第3話

私とカオリが隣り合わせに、ルーカスが向かい側の席に着いた。


私達はお店のおすすめのケーキセットを注文した。紅茶は先に運ばれてきた。

ティーポットがテーブルに置かれて、カップがそれぞれの前に用意される。カップの紅茶がなくなると、ティーポットから各自のカップへと注ぐのだ。


カオリは紅茶が少し苦手なので、砂糖を少し入れる。


「リナにそっくりだね。

それにしても…こんな所で会えるなんて驚いた」


『うん…』


私は頷いて一言声に出すのが精一杯だった。ドクンドクンドクンドクンと心臓の音が盛大に聞こえる。落ち着いて、落ち着いてと平静を装う。


ルーカスは少し光沢のある、仕立ての良いグレーのスーツを見に纏っていた。紅茶を飲む仕草にも、見惚れる人は多いのではないだろうか。年齢を感じさせない美貌は、周囲の視線を集めていた。遠慮がちにではあるけれど、テーブル席のあちこちからチラチラとこちらを窺う女性達が視界に入る。


きっと、平凡な容姿の私と一緒なのが不思議なのだろう。周囲からは私達はどういう風に見えているのだろうか。


もしかして家族に見えているだろうか…



カオリは私にそっくりで、黒い髪にゆるくウェーブがかかっている。私も幼い頃はこういう感じだった。だから、ルーカスのサラサラとした髪が羨ましかった。今はくせ毛はだいぶ落ち着いている。まぁ、結ぶことが多いから目立たないだけかもしれないけれど。


こうして子供と一緒にルーカスと過ごす日々をどれだけ夢見ていたことか…。


私はまた感情が昂り、知らず涙がでそうになるのを必死にこらえる。


「お名前聞いてもいい?」


ルーカスはカオリに話しかけていた。カオリは声をかけられたことに照れてしまい、黙って俯く。それでもルーカスの視線に気づくと慌てて私に助けを求めるように抱きついてきた。


そんなカオリの背中を優しく撫でて、名前を答えるように促す


「カオリです」


名前を言い終えるとギュッと私に抱きついて顔を隠していた。


「カオリちゃん。そう、名前も可愛いね。」


ルーカスに名前を褒められたことが嬉しかったのか、カオリは顔を上げて姿勢を元に戻した。


「おじさんは?ねぇ、おじさんの名前は?」


「僕はルー…」

『#ルーク__・__#』


私はルーカスの言葉を遮った。


「え」

ルーカスは黙って私を見つめていた。


『こちらのお兄さんは#ルーク__・__#お兄さんよ。お母さんの学園時代のお友達なの』


カオリはきっとルーカスのことをエミリオに話すわ。ルーカスの名前を聞くと傷つくかもしれない。余計な心配をさせたくない。


「ふーん。ルークお兄さん?」


ルーカスは表情を崩すことなく即答してくれた。


「あぁ。そうだよ。よろしくねカオリちゃん」


ルーカスも何かを悟ったようで私に合わせてくれた。本当は子供に嘘をつくのは良くないのだけど…

ルーカスに微笑まれてカオリは照れていた。


そこへケーキが運ばれてきた。カオリはケーキに夢中になって私達のことは忘れているようだった。口元についたクリームを拭ってあげたり、こぼして服を汚さないようにナフキンを敷いたりしていた。


「すっかりお母さんだね」


『えっ…』


ルーカスは私を見て優しそうな表情を浮かべていた。






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