第12話

「――――……」





人混みが行き交う駅の改札口で、騒音の中鼓膜に響く音楽に意識を埋もれさせて。




いつかの情景を、脳裏に呼び起こしていた。




でもそれは無意識の内のことで、自覚のないその嫌な気持ちが、心の中に渦巻く。



ずっと、そうだ。




それを繰り返して。







親友である長谷川 龍(Hasegawa Tatuki)を待っていた。





そのとき、ふと目の前に作られた影が足元を掬う。



意識から顔を上げると、小さく笑みを浮かべて小首を傾げた丸眼鏡の男が言った。




「――の、宇乃 瞬くんですか?」




「…はあ、」




その投げかけに目を見開いて、それから曖昧な返事を返す。


男は嫌に冷静だね、と返した。

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