第10話

それに私は頷いた。はい、と。



更にそれを確認したように、社長である樫月さんの目は丁寧に細められる。





一人の大人を寄ってたかって囲む大人にズカズカと近寄る細身の丸眼鏡――乙姫 庵(Otohime iori)は鼻にかかる眼鏡を上げ直した。



「また子どもみたいなことして」





「それはてめぇの童顔だろトイレ」


「トイレヤメロ」



ソファに身体を預けたまま口元を緩ませて凪ちゃんに言う環に、当然苛立ちを覚えている。




「姫、悪い。さくらんぼ食べてただけだから。それにあまりにも御門が可愛くて、つい」


「ルイ、姫も嫌です」



「ちょっと待て俺も可愛いとか嫌なんですが?」



「え、だって乙姫可愛いじゃん」


「そうだよトイレ」


「環だけは本当黙ってくれない?」



「わーー俺だけ無視ーー」







穴に埋めたくなるほど色濃い奴等を放って、手首を覗かせた樫月さんはそっと囁いた。





「どれくらい、変わるだろうね」





それが何だか変に鼓膜の奥に後を引いて、曇天の隙間から零れる光に肩を照らされた樫月さんを見て、首を傾げたのは私だけ。

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