【学園恋愛小説】星降る図書館でいつか君と

藍埜佑(あいのたすく)

第1話: 「桜舞う出会い、運命の序章」

 桜の花びらが舞う春の風に乗って、春原千紗の長い黒髪が揺れた。彼女は深呼吸をして、桜花学園の正門をくぐった。由緒ある全寮制の進学校、この場所で彼女の高校生活が始まる。


 千紗は周りの生徒たちを観察した。みな自信に満ちた表情で、まるで自分の居場所を見つけたかのようだった。彼女は不安を感じながら自問した。


「私はまだ何者ではない……なんでみんなはあんなに自信に満ちた顔でいられるんだろう? 私は……いつか何者かになれるのだろうか?」


 入学式が始まり、校長の長い演説が続く中、千紗は自然と隣の席に座った少年に目を向けた。凛とした横顔、真っ直ぐな眼差し。彼は真剣に演説に聞き入っているようだった。


「あの、えっと……」


 千紗は小さな声で話しかけた。少年はゆっくりと顔を向け、静かに「はい?」と返した。


「あの、プログラムを忘れてしまって……何時まであるか教えていただけますか?」


 少年は無言でプログラムを差し出した。千紗は「ありがとうございます」と微笑んだが、少年は無表情のまま前を向いた。


 式が終わり、千紗は自分の教室に向かった。ふと、先ほどの少年が同じ方向に歩いているのに気がついた。


「もしかして、同じクラス……?」


 予感は的中し、少年は千紗と同じ1年A組の生徒だった。担任の先生が自己紹介を促すと、少年は前に立った。


「鷹宮遥斗です」


 簡潔な自己紹介。クラスメイトたちがざわつく中、千紗は彼の姿をじっと見つめていた。


 昼休み、千紗は教室の隅で一人弁当を広げていた。周りではグループができつつあり、楽しそうな会話が飛び交っている。彼女は寂しさを感じながら、ふと窓の外に目をやった。


 そこに鷹宮遥斗の姿があった。彼は中庭のベンチに座り、一人で本を読んでいた。その孤独な背中に、千紗は何か引き寄せられるものを感じた。


「私も、あの人も……まだ誰でもない……何者にもなれていない……」


 その夜、寮の自室で千紗は日記を書いた。


『今日から高校生。でも、まだ何も変わった気がしない。私は誰なんだろう? このままじゃいけない。絶対に、「何者」かになる!』


 彼女は力強く日記を閉じた。窓の外では、満月が静かに輝いていた。


 一方、隣の部屋では遥斗が天井を見つめていた。彼もまた、心の中でつぶやいていた。


(俺は将来の目標を見つけられるんだろうか……俺は、まだ何者でもない……)


 二人の高校生活、そして純粋な恋の物語が、こうして始まった。


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