双子アイドルは◯◯だった

@annkokura

第1話 双子アイドルの妹の秘密

 俺、藤城暁斗(ふじしろあきと)は、学校に登校すると、いつものように自席でスマホゲームをしていた。

「よしっ! 回すぞっ!」

 俺は今日一日の運勢を占うように十連ガチャを回す。

「頼むっ! 当たってくれっ!」

 祈りながら演出を見守る。一つ目の演出にチャンスアップなし。二つ目の演出もチャンスアップなし。この瞬間、俺の推しキャラが当たらないことが確定した……。無念だ……。しかも結果は、今日の運勢が大凶だと言わんばかりに、爆死……。

「くっそぉ!」

 俺は天井を見上げながら、叫んだ。そのせいで、すでに登校しているクラスメイトから、『何叫んでんだ? あいつ』、『怖いんだけど』、『気がおかしくなった……?』などの、不審者を見るような目で見られる。しかし、次には友達との談笑に戻っていた。

 俺はあまりの結果に机に突っ伏してしまう。

 せめて、恒常の最高レアリティのキャラくらいくれよ……。貯金叩いて課金までして回したのに……。

 ちなみに、俺は課金中毒などではない。俺が課金する条件はただ一つ。推しキャラの時のみだ。ただ、それが期間限定でものちに恒常で出るとしても関係ない。ただ推しキャラの全衣装をコレクションしたいだけなのだ。ゲームで推しキャラがいる人にはわかるだろう? この気持ち。俺は、低レアリティから最高レアリティ、さらには、覚醒前、覚醒後それぞれ一体ずつ、さらに言うなら完凸していてこそ、推しキャラに対する愛情だと思っている。つまり、これは課金などではない。これは、推しキャラへの投資なのだ。

「は〜あ……、またバイト探すか……」

 俺は課金するための金を得るべく、バイトサイトから日雇いバイトを探す。

 どれにしよっかなぁ……。

 下に下にスクロールしていくと、一つ良さそうなバイトがあった。

「これ、よさそうだな」

 タップしてバイトの詳細を確認する。内容は、ただ一時間、自分を叱ってほしいとのこと。

「なんだそれ?」

 給料は五千円。かなり高額だ。

「闇か?」

 一瞬、闇バイトが頭をよぎるが、俺が見ているサイトはちゃんとした会社が経営しているサイトだ。つまり、その可能性はなくなる。それに、ジャンルを見ると、流行りのお叱り代行業者になっていた。多分、これだけのいい条件でありながら、残っている理由。それは、怖い、ということだと思う。何が怖いかって? それは、内容の自分を叱ってほしいという部分にあるのだと思う。俺の勝手な予想だけど、お叱り代行業者に頼む人は基本、怒れない人や他人を叱ってほしいと頼む人しかいないはず。だから、この自分という単語があることによって、依頼者は変わった人というイメージがついてしまう。『変わった人』というイメージは、誰だって怖いはずだ。それも年齢も性別も、職業だってわからないとなれば尚更。

 どうしよっかなぁ……。

 正直、あまり引き受けたくない。だが、推しキャラのためにはお金が必要だ。

 もう少し考えてからにするかぁ……。

「最悪な一日の幕開けだし、不貞寝でもするか……」

 そこで俺はようやく、クラス中が騒がしくなっているのに気づいた。

「またか……」

 これもまた見慣れた日常だった。

 この喧騒を起こしている元凶。それは、高校生でありながらアイドルをしており、国内の主に若い男女から支持を得ている二人の女の子だった。

 鹿瀬結月(かせゆづき)と美月(みづき)だ。

 鹿瀬結月。美月とは双子で姉だ。肩口で切り揃えられた黒髪に、キツイ印象を与えるツリ目。スカートから覗く長くて白い脚。瑞々しい肌。高校二年生の女子にしては高い身長。体型もアイドルをやっているからか、抜