第22話 第二部最終話

『ルーカス』


ベッドに横たわるルーカスに駆け寄り、手を握る。ルーカスの髪を優しく撫でる。


『ルーカス…うっ…何も…知らなくて…っごめん。ごめんねルーカス』


涙が溢れて言葉に詰まりながら、横たわるルーカスに話しかける。


『ルーカス、ずっと苦しんでたんだね。


すぐに気づいてあげられなくてごめんね。



こんなになるまで、どうして、何も言ってくれなかったの。


言ってくれてたら…


今度は私が、


あなたを助けるから』



ピクッとルーカスの指が反応した気がした。



『ルーカス?わかる?私よ』



ルーカスの瞼がわずかに持ち上がる。

私は手を握りしめたままルーカスの顔を覗き込む。

 ルーカスの藍色の瞳が私を捉える。ふっと表情がやわらいだ。


「…リ…ナ」


『ルーカス、ルーカス!』


私は呼びかけているのか叫んでいるのか分からないくらいに名前を連呼した。


ルーカスの口が動く。私は耳を近づけた。


「…リ…ナ…


あ…い…し…て…る」


ズキン!っと心臓が跳ね上がる。心を鷲掴みにされたようだった。


『ルーカス!私も…


私も愛してる…』



自分が口にした言葉に驚く。


あぁ私は…


最低な人間だわ







カオリ…


こんな状況



幼いあなたには酷でしょう。到底受け入れられないし、許せない行為、人としても母親としても…


それが分かるから、エミリオは…


こんな駄目な私を、カオリの中の母親としての私を守ろうとしてくれてる。死んだことにすることで。極端な選択で、


身勝手な私の真意を試そうとしている


大切なものは一つではないのに。


私は罪深く欲深い人間だわ



あなたには、複雑な環境ではなく、


特別じゃなくていい、平凡な環境で育ってほしい。平凡…普通… それがいかに難しいことなのかあなたにはまだ分からないよね。


普通こそが、皆が努力を重ねて守っている特別なのものなのかもしれない。


きっと、あの時のルーカスは私をこんな気持ちで突き放したのね。


全てを手に入れようとできないから




エミリオは…優しい…その優しさに甘えすぎてた。 そんなエミリオを傷つけた私は、もう戻ることも許されない。


謝ってすむようなことじゃない。


悲劇のヒロインぶっていて、結局はあなたをずっとずっと傷つけていた


エミリオはカオリへも愛情を注いでくれている。 カオリも父親のエミリオを慕っている。 無理矢理引き離すことなんて出来ない。




もう私はあなた達に顔向けできない


こんな自分が許せない…


ルーカスには…誰もいないから


こんな陳腐な言い訳、言うような人間だったのね私







ルーカスの瞳は瞼に覆われていた。


一筋の涙が頬を伝っていた。




ルーカス!ルーカス!


そこへ若い騎士様が勢いよく飛び込んできた。その声に思考が一気に現実に引き戻される。


「ルーカスのご家族の同意がとれました!

こちらです」



先生達は書類を確認すると、周囲のスタッフへ指示を出し治療にとりかかる。


「リナさんこちらへ横になってください。心の準備はいいですね」



「はい。お願いします。」



緊張して身体が強張っていた。


ベッドに横たわると、すぐに動かないように軽く固定される。

慌ただしく動き回るスタッフの方達が視界に入り込んで、否応なしに、心臓の鼓動が速くなる。



やがて装置が作動して血液が採血されていく。




ウッ!!!


鈍い痛みと吐き気が襲ってきた。


大丈夫、これくらい我慢できる



意識がだんだんと朦朧とする中で


繰り返し襲ってくる苦痛


どれくらいの時間がたったのか


延々と繰り返される痛み



持続する苦痛ではないのが救いだった。



食事を摂れる気力もないので、


お手洗い以外でベッドを立ち上がることはなかった



栄養補給も管によって行われた。



起きているのか寝ているのかも分からず、



ただ繰り返される苦痛に延々と耐えて



日々が過ぎてゆく



そのうち目を開けることもつらくなり、



起き上がる気力もなくなっていった


何も考えることも出来なくて、



ただただ歯を食いしばり、必死に耐える



唇を噛み締めすぎて、口の中に生温かいものが充満しても弱音をはきたくなかった。



同じ病室で苦しんでいるルーカスを心配させたくないから



治療の一時中断の提案も受けたけれど、ルーカスに回復の兆しが見えていたので、このまま続行を強くお願いした


私への命の危険がないギリギリの段階までを…




そのうちにまるで生きる屍のようにぐったりとした状態の日々がつづいた


治療を終えたら私は一一一一



✳︎✳︎✳︎


穏やかな陽が降り注ぐある晴れた日。


とある場所で結婚式が執り行われていた。



「お父さん、どう?似合ってるかな。緊張する」



「あぁ。…綺麗だよ」


ゆるくウェーブがかかる広がっていた髪は成長するにつれて、まとまりのある髪へと変化していた。


髪をアップにまとめた姿はあの時の母親をみているようだ。


「お母さんにも見せたかったな…



きっと天国から見てくれてるよね」



「あぁ」




「ちょっとお父さん今から泣いてどうするの。式はこれからよ」






「カオリ、おめでとう」






式場には多くの参列者がお祝いに訪れていた。





盛大な式を終えて、祝福の嵐に笑顔で応える新郎新婦を、


遠くから眺めている人物がいた



2人の門出をひっそりと祝うと、


壮年の男性は歩き出す。


まだ泣き止まない女性の乗った車椅子を押しながら



少し白くなった藍色の瞳で女性をとても愛おしそうにみつめながら





  第二部 fin


✳︎✳︎第三部はサラお嬢様視点のお話となります✳︎✳︎


ここまでお読みいただいたかたがいるかは分かりませんが、お時間いただきありがとうございましたm(_ _)m












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本当はあなたを愛してました〜after story〜 涙乃(るの) @runo-m-runo

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