異世界探偵アレン

星野チーズ

封印された学園

第1話 転生と出会い

亜蓮玲太は、窓の外をぼんやりと眺めていた。いつもの日常、いつもの風景。それが、彼にとってはどこか息苦しかった。


高校の帰り道。夕暮れの街を歩きながら、亜蓮は無意識のうちに自分の存在について考え込んでいた。


「僕って、本当にこれでいいのかな…?」


周りの友人たちは皆、目標や夢を持って生きていた。スポーツに打ち込む者、勉強に励む者、趣味に没頭する者――それぞれが自分の道を見つけて進んでいる。だが、アレンにはそれがなかった。


「なんで、僕には何もないんだろう…」


学校では特に目立たず、家では両親がいつも仕事で忙しく、会話も少なかった。彼の中には常に孤独感が漂っていた。誰も自分のことを気にかけてくれない、そんな思いが彼の胸を締めつけていた。


ただ一つの逃げ場――それは、彼が熱中しているミステリー小説や推理ゲームの世界だった。現実の問題は何も解決しないが、その世界に没頭することで、少しだけ心が救われる気がしていた。


その日は特に、心が重かった。


学校の帰り道、亜蓮はふと、これまで歩いたことのない細い路地に足を向けた。夕暮れが街を赤く染め、路地裏は陰になっていた。どこか非現実的な空間に迷い込んだような感覚が彼を包み込んだ。


「こっちに行けば、何かが変わるかもしれない…」


根拠のない期待が胸に湧いたが、それも一瞬のことだった。


突然、背後から猛烈な音が響いた。亜蓮が振り返ると、猛スピードで車がこちらに突進してきた。


「――!」


反射的に飛びのいたが、間に合わなかった。激しい衝撃が彼の体を襲い、意識が一瞬で暗闇に沈んだ。


静寂。そこには何もない空間が広がっていた。


「ここは…どこだ?」


亜蓮は自分がどうなったのか、理解できなかった。体の感覚がまるでなく、浮遊しているような感覚だけが残っていた。


「僕…死んだのか?」


恐る恐る自分に問いかけた時、目の前に突然光が現れた。眩しいほどの光の中から、誰かが現れた。


それは、まるで人間の形をしているが、どこか違う存在だった。光そのものが意志を持っているような、神秘的な存在。


「あなたは…誰?」


亜蓮が尋ねると、その光の中から声が響いた。


「私は、この世界の創造主。君の魂を、この世界に連れてきた者だ」


その声は、どこか心地よく、同時に不思議な力強さを持っていた。


「創造主…?」


亜蓮は混乱していた。自分は今、死んだのではなかったのか。これが死後の世界なのか――考えがまとまらない。


「君の魂には、特別な力がある。君がそれを意識していなくとも、君はいつも答えを探し続ける者だ」


創造主はそう続けた。亜蓮が今までミステリーや推理に惹かれてきたこと、その冷静な思考と探求心が、彼を選ばれた理由だという。


「君を、新しい世界に送りたい。その世界は、今大きな危機に瀕している。君の力が、その世界を救う鍵になるかもしれない」


亜蓮は言葉を失っていた。突然のことに、まだ頭が追いつかない。


「僕が…? 僕にそんな力があるなんて…信じられない」


彼はただの高校生だ。何の特技もない、普通の人間だと思っていた。だが、創造主は穏やかに微笑んだように見えた。


「君には、まだ自分の本当の価値を知らないだけだ。だが、その答えは、新しい世界で見つけることができる」


亜蓮は一瞬迷ったが、何かが彼の中で変わろうとしていた。今までの現実の世界では感じられなかった、新しい希望が芽生え始めていたのだ。


「分かった…その世界に行ってみたい。自分が何かできるのか確かめてくるよ」


亜蓮は、震える手を握りしめながらそう答えた。自分が何者であるのか、今までの人生では見つけられなかった。しかし、ここで終わるのは違う――そう感じていた。


創造主は満足したように頷き、静かに語りかけた。


「君の選択を尊重しよう。だが、その世界は君が思っているほど簡単ではない。試練も危険も多く、君を試す者が現れるだろう。しかし、君の中にある真の力を見出せれば、その世界を救う道が開かれる」


