ソフト指しの闇

@MimiStrongest

第1話

薄暗い対局室には、緊張した空気が漂っていた。壁の時計が、対局開始の時間をゆっくりと刻む音だけが響く。主人公の真田圭一は、17歳の高校生。彼は小さな手帳を持って対局台に座っていた。その手帳には、将棋の定跡や面白い局面がびっしり書かれている。でも、実はそれだけじゃなかった。


真田には秘密があった。彼は、強力なAIソフトを使って、対局相手の動きを分析し、自分の指し手を決めるという、少し大胆な戦法を使っていた。将棋が大好きな彼にとって、リアル大会での勝利は名声を得るチャンスであり、生活を支えるための大事な収入源でもあった。


「真田君、準備はできてる?」と、隣に座る対局者が声をかける。彼の名前は小林健二。将棋の名人戦にも出たことがある実力者だ。真田は一瞬ドキリとしたが、すぐに平静を装った。


「もちろん、いつでもどうぞ。」と、真田は笑顔を作った。心の中では、スマートフォンが机の下で震えているのを感じながら、対局開始の合図を待っていた。


合図とともに、真田は手元の手帳を開き、急いで指し手を考えた。対局はすぐに白熱し、真田は瞬時にソフトからの指示を受け取る。彼の脳内では、AIが次の一手を導き出していた。数秒後、彼は「8八角」と声を出した。


周囲の目を気にしながら、真田は対局に集中する。小林は微妙な表情を浮かべながら、真田の指し手をじっと見つめた。彼はこれまでの対局で真田の実力を知っていたが、今回の手は何かが違うように感じていた。


数手が進むにつれて、小林は真田の狙いを探ろうとするが、真田の指し手はますます巧妙になっていく。真田の心臓は高鳴り、彼は自分がこの瞬間にどんな方向に進むべきか、わからなくなってしまった。周りの棋士たちが彼の動きを注視している中、真田は必死に冷静さを保とうとした。


「真田君、今日はちょっと元気がないね。」小林が不意に言った。


その言葉が真田の心に波紋を広げる。彼は自分の行動が知られないか不安になりながらも、「ただの疲れです。少し集中しすぎてしまった。」と答えた。


対局が進む中、真田はAIの指示に依存している自分に気づいた。勝利のために選んだこの道は、本当に正しかったのだろうか。彼は自らの信念と向き合うことになった。


周囲の注目が彼に向かっているが、その中で何を見せるべきなのか、どう振る舞うべきなのかを考えていた。将棋を通じて自分を表現したいと願っている一方で、その表現がAIに依存しているなら、それは本当の将棋とは言えないのではないか?


次の手を指す瞬間、彼は自らの意志で一手を決めた。AIの助けを借りず、自分自身の将棋を指すことを選んだ。その瞬間、彼は心の中で何かが変わるのを感じた。勝ち負けにこだわるのではなく、自分の道を見つけるための対局だと認識できた。


彼が選んだその道が、どんな運命を呼び寄せるのかはまだわからなかった。これからの対局が、真田にとって新たな挑戦となることを彼は期待していた真田は、緊張感と期待感の入り混じった心持ちで次の一手を指した。彼が選んだ手は、かつて自分が考えたオリジナルの形。それは、彼自身の将棋であり、これまでの自分を振り返る瞬間でもあった。指した瞬間、周囲の視線が彼に集まる。


小林はその手をじっくりと観察し、思わず眉をひそめた。彼にとって、真田の一手は予想外のもので、少なからず動揺を与えたようだ。真田はその様子を見て、少し安心した。自分が他の棋士に影響を与えられる存在であることを実感したからだ。


数手進むにつれて、対局の流れは変わっていった。真田は、AIの指示を頼りにするのではなく、自分の感覚を信じて局面を読み取ることに専念した。考える時間は増えたが、心の中のざわめきが次第に静まっていくのを感じた。


小林は苦しそうに頭を抱え、思考を巡らせていた。彼の思考は真田の一手に振り回され、次第に真田が思い描いていた通りの展開に持ち込まれていく。真田は、勝利を意識するよりも、将棋を楽しんでいる自分に気づいた。


「お前、強くなったな。」小林が口を開いた。真田はその言葉に少し驚いたが、同時に嬉しさも感じた。自分の成長を認めてもらえたことが、心の奥に小さな自信を生んだ。


対局が進む中、真田は自分の成績がどうなるかよりも、将棋を指す楽しさを実感していた。彼は、自分自身のスタイルで勝負を挑むことの意義を再確認していた。これまでのプレッシャーから解放され、ようやく本当の自分と向き合うことができたのだ。


次第に局面が佳境に入り、小林は最後の攻撃を仕掛けてきた。真田も負けじと対抗し、自分の持ち味を生かした指し手を続ける。互いに熱くなり、将棋がもたらす楽しさと緊張感を存分に味わっていた。


最後の数手が進む中、真田は冷静に局面を見極め、勝ち筋を見出した。その瞬間、彼はこれまでの苦労や不安が吹き飛んでいくのを感じた。勝利が目の前にあるのに、なぜか心は晴れやかだった。


「俺の勝ちだ。」真田が言ったとき、小林はあっけにとられた表情を浮かべた。


「まさか、ここまで来るとは思わなかったよ。素晴らしい指し手だった。」小林の言葉に、真田は思わず笑顔になった。彼は勝利の瞬間を味わいながらも、自分が成長できたことに心から感謝した。


対局が終わった後、真田は仲間たちと共に喜びを分かち合った。自分のスタイルで勝利したことで、自信がついたのだ。これからも、AIに頼らず自分の力で将棋を楽しむことを決めた。


真田は、これからの将棋人生にワクワクしていた。彼が選んだ道が、どんな未来をもたらすのか。新しい挑戦が始まったばかりだった。

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