第21話

 結局、明日花はお誕生日よりも文化祭の準備を優先しろとのことだった。


 そのため俺は当初の予定通り、放課後を迎えると吉田の待つ駅前スーパーへとやってきた。スーパーの前ではすでにやってきていた吉田が立っており、俺の存在に気づいて笑みを向けてくる。


「鎌田くん、こっちこっち」


 なんて笑顔で手を振られるものだからなんとも癒やされる。


 可愛い。


 ということで俺も手を振り返して彼女の元へと駆け寄った。


「ごめん、待ったか?」

「ううん。少し雑貨屋で買い物をしてたから、さっき来たばかりだよ」


 放課後は、先生に呼び出されて数学の成績ヤバいぞの説教を受けていたので遅くなった。


 俺ってホント無能……。


 が、必要以上に吉田を待たせずに済んだようで少し安心だ。


 吉田はポッケから折りたたんだメモ用紙を取り出す。


「必要な物はある程度リストアップしておいたよ。あとはスーパーで買い物をしながら鎌田くんの意見も聞きたいな」

「意見って俺は料理のことは全然わからないぞ?」

「いいんだよ。むしろ普段料理をしない人の意見は参考になるよ。こういうのが食べたいって思ったらどんどん言ってくれると嬉しいな」


 そういうことならば積極的に意見を出させてもらおう。


 ということで俺と吉田はスーパーに入って買い出しを行うことにした。


 スーパーでは吉田が手慣れた様子でフロアを回っていき、コーヒー豆やデザート用のフルーツを手際よく買い物カゴに入れていく。


 なんでも両親が共働きで、幼い頃から炊事洗濯は自分でやることが多いようだ。


 あ、ちなみに、俺は「なにが食べたい?」と尋ねてきた吉田にパフェと答えたところクスクスと笑われつつも意見の一つとして取り入れて貰えた。


 ということで、買い物カゴいっぱいに商品を購入した俺たちは吉田の自宅へと向かう。


 せめてもと買い物袋を持つ係を担当した俺だったが、パンパンの買い物袋二つを持つのはなかなかにハードで「片方持とうか?」と吉田に提案された。が、さすがに荷物持ちぐらいの役には立っておきたかったのでやせ我慢をして断っておいた。


 重い荷物を持つこと15分、俺たちはとあるマンションの前へと到着する。


「え? ここが吉田の家なのか?」

「そうだけど……どうかしたの?」

「いや……デカいなって思って……」


 そのマンションはいわゆるタワマンというやつだった。当然ながら入り口はオートロックになっており、窓からは豪華なエントランスが顔を覗かせている。


 これ……みんなの憧れのマンションじゃん……。


 なんて考えつつもエントランスに入ると、まるでホテルのような絨毯張りの廊下を進んでエレベーターを上る。どうやら吉田の部屋は20階にあるらしい。


 いや20階ってなんだよ……。


 おんぼろ木造一軒家の俺からしたら異次元の天空に住む吉田に困惑しつつ、エレベータ-内で増えていく液晶の数字を眺めていると『チン』という音とともにあっという間に20階に到着した。


 ということで吉田家訪問である。カードキーで家に入るといかにも高級そうな大理石の玄関が俺たちを出迎えてくれる。


 廊下を進んでリビングへと向かうと、そこには憧れのカウンターキッチンとその奥にはモデルルームのようなリビング。そして窓からは17年間育ってきて一度も見たことのない我が街の大展望が俺たちを迎えてくれた。


「す、凄い……」

「慣れたらそうでもないよ。私は料理の準備をしてるから鎌田くんはお外を見ながら待ってて」


 なんてまるで子どものようなあやし方をされたが、展望を目に焼き付けたいのでお言葉に甘えることにする。


 窓辺へと歩み寄ると見慣れたはずの街を見下ろした。


 見慣れた街ではあるが、見たことのない角度で見下ろすいつもの街はなんとも新鮮である。


 見慣れた駅前ビル。ここからは見えないけれどその前にはもうすぐなくなるトカゲクラブがあるんだよな。


 そういえばあのショッピングモールはできたとき明日花と二人で心を躍らせながら行ったっけ?


 まだ中学生でアルバイトとかもできなかったから、二人でとんこつラーメンを一つ買って分けたのは良い思い出だ。


「………………」


 なんて過去を思い出していると明日花の誕生日のことを思い出す。


 悪いことしたな……。


 今更ながら後悔の気持ちが押し寄せてくる。


 明日花にはこれまで色々とお世話になっているのだ。吉田に告白するときも色々とアドバイスをもらったし、前回の誕生日は手編みのマフラーまでもらった。


 にもかかわらず誕生日を忘れるのはさすがに酷すぎる……。


 せめてなにか埋め合わせができればいいのだけれど……。


 なんてそんなことを考えていると「鎌田くん」と吉田が俺を呼んだ。


 思っていた以上に長時間景色を眺めていたようで、気がつくとテーブルにはいくつもの料理が並んでいた。


「お、おおっ!! すげえ……」


 コーヒーはもちろんのこと、デザートやさらには俺が提案したパフェにいたるまでテーブルには所狭しと並んでいる。


「こ、これ……全部吉田が作ったのか?」

「そうだよ。って言ってもケーキは昨日作っておいたものを出しただけだけど」

「いや、凄すぎでしょ……」

「褒めてもなにも出ないよ? それよりも食べて感想を言って貰えると嬉しいかな……」


 ということで、俺はお言葉に甘えて彼女の作ってくれたデザートを頂くことにした。

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