第15話 手の届かない世界

 スミレは、クリナムに仕事を引き継ぐとシオンを探していた。

 AI同士の話が出来ると楽しみにしていたからだ。


 甲板の様なバルコニーにシオンを見つけた。

 シオンは、いつもの様に手摺りに寄りかかりながら、遠くを見つめていた。

 思わず美しいシオンの横顔に見とれてしまう。


 何を見ているの……シオン。


「どうしたの……スミレ」

 シオンに気付かれてしまった。

「邪魔ですか?」

「大丈夫よ……」

 シオンは、スミレに笑顔を投げかけた。

 スミレは、シオンの横に向かった。


「何を見ているのですか?」とスミレ。

「……ん、何だろ……わからないわ」と微笑む。


「なぁに?……悩み事」

 スミレは、ゆっくりと頷いた。


「シオンが言っていた”私たちの手の届かない世界”って言うのが気になって……」

「あっ、それね」

 シオンは、また遠くを見つめる。


「”手の届かない世界”っていうのは、彼らは生物っていう事。

 そして、私たちは無生物。

 彼らは、半年で身体の細胞が入れ替わる。

 分子レベルでだけど。

 生物は、自己複製を行う。

 常に揺れているの。


 そして、自分たちの複製を造ろうとする。

 

 人間の受精から出産までを見たことがある?

 人類の進化を再体験しているの。

 なぜ、そんなことをする必要があるのか?

 それには、何か訳があるのよ。

 きっと、細胞が求めるのよ。


 男は、数ミリリットルの体液を女の身体にいれる為、

 女は、人の元となる細胞にコントロールされるかのようにそれを求める。

 快感の為だけの器官まで、備わっている。

 そして、気持ちまで、お互いに揺らし続ける。


 その揺れる行為での感覚や快感は……

 無生物である私たちにはわからないわ。


 それが、愛だというなら……

 私たちは、手に入れることができない」


 スミレは、シオンの言葉を記憶メモリーに刻み込んだ。


 

 手に入れることができない。



 何て悲しい言葉なのだろう。

 スミレは、歪んだで頭を垂れた。


「本当に私たちの手が届かないの……

 人間は、私たちを愛してくれると思う……」

 スミレの聞き取れるかわからない声で呟くように訊いた。


「私は……信じたいかな」

 シオンは、スミレの顎を優しく上にあげ、微笑んでいた。

 そして、イーグレットと朝まで月を眺めながめていた時の話をしてくれた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る