に従って移動を開始したのだった。
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