第85話

***





すごく、すごく、…すごいひとだと知った。



今の私には、きっとすごいって言葉でしか表せられないけれど。只管思った。


その思いは重なっていった。


自分と似通うところといったら人間ってところくらいなのではないかなって思うくらい相良さんは格好良くて、ずっときらきらしていて、けど笑っていると嬉しくて。

…年上のひとなのにきゅーんって、ぎゅーーんってなるときがあって、見ていると、皆さんといる時はよく笑っていてそのきゅーんがあるのだけれど、沢山話してもらっている内にそうじゃない、ドキッて、心臓が痛むような笑顔もあって。


つらくて。


あることを知ってしまったら、次に知るのは、怖々その笑顔に逢う回数を楽しみに思う自分。


一日、一回でも相良さんを見かけただけでその日が幸せになる自分。



遠くからでも見かけるだけで心臓がぎゅって。なる。


相良さんの周りだけ、世界はキラキラと輝いて、耳に届く声は聴き心地がよくて。


よくワイシャツを腕捲りしててはっとした。


手や手首が、ごつごつ。また、じぶんと違う。



お弁当を食べている時に話しかけてしまった時、もぐもぐしながら瞳と目が合う。


お昼過ぎは眠たそうにしていることもあって、そういう時丁度目が合うと、きれいな瞳がぼーっと、じーっとこっちを見たままで。また、心臓が痛い。どうして。



頬杖をついて。


おいで、って口が動いた日は。



うまくご飯が入らない。



よくやった―って頭の上に腕をついて、体重をかけてきて、悪戯に笑い声を立てる。



それから、…それから。



瞼を閉じて、そうっと開けたときのその仕草が




すき、だったのだと。



気が付いたと同時にこの想いをそっと、だいじにだいじにしまっておこうと決めた。そういう想いが、『すき』になる。













――くしゃくしゃな顔で泣いていた彼女を、心のどこかでかわいいと思ったことは否めない。けれどそれは確かに恋愛感情ではなかった。



恋愛感情ではなかった。


だって俺はその時まだ。













「…………緩、菜……?」




「ああ、緩菜って呼んだ」





平日の午後。




知らない男と……キスしていた彼女を見た。

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