第7話

― 阿部緩菜Presents ―




目が覚めたら、目の前に相良さんの首筋が見えた。




硬直する身体の中で、視線だけをきょろきょろと動かす。


激しい音を立て始める心臓。



音は、私がニットを着たまま眠ってしまって、どういう訳か相良さんを隣に朝を迎えたという事実を知って大きくなる。


次に、相良さんがあんまり大事そうにぎゅっとしてくれていたから締め付けられる。



僅かに触れた腕がつめたい。



そうだ。


相良さんのパジャマなのに。ばか……!



起こさぬようニットを脱いで、そっと相良さんに被せる。



彼は唸って、手探りでそれを着た。

ある意味凄い。



ぐちゃっとなっているとはいえども、そのあとのんびりと目を開けた相良さんと目が合う。



「お、かえり、なさい…」



言うと彼は目を細めて微笑む。




「んー…。…あれ、俺ニット着てるし…」


「…」



「……あべ、も」



寝惚けているのかぽつりぽつりと呟いて、相良さんがニットの裾を捲った。


え、と驚く私に「さむいから早く」と急かす。



恐々と寄り添うと、捲り上げられたニットはすっぽりと私にも被せられた。


凄い、二人でも着れるのかと彼が笑う。



ち、ちかい。




「…あべ、あったけー…」



「!」




すり、と髪に頬擦りして。


そのまま唇を寄せるから。




私はとてもとても愛おしくなってしまって、目の前に見えた相良さんの鎖骨に口づけし返した。




びく、と動く肩。



火照った頬と額のまま見上げると、首から耳まで真っ赤になって目が覚めた様子の相良さんが、私から目を逸らしていた。





「……必死で落とした相手にそういうことされると」



「…へ」





「何つーか…もうこのニット着れない気がする……」










Fin.

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