「真の力…?」


亜蓮は、創造主の言葉に疑問を抱いた。今まで普通の高校生だった自分に、そんな大きな力があるとは思えない。


「君の持つ『無色の魔力』は、まだ君にも理解できないかもしれないが、全ての魔力を統べる可能性を持っている。それを解き明かすのは君自身だ」


亜蓮はその言葉に困惑しつつも、自分の中に何か特別なものがあるのだという期待がわずかに膨らんだ。これまで何の特徴もない普通の存在だと思っていたが、異世界では違うかもしれない。そう思わずにはいられなかった。


創造主が手を掲げると、周囲の空間が再び変わり始めた。空が光に満たされ、亜蓮の体が徐々に溶けるように消えていく感覚が広がる。


「さあ、行きなさい。君の冒険はこれから始まる」


その声を最後に、亜蓮は完全に意識を失い、次に目覚めたとき、そこはもう彼が知っている世界ではなかった。


「……ん?」


冷たい風が亜蓮の頬を撫でた。見慣れない広大な空と、異様な静けさが彼を包み込んでいた。周りには、見渡す限りの草原と、青く透き通る空が広がっている。目の前には、巨大な城のような建物がそびえ立っていた。


「ここは…どこだ…?」


亜蓮はゆっくりと立ち上がり、体の感覚を確認する。自分が生きていることにほっとしつつも、明らかに異世界であることを感じた。空気、景色、そして何より、自分が持っている不思議な感覚。


「魔力…?」


彼は突然、何かが自分の周りを包み込んでいることに気づいた。それは言葉にできないほど繊細で、それでいて力強い。自分の体の中から湧き上がるエネルギー――それが魔力だと直感的に理解した。


「この感覚…不思議だな…」


亜蓮はその感覚に少しずつ慣れようとしながら、周りを見回した。この異世界で、彼はどんな役割を果たすのか。今はまだ何もわからない。ただ、一つだけ確かだったのは、自分の新しい冒険が今、始まったということだ。


その時、彼の後ろで草を踏む音が聞こえた。振り向くと、そこには一人の人物が立っていた。


「びっくりしたー!、今の転移魔法?」


アレンが目を向けると、そこには長い金髪の少女が立っていた。


「私はリナ・エルフィード。あなたその制服と今の魔法、この学園の生徒よね?名前は?」


彼女の問いに、亜蓮は一瞬戸惑った。この異世界で、彼の名前「亜蓮」がどのように受け取られるのか、全くわからなかったからだ。異世界の人々にとっては、奇妙に聞こえるかもしれない。日本語の名前は、ここでは馴染みがないだろう。


そして、見知らぬ新しい世界に来たのに不思議とこの世界の言葉などが頭に入っていた

(先ほどの創造主からの贈り物だろうか)そんな風に考えてる中、


亜蓮はふとある考えが浮かんだ。この新しい世界で、新しい自分として生きていくなら、名前もこの世界に合ったものに変えるべきではないか。彼は日本ではずっと目立たない存在だったが、今この場所で新たな人生を歩むのならば、名前も新しくした方がしっくりくるような気がした。


「僕の名前は…アレン・スレイター、よろしく!

今日からここに転入することになってね、今のは親戚に転送してもらったんだぁ」


リナは微笑みながら、軽く頷いた。


「アレン・スレイター君かぁ、ここで会ったのも何かの縁だね!よろしくね

よし!この私が学園を案内してあげましょう」


彼女はそう言うと、振り返って学園の方向へ歩き始めた。


アレン――彼は新しい自分として、この異世界で生きていくことを改めて決意した。そして、リナに続いて足を踏み出す。自分がこの世界で果たすべき役割を、まだ知る由もなかったが、その名前と共に、新たな冒険が始まるのだと確信していた。





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