第14話-①

 何をやっているんだろう。


 ずっと憎んできたはずだった。憎らしくて恨めしくて許すことなんてできるはずのないこの間違った世界を終わらせる。そのために、そのためだけにどんな犠牲を払ってでも突き進んできたはずだったのに。



『マナは……人間のところへ、帰りたい?』



 馬鹿げた問いをした。肯定されたら一体どうしていたのだろうか。肯定されたら、時巡りを諦めたのか。馬鹿馬鹿しい。もう戻ることなんてできやしないのに。


 自分は殺しすぎた。


 時巡りのためだけに命を摘んで奪って弄んだ。汚して汚して汚れ切ったこの手で自分が望む綺麗な世界だけを掴み取ろうとしている。都合よく奪い尽くして枯れたこの世界なんて顧みようともせずに。


 それなのに。なんでだろう。

 何をやっているんだろう。


 作った魔物に感情を与えた。憐れんだからか自分が寂しいからか、理由は今でも分からない。勇者の仲間を助けた。放っておけばよかった。勇者一行を殺そうとしているのに、助ける必要なんてどこにもない。むしろ好機だったはずだ。なのに。悲しんでいる仲間達の姿を見て。恋人が村で待っていることを聞いて。どうしてか、その場で呪いを解いた。解いてしまった。



 その甘さがこれだ。



 運命なんてものじゃない。すべて自分が馬鹿だったからだ。甘くて弱くて大切なものすら見落として、だからあの時も仲間を、愛する人を失った。

 そして、今もまたそれを繰り返そうとしている。



「リリー……」



 腕の中で横たわる彼女は右足と左腕を失い、消えるまで幾ばくかの時間しかない。食堂が破壊された際、本来なら真っ先にマナを保護して祭壇へ向かうべきだった。

 それを、マナ達の位置を把握した際に、たまたまリリーのいた位置に勇者が現れていたことに気付いた。マナの傍にはクリスがいて、リリーには誰もいなかった。終わる世界で、消滅する存在なのだから気にすることなんて本当はなかった。そのはず、だったのに。


 駆けつけた頃にはこの状態だった。来るだけ時間の無駄だった。勇者は野放しとなり、マナのところへ向かったのかもしれない。クリスも勇者の仲間2人を相手にではうまく立ち回れるかもわからない。残りの仲間2人も、マナと接触しているかもしれない。アミも単独で生き残れる芽はないだろう。


 今も、こんなことをしている暇なんてないはずなのに。体が上手く動かない。いつだって自分が嫌になる。一人では何もできない。仲間に頼ってばかりなのに、何も返せない。いつだって、いつだってそうだ。



「リュカ、様」

「っ! リリー!」



 目を覚ましたところでどうにかなるものではない。治癒魔法をかけていても、もう何もなりはしない。ただの魔力の無駄遣いだ。


「こ、れ…………」


 リリーが渡してくれたのは、勇者の剣に嵌められていた宝石だった。ギルベアトのように勇者の力を削ぐために。自分の命など投げ出して、僕が勇者と対峙する際の力に少しでもなるようにと。



「どうして……そこまで」



 世界を終わらせるための協力者として、一番に作った魔物。世界が終わることも自分の存在が消えるためだけにあることを知りながら、何年も何年も、生まれてからすべての時間を僕に尽くしてくれた。


「……リュカ様」


 治癒魔法なんてやはり何の意味もなかった。消えていくその体に、もう何もすることはできない。



「ごめん……ごめん、本当に、ごめん……っ」



 弱音を吐いても受け止めてくれて。城のことを彼女がまわしてくれたからこそ、彼女がマナを導いてくれたからこそ、ここまでこれたのに。何も返せないまま、彼女は消えていく。



「っ…………」



 そんな自分の唇に、彼女は人差し指を優しく当てた。すべてを分かっているとでも言いたげな彼女は、その指を自分に当て最期まで微笑んで霧散した。



『リュカ様知っていました? 黒百合には可愛らしい花言葉もあるんですって。マナが教えてくれましたのよ』



 聞いても教えてくれないものだから、街に出た時に自分で調べたけれど。





『恋』






 シンプルなその花言葉が彼女の想いそのものだったことに、ようやく今気付いた。

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