第18話 強がり
クリナムに仕事を交替してから、スミレは、パウダールームに向かっていた。
シオンが話があると言うから。
何の事だろうとずーっと気になっていた。
クリナムの事だろうか……。
考えていても仕方がない、聞いてみないと。
スミレは、浮かない心を抑えて、パウダールームのドアを開けた。
シオンは、鏡を背に洗面台に寄りかかっていた。
スミレは、静かにゆっくりとドアを閉め、ドアを背に振り返った。
「話ってなんですか」
「何て言うのかな……お願いがあるの」
「お願い?」
シオンは言いにくそうにしていた。
「私、恋してみたいと思っていたの……おかしい?」
「えっ」スミレは、声を失いシオンを見つめた。
シオンもスミレを見つめていた。
「恋をしてみたいの……私」
もう一度、シオンが言った。
「私、クリナムが好きよ」
「……」スミレは、何と答えていいかわからなかった。
ん?
スミレは、シオンの変化に気づいた。
シオンの表情が、出会った時より、幼く若くなった気がした。
何となく自分に似ている気もしていた。
「灯台を好む人って、似ているのかしら。
クリナムとイーグレットは似ているの。もちろん、全てじゃないわよ。
全て同じじゃないから、興味があるの……何処が違うのかなって……」
そこには、悪戯っぽく笑うシオンが居た。
スミレは考えた。
改めて自分の立ち位置を自問していた。
ボクは、クリナムの恋人ではない、配偶者でもない。
兄妹でもなく、母親かわりでもない。
クリナムの意志を尊重しなければならない。
今までと同じように。
クリナムがシオンと付き合いたいというのなら、止めることはできない。
あっ、前にもこんなことあった。
クリナムが、人間の女の人を好きになって結婚した時だ。
でも、結局、二人の関係は終わった。
今回もそうなるだろうか。
頭の中が、モヤモヤとしたすっきりしない。
「大丈夫よ、心配しなくても」
その時、スミレの頭の中がわかっているのと言うようにシオンが微笑んだ。
”何が大丈夫なの?”
スミレは、シオンを睨んでしまった。
睨んでしまったという行為にスミレ自信が気づいた。
ボクは、嫉妬している。
シオンが話を続ける。
「大丈夫、あなたはクリナムをずーっと支えてきたから、あなたしかいないって気づくわ。きっと」
”きっと?”
きっとじゃだめなの。ボクの元に帰ってくれないと……。
「私には、無理。
あなたを知っているのは彼で、彼を知っているのは、あなたなんだから。
それやぁ、少しくらい私を好きになってくれなくては困るけど……お願い」
シオンは人間の女の子の様に両手の掌を合わせ、お願いしてきた。
「イーグレットの事は、好きよ。
今、わからなくなっているの。
同じAIだからわかるでしょ。
イーグレットには、尽くしてきたわ。
生まれた時からずーっと。
でも、それが”愛”だとしても、”恋”なのかわからないの。
全てをしらないクリナムを想う心が”恋”じゃないのかって……
私の残り少ない時間で感じてみたかった」
スミレは、シオンが言っていた事を思い出した。
マスターを亡くしたAIは、三年間の時間を与えられ、自由を与えられる。
アンドロイドの様な物理的な形態は、リサイクルされる。
シオンは「旅行をしようと思っている」とも言っていた。
スミレは、迷っていた。
シオンの言っている事は、わかるような気がした。
自分の尽くしてきたマスターを失ってしまったからだと。
スミレが経験したことがない事。
その時、もう一人のスミレの声が聞こえた。
”何を悩んでいるの?
あなたは、マスターをサポートするモノなのよ。
忘れたの?”
スミレは、顔を上げた。
「いいよ……ボクには、どうのこうのって言う権利はないから」
それは、スミレの強がりだった。
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