第14話ー②
祭壇へ急ぐ途中、勇者の仲間の一人がいることに気付いた。あれは確か……フィロメーナだったか。癒しの魔法の使い手。一人ならば問題なさそうだ。適当にいなして先を急ごう。
そう思って近づいたが、全く反応がない。こちらにまるで気づいていない。ずっと、集中して魔法を使い続けている。治癒魔法を、ずっと一心にかけ続けている。
「何を、している……」
思わず普通に話しかけてしまった。そんなことをしている場合じゃない。今なら一撃で葬ることもできるのに。それがまたできなかった。
「仲間の治療です」
彼女が迷いなく仲間と断言したのは、見知った顔だった。
「デイジー……」
彼女が勇者側についたという連絡があったのは随分前だ。そこから旅をして勇者の仲間としてこちら側にとっては脅威ですらあった。ここで何があったか分からないが、彼女は敗れて伏している。血の量からみてかなりの傷だったはずだが、傷口はそこまで深くない。フィロメーナが治したのだろう。
「デイジーを治したらすぐに行きます。一度助けてもらった恩がありますので今は見逃しますが、次に会えば確実に討ち取ります」
彼女はそうして、治癒魔法を使い続ける。傍に魔王がいるというのに、自分を守る魔法など何も使わず。魔物を助けるためだけの魔法をただ使い続ける。戦うどころか自身にも影響が出そうなほどの量の魔力を使って。
「………………ごめん」
誰に対してなのか、何に対してなのか。自分でも理解のできない謝罪の言葉だけを残して先を急ぐ。よく見れば、デイジーの傍には焼け焦げたような蔓が落ちていた。この城に残っている魔物で、植物系の技を使えるとしたらアミしかいない。彼女達を争わせて、傷を負わせて。デイジーに致命傷を負わせるくらいの攻撃をしたのだとしたら、アミもきっと。
苦しい。苦しい。苦しい。
何度も振り切ったはずなのに。決意を固めたはずなのに。いつだってすぐに揺らいで、迷って、そんなことばかりだ。
「リュカ様!」
行く先でマナと出会えた。怪我はしているがどうやら無事らしい。治癒魔法をかけつつ二人で先を急ぐ。
「勇者はどうなったんですか?」
「分からない……相変わらず捕捉ができなくて。ごめん」
「……顔色が悪いですね」
この暗がりでさえもそう言われるほどか。マナにさえ心配をかける自分が嫌になる。
「リュカ様、一度止まってください」
祭壇まであと少しだというのに、マナは一度足を止めた。そして至近距離まで近づく。リリーのように何か渡すものでもあるのだろうか。
と。
最大火力の攻撃魔法が放たれた。
誰から? マナから。急いで処理はしたものの頭が追い付かない。殺されかけた。殺されかけた? 今、どうして? 逃げようと思ったのか。今? まさか。
「……今なら、殺せると思った?」
意図があまりに分からずカマをかけてみる。
「さすがにそこまで馬鹿じゃありません」
その答えに安堵して少しだけ軽口を叩いてみる。
「ギルベアトとは違って?」
「馬鹿にしないでください。ギルベアト様は底抜けに頭が悪いだけです」
その言い分の方が酷いような気がするが、そこは問題ではないのだろう。
「私は怒っているんですよ」
それは見れば分かった。マナとは数年ではあったけれど一緒に過ごした中だ。怒っている時はいつもより口調がきつくなって早くなる。
「私の家族は、たかだが数分の時間稼ぎのために見殺しにして良い存在ではありません」
家族、か。ここに来るまでにクリスやアミを失ってきたはずだ。どういった別れ方をしたのかは知らない。ただ、血の跡を見ればどういう結末を迎えたのかは大体想像がつく。そして、ここに皆がいないのが答えだ。リリーのことも聞かれてはいないが、僕の顔を見て聡い彼女は推察したのだろう。
「その覚悟を見た上で腑抜けた顔をしているので腹が立ちました。この薄情者」
酷い言われようだが、事実だ。
彼女達が、自らの尊厳も命もすべてかなぐり捨ててまで作ってくれたこの時間にこんなことをして過ごしている場合じゃない。最後の最後まで悩んで苦しんでいる場合じゃない。
絶望させた。失望させた。無謀な試みにそれでも最期までついてきてくれた。それは単に無駄死にさせるためじゃない。
あの時守れなかった仲間を、自ら手にかけた人々も、こんな自分のために命すら投げ出してくれた仲間を、すべてを守るために、できる限りすべての人々に報いるために、すべての人々が幸せであるように。
そのために、時を巡るんだ。
思い切り両手で自分の頬を叩く。熱くなる頬とは裏腹に頭は冷えてきた。もう大丈夫だ。
「忘れない。なかったことになんてしない。絶対に無駄になんてしない。この世界で見たこと、したこと、出会った人達、すべてを」
剣に手をかける。勇者時代から肌身離さず持っていた、僕の誇り。
「連れて行く、僕が背負っていく」
マナはその言葉を聞いて安心したのか。
「ではリュカ様。約束を破られたので明日の食事はなしですね」
嬉しそうにそんなことを言った。なんのことだろう。約束、食事? あ。
『失敗も弱音も許容しません。もし今後このようなことを言われることがあれば、明日の食は保証されないとお思いください』
ああ、あれか。明日の食事の心配なんてもうする必要はないのに。マナから食事の話題が出ると安心する。
「そうだね。じゃあ……明日、クリスとデイジーにも伝えておくよ」
もう自分のもとに二度と戻ってこない仲間の名前を上げて、あるはずのない未来の話をする。
「ええ、その言葉死んでも忘れないでください」
くすりとマナは嫌な冗談を言った。本当に、死んでからも祟られそうな気がする。
「死なないよ。それは……必ず、約束する」
善処ではない。必ずやり遂げなければならないことだ。
祭壇へと続く扉を開ける。その先には。
やはり、か。
何度殺しても奇跡の復活を果たした、人類の希望がそこにいた。
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