第5話
嬉しそうだった兄は今も心の中に残っているけど、相良さんはそうじゃない。ただ、気付かれないようにありがとうございますって、大好きですって気持ちを伝えられたらいいなとおもっている。
手を伸ばせば触れられるところにいてくれている。
それは、当然ではない凄く有難いことだから。
28日が一週間ほど前に迫った或る日、会社には実家から通っている私のところに、今はもう家を出ているひとつ下の弟から連絡があった。
数ヶ月に渡って予約のとれない、お値段高めなレストランで働いている弟から回ってきたのは、『めちゃくちゃ急なんだけど、1/28夜二人分キャンセル出て。かんなちゃん来る?今日中に返信くれたら入れられるよ!』というなんとも有難い申し出。
こんな偶然二度とないと思った私は後先考える間もなく返信して、数秒後にいれた!と返ってきて、思わず液晶画面の前で一礼した――という次第である。
28日は火曜日。
予約してもらった一週間前でも、あまり早めの時から何故か火曜日指定でお誘いしてしまうと何だろうと思うかもしれないから、今日誘ってみようと考えた前の金曜日の、お昼休み。
誘うのは退社してからがいいかなとか考えながら、黙々と一人社員食堂の空いている席について蕎麦を啜っていたその時のことだった。
『――そうになる…』
「!」
その“彼”の声が背中合わせに聞こえてきて、思わず固まった。
真後ろで続く、恐らく宇乃さんと河合さんの声。相良さん含めて、私には気が付いてないようだった。
い、つからだろう…考え込んでて気付かなかった…!
「…というか貴章のどうでもいい意思よりお相手ですよ。どんな感じなんです」
「…ど」
声は途切れ途切れにわかるくらいだけど盗み聞きしているようで申し訳なくて、もそもそ立ち上がって移動しようと箸をお盆に置いたとき、私の名前と一緒にそれは聞いて、しまった。
「俺と阿部はかなり温度差あるよ」
「……」
「勘違い、っつうか懐かれて困るけど…どうしようもないし」
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