王子様たちの飲み会

第88話

「ミズキくん、付き合って」





「……」


「……」


「……」



ここは、企画ぶのオフィスである。


午後の仕事に取り掛かって少しが経って、だいぶ落ち着いてきた頃を見計らったかのようにふらりと現れた応接班は相良 貴章(29)――。


声をかけたのは、企画ぶの高橋 瑞樹(元上司)だった。



午後一で丁度眠たい雰囲気の流れていたオフィス内が一気に目覚め、ざわつき、音が波打つ。



白昼堂々告白しにきた奴がいる…と。




「……え、俺?」


「うん。もう俺一人じゃ…」



「…妻子アリだけど…お前がいいなら…いいよ」

「ッキャーーーー!!!!」



おっ。なんの。キャー?


黄色い声援。(?)に次ぐ悲鳴。


だから。なんの。



私、同じく企画ぶの宇乃奴がちらりとその方に目をやってみると貴章は珍しく、本当に珍しくいつかの『憂いを帯び、美しく溜め息を吐く感じで悩ましげな視線』を高橋さんのデスク方面へ投げかけていた。



いつものツッコミはなく、高橋さんの冗談は冷たくなって消えた。




どうしたのだろう。



あべちゃん、のことで何か……。



高橋さんはブラインドタッチの手を止めて、椅子をギ、と鳴らした。



鳴らしたかと思えば眼鏡を外して何席か左を確認するように見て。…目が合う。



「灯ちゃん。余所の国の王子が困っているみたいだから"君の"世話焼き王子様、癒し要員として連れていこうと思う……ごめんね、〝迎え”は何時でもいいから」




ああ、これは決定事項。囁かれてしまった。



花吹さー…ん。

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