第3話

――――夏の。



肌を焼き尽くすような日差しの下、半袖で溢れ返る最寄駅から雑居ビルがひしめく道脇を真っ直ぐ突き進み、二つ目の信号を越えた後角を右に曲がる。夏休みを迎え、小学校のプール帰りと見られる子どもたちが遊ぶ名も無いような小さな公園を通り越して緩い坂を上ると、こちらを窺うか、隠れるかのように見えてくる専門学校が在った。


この学校はいつもこうだ。


日によって、窺うか隠れるかしてくる。




何かの花をイメージしたらしい校章が見上げた所に目立つ昇降口に足を踏み入れ、涼しいと思う間もなく受付を通ってすぐ左手にある階段を上る。



デザイン系の専門学校らしく、壁には学生の、賞を受賞したらしい作品や、次期入学生向けに作られた学校の宣伝ポスターが貼られている。




それらを通り越して、三階、一番奥の教室。




ソフトを使った実習が行えるパソコンの並んだそこで、私――三島ハノは一人、夏休み前最後の講義の後、講師に相談を持ち掛けていた。




「う――ん」



向かいに座った、担任でもある女性講師が私の作品を見ながら首を捻る。




クーラーとパソコンが相俟って独特のにおいがする中、ふわりと香った花の香り。


それに気付きながらも引き結んだ唇は解かず、じっと見守る。




肩甲骨の下まで癖なく伸びた髪は、伸ばしたというより伸びきっていた。


今は一括りにしている。けど動く度いやに背中を擽る。




「三島、さ」


「はい」



未来を予想することもなく、現実としか向き合わない目は微睡んでばかりで、意味もなく疲れ切る。





「とりあえず夏休みの間、“此処”。研修行ってきてくれない?」





一通の封筒の下から取り出したメモ用紙に書いて渡された住所。






「……、え?」




質問は受け付けないから、と。







そう。



その微睡に終わりを告げる突然。




それが、用意された始まり。

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