第6話 反対側のホーム
真琴たちは、古い地下鉄の駅の様な構内に居た。
「こっちじゃない、出口って?」
響介が、壁に書かれた矢印を見つけていた。
地下鉄構内の風景は、一点透視の絵の様に永遠に続いているのだろうか。
等間隔に照らされたオレンジ色の薄暗い灯り。
奥の方は、ぼんやりとしてはっきりしない。
「ねぇ、ちょっと……、あれ」
絢音が反対側のホームを指さした。
真琴と響介はその方向に目を向けた。
反対側のホームに人影が見える。
その人は、電車の到着を待ちかねるように、構内の奥を覗いている。
落ち着きが無く、キョロキョロと周りを見渡している。
誰かに追われている?
真琴たちは、その人から目が離せない。
「何?……あれ」
真琴が目を細めて指差した。
自分の目が捉えているものが、間違いないかと絢音と響介に確認する。
真琴たちは、その何かを凝視した。
人の後方の壁が、ムクムクと盛り上がっていた。
目を凝らして見る。
壁から出てきたのは、大きな手だった。
神話にあるゴーレムの手の様だった。
これは、良いものでない。
直感が真琴たちに働く。
その手は、獲物を狙う蛇の様にゆっくりとその人に背後から近づいていた。
その人は、全く気付いていない。
その人後ろで今にも捕まえようと掌を広げていた。
猛禽類が獲物を捕獲する様に。
「後ろだ!逃げろ!」真琴が、我慢できずに叫ぶ。
「う・し・ろ!う・し・ろ!」
真琴たちが叫ぶ。
その人は、振り向き大きな手をかわして転んだ。
その時、反対側のホーム電車が入ってきて、視界を塞がれた。
で……電車ぁ。
あまりにも急なことで真琴たちは、声を上げることすらできない。
電車が来るのか!
真琴たちが、待ちかねていた電車が反対のホームとはいえ、目の前にあるのだ。
この事実を頭に納得させるのに時間がかかっている。
この電車に乗れれば、元の世界に戻れる。
そうだ……その通りだ。
帰れるんだ。
「おおい、待って、乗ります。待ってぇ!」
大きな声を上げたのは、響介だった。
三人の中で一番反応が速い。
真琴と絢音も大きな声と両手をグルグルと力いっぱい回した。
だが、電車は何事もなかったかのように走りだした。
そして、闇の中に消えていった。
電車が走り去った後のホーム。
そこには、何も残されていなかった。
人の姿も、大きな手も。
今起こったことが本当か真琴たちは顔を見合わせていた。
「電車が来たよね」響介が二人に確認する。
「反対側に行けるんじゃないか」
言い終わらない内に響介がホームに飛び込んだ。
「き、響介、やめろ!」
真琴の声は間に合わない。
絢音は、両手で目を塞いだ。
響介が、着地した所は元のホームだった。
「えっ」
真琴たちと驚き、理解できない。
「何で、ここに?……もう一度やってみる」
響介は、見てろよと真琴の顔を見て、助走をつけ、ジャンプした。
やはり、響介が着地したのは、真琴たちが居るのホームだった。
何度やっても同じだった。
響介は、訳が分からないやと床に座り込んだ。
「行こう」
絢音は、ホームに座り込む響介に手を差し伸べた。
響介は、絢音を見上げ絢音の手を借り立ち上がった。
真琴たちは、出口の印を探して先に進んだ。
「おい、あそこ!」
真っすぐ続く壁に切れ目に気付いた真琴が声を上げた。
見れ目の壁に光が当たって、凹んでいることがわかる。
真琴は、もう走り出していた。
「気を付けて!」という絢音の声を背中に受けながら先頭を走る真琴。
真琴は、切れ目に到着、すると、様子を伺う。
直ぐに二人に「来い」と手を振って切れ目に姿を消した。
「ちょっと、待ってよ!」絢音が振り回さないでと声を上げる。
響介が走り始める。絢音から離れないように。
絢音は、遅れないように懸命に走るが大変だった。なんせ、歩幅が違う。
大変なのに、苦しいのに、飛ぶように走る響介を追いかけるとなぜかうれしくて笑っていた。
二人は、切れ目に到着して上を見上げるた。
そこは、階段だった。
上から光が漏れている。
出口だ。
二人、真琴を追って駆け上がった。
すでに、扉が開いていて、真琴の後ろ姿が見える。
絢音と響介は、その扉を開けた。
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