第2話 再会

パタパタとせわしなく走り回るカオリ。お買い物が大好きで色々な物が気になる年頃だ。


『カオリ、ほらそんなに走り回ると迷子になるよ~。手をつないで、ね」


「大丈夫だよ、お母さん、ねぇ、ケーキ、ケーキ、あそこのお店でしょ」


カオリはケーキ屋さんを見つけて駆け出していた。あまり人通りは多くないとは言え、街中なのでそれなりに人の行き交いがある。案の定カオリは前を歩いていた男性にぶつかった。



「わっ」


ぶつかった反動で転ぶカオリ。


『カオリ、すみません』



私は慌ててカオリに駆け寄り、立ち上がらせた。ぶつかった相手の方にすぐさま謝る。カオリの怪我を確認して、かすり傷程度なことに安心し、汚れを払っていた。そして立ち上がり、改めて男性に向き合う。



『!』

「!」


目を合わせた瞬間身体中に電流が流れたかと思った。それくらい衝撃で動けなかった。そこには--


思い出の中のあの時と何一つ変わらないルーカスが佇んでいた。


『ルーカス…』



もう、決して2度と会うことはないと思っていたのに…


一瞬そよ風が通り過ぎて、ルーカスの黒い髪がサラサラと揺れた。少し疲れた様子ではあるけれど、乱れた髪を整える仕草も懐かしい。


あぁ…ルーカス…

本当にあなたなのね

こんな風に再会するなんて



「リナ」


ルーカスに名前を呼ばれたのはいつ以来だろう。


リナ…ただ自分の名前を呼ばれただけなのに、何故こんなにも胸が締め付けられるの…。


心に折り合いをつけて、やっと前を向いていけそうだったのに。


あなたの声を聞いただけでこんなにも心が揺らぐなんて…






「お母さん?どうしたの?ねぇケーキ買いに行こうよ」


カオリは先程転んだことも忘れたのか、私の手をぐいぐい引っ張る。

私の顔を見て、引っ張る手を止めて私のスカートを掴んできた



「お母さん…泣いてるの?」


カオリがスカートをちょんちょんと引っ張りながら、心配そうに見上げてくる



自分が通りに佇んでいる事も忘れて、私は答えることもできずに、声を出せずにただただ涙を流していた。


ルーカスから目を逸らすことも出来ずに。


ルーカスはカオリを見ると、カオリに向かい微笑んでいた。

カオリはすぐさま私のスカートの後ろに隠れた。 


「あ、嫌われちゃったかな」


私のスカートを掴みながらヒョコっと顔を出すカオリ。

ルーカスを見て照れているだけなのに。ダメだ、上手く言葉が出ない。



「リナ…ちょっと話せないか…な?」


ルーカスはハンカチで涙を拭ってくれて、そのままそのハンカチを差し出してきた。



ハンカチ越しにルーカスに触れられた頬が、熱を帯びているのではないかと思うくらいに違和感があった。

逆らえずに差し出されたハンカチを思わず受け取った。


ハンカチで目元も拭うと、ほんのりルーカスの匂いがした。


あぁ…私はなんてダメな人間だろう。


こんな姿、エミリオに見せられない。


「可愛いお嬢ちゃん、僕はお母さんとは知り合いなんだ。少しお母さんと話したいんだけど、一緒にケーキでもどうかな?」



ルーカスはカオリに向かい話しかけていた。


「ケーキ?ねぇ、お母さん、ケーキ一緒に食べていいの?」


ケーキが大好きなカオリはルーカスに懐柔されていた。そんな様子がおかしくて、泣きながら笑っていた。



そんな私達の様子をルーカスはじっと見つめていた。



私はカオリと手を繋いで、丁度行く予定だったケーキ屋さんにルーカスと共に入ることにした。




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