第30話
あぁ……なんだろう……ここのところ頭が働かない……。
明日花が先輩とデートをするって言い出した日から数日、俺の頭はずーっとぼーっとしたままである。
なんでだ? なんでこんなことになる……。
別に普通のことじゃないか。俺が吉田を好きになったとき明日花は全力で俺を応援してくれたし、明日花に恋愛のチャンスが訪れたのならば素直にそれを応援すればいいだけだ。
が、なんでだろうか……理屈とかはよくわからないけれど脳が思考を放棄している。
「あ、明日花……昼食は学食にでも……」
「悪い、昼休みは一人で食ってくれ……」
「そ、そうだよな……。ごめん、いつもの癖で……」
あぁ……ダメだ……俺……。
初めの数日はまったく頭が働かなかった俺だったが、次第に症状は頭から体にも侵食し始めた。
なんとか週の前半は学校に登校することができていた俺だったが、水曜の夜には謎の体調不良が現れはじめ木金は学校を休むことになってしまった。
なんだか体が干からびたような感覚に襲われながらもベッドで横になる俺。
いったい何が起きている? 俺の体の中でいったい何が起きている?
高校に入って初めて体調を崩して、正直なところ困惑しております……。
まあ病院に行ったら『熱も出てないみたいですし、疲労が溜まっているのでしょう』とのことだったので重傷ではないみたいだけれど。
いったいどうしたものか……なんて頭を悩ませながら寝込んでいた金曜の夕方、とある人物が我が家を訪れた。
両親が共働きで俺一人の自宅、インターホンの音に重い腰を上げて玄関へと向かうとそこには予想外の人物が立っていた。
「鎌田くん、体調大丈夫?」
吉田である。まさか吉田がお見舞いにやってくると思っていなかった俺はかなり面食らう。
「よ、吉田っ!? え? もしかしてお見舞いに来てくれたのか?」
「まあそんなところだと思ってくれていいよ」
思ってくれていい? どゆこと……。
「鎌田くん、熱はあるの?」
「いや熱はない。単なる疲労みたいだからうつる心配もないぞ」
「そうなんだね。あ、これお見舞いに」
なんて言いながら吉田は果物の入ったスーパーの袋を俺に差し出した。
「え? ありがとう……。そんな気を遣ってくれなくてもよかったのに」
「そんなに高い物じゃないから心配ないよ。それとこっちは学校の配布物ね」
「わざわざ悪いな。せっかく来てくれたんだしお茶ぐらい出すぞ」
「いいよ。体調悪いんでしょ?」
「おかげさまでかなりマシになってきたよ。さすがにお見舞いに来てもらってそのまま帰すわけにはいかない」
「そう? じゃあ、お茶だけいただいていこうかな」
ということで家に吉田を上げることにした。医者曰くうつるようなものではないらしいのでまあ問題ないだろう……。
彼女をリビングへと案内するとお茶を淹れる。どうやら果物はすでにカットされている物らしいので、それも皿に載せて彼女に出した。
「ありがとう」
と彼女はお礼を言うと日本茶をすする。
「文化祭の準備……手伝えなくて悪いな……」
「大丈夫だよ。あとはもう前日に店の装飾とかを準備するだけだし。それはクラスのみんなが手伝ってくれるから」
「ならいいんだけど……」
吉田のことだから俺の知らないところで色々と動いてくれてそうで申し訳ない。
「鎌田くんは私の心配をする前に自分の心配をしたほうがいいんじゃない?」
「安心してくれ。月曜日には登校できると思うから」
「そうじゃなくて……三宅さん、最近、先輩とデートに行ったんでしょ?」
「………………」
どうやら吉田もそのことを知っているようだ。
「たまたま土曜日に駅前でばったり会っちゃったんだよね」
「な、なるほど……」
「体調崩したの三宅さんのことで考え過ぎちゃったからじゃないの?」
「………………」
そんな吉田の質問に俺は何も答えられない。
が、何も答えないことが肯定になってしまったのか吉田は俺の顔を見てクスッと笑う。
「三宅さんとデートしてた先輩凄くイケメンだったよ」
「まじっすか……」
「悔しい?」
「べ、別にそういうわけじゃない。俺もその……吉田に告白したときは応援してもらったし、もしも明日花がその人を気に入ったなら俺は応援するぞ」
「………………」
そんな俺の顔をじっと見つめる吉田だったが、ふいに「はぁ……」とため息を吐く。
「鎌田くんはそれでいいの?」
「言いも何も明日花の気持ちが大切だから」
「あのね、私は鎌田くんの本音に問いかけているの。三宅さんが誰が好きとかそういうことは無視して鎌田くんがどうありたいのかを」
「どうって言われても」
「鎌田くん、自分で自分の気持ちを無視するのは良くないよ。鎌田くんの本音に鎌田くん自身が耳を塞いでいたら、いったい誰が鎌田くんの気持ちに応えてくれるの?」
「俺の……本音……」
俺はどうしたいのだろうか?
明日花に好きな人ができたのならばそれを応援するべきだと俺は思う。なぜなら明日花が俺を応援してくれたから。
けれど、それはべきだという話だ。
俺の本音は……明日花とこれからも仲良くしていたいだ。これまでと同じように放課後にだらだらと時間を過ごしたりお互いの家でゲームをしたりしたい。
「だけど、それは単なる俺のエゴで」
「ああ?」
と、そこで吉田は冷めた目で俺を見つめてきた。
こっわ……。
「人付き合いなんて多かれ少なかれエゴでしかないんだから今更そんなこと気にしてもしかたないでしょ? 私が今日鎌田くんの家にお見舞いに来たのもエゴだし、鎌田くんが私に告白をしてきたのもエゴ。他人の気持ちを考えて行動を躊躇ってたらいつまでたっても幸せにはなれないよ?」
そう言って吉田は立ち上がった。
「お茶、美味しかったよ。ありがとう」
「え? お、おう……」
「まあ体調が悪いなら土日はゆっくり休めば良いよ。けれど、鎌田くんは自分の本音にもっと優しくなった方がいいと思うよ」
「わかったよ……ありがとな」
事情はわからないが吉田が俺を励ましてくれていることは理解できた。
あと、自分が男としてなかなかに情けない存在だと言うことも理解できた……気がする。
「じゃあ月曜日また学校で」
そう言って吉田は帰っていった。
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