第10話
それに私は頷いた。はい、と。
更にそれを確認したように、社長である樫月さんの目は丁寧に細められる。
一人の大人を寄ってたかって囲む大人にズカズカと近寄る細身の丸眼鏡――乙姫 庵(Otohime iori)は鼻にかかる眼鏡を上げ直した。
「また子どもみたいなことして」
「それはてめぇの童顔だろトイレ」
「トイレヤメロ」
ソファに身体を預けたまま口元を緩ませて凪ちゃんに言う環に、当然苛立ちを覚えている。
「姫、悪い。さくらんぼ食べてただけだから。それにあまりにも御門が可愛くて、つい」
「ルイ、姫も嫌です」
「ちょっと待て俺も可愛いとか嫌なんですが?」
「え、だって乙姫可愛いじゃん」
「そうだよトイレ」
「環だけは本当黙ってくれない?」
「わーー俺だけ無視ーー」
穴に埋めたくなるほど色濃い奴等を放って、手首を覗かせた樫月さんはそっと囁いた。
「どれくらい、変わるだろうね」
それが何だか変に鼓膜の奥に後を引いて、曇天の隙間から零れる光に肩を照らされた樫月さんを見て、首を傾げたのは私だけ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録(無料)
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます