第15話

「…」

「…」



私達はしばらく淀みなく流れる川のせせらぎを一緒に眺めていた。

水の流れる音はどうしてこんなにも心地良いのだろう

荒んだこころもここで綺麗に洗えるといいのに



そのうち、訥々とルーカスが話し始めた



「今日は‥カオリちゃん…一緒じゃないの?」




「うん。」


「一人で…心配じゃない?」


「エミリオが…いるから」


ルーカスがはっと息をのむのを感じた。


ルーカスとはただの幼馴染



これ以上自分の気持ちが分からなくなることがないように、一線を引くために


あえてエミリオの名を口にした。


「今日は休みなの?それじゃあリナもこんなところにいないで帰らないと。


せっかくの家族の休日を…邪魔してごめん」



「ううん、謝らないで。」


邪魔だなんて思っていない。どちらかというと私がいる方がエミリオには邪魔だと思うから



「なにかあった?

変装してることと関係ある?」


咄嗟に頭から被ったスカーフの上に手を載せる


すぐに見破られたのは恥ずかしい


こんな時でも自分のことよりも私のことを気にかけてくれる


どうして…


私なんかに優しいの


ルーカスはもっと自分のことを大事にしてほしい


でないと私…



あの人に言われたことも


エミリオとギクシャクしていることも


出て行くべきなのか悩んでいることも


何もかも相談してしまいたくなる


ルーカスと私はそんな関係ではないのに



一方的に頼ってしまいたくなる


なんて自分勝手なんだろう


私もルーカスを苦しめてるあの人と変わらない


「わ、わたしのことよりも、ルーカスは?

どうしてるの?」



返答にこまって抽象的すぎる質問をする自分に驚く。



よりにもよって、どうしてるのとか


答えにくすぎる。


コミュ力のない自分が情けない。



「僕は一一



どうしてるのかな。自分でも分からない。



あの日、リナに再会してから



ずっと考えてる」




私は話たい気持ちをぐっと堪えて、ルーカスの言葉に耳を傾けた。



「ふっ  自分が情けなくて笑える。


リナにカッコつけて、リナを遠ざけることが正しい。


そうすることがまるで美徳だとでもいうようにあんな態度をとったのに。全部知られていたなんて…


完全に自分に酔ってた


自惚れていたんだ



リナを‥…



どんなことがあってもリナの一番が自分だと



離れていても決して変わることはないと。


おかしな奴だよね。



ひどい言葉で傷つけて、突き放しておきながら



それでも一番でいたいなんて。


でもあの日、リナと再会した日、現実を突きつけられてショックだった。


リナの幸せを誰よりも願っていたのに、


リナと…カオリちゃん…一緒にいるのを見て、


その隣に自分がいられない現実が許せなかった。



日向の道を歩んで欲しいと望んでいたのに、


歪んでるだろ僕?」



自嘲気味に語るルーカスは自暴自棄になっている。


そんなルーカスの淀んだ瞳をみつめて、ただ黙ってルーカスの続きの言葉を待った。



  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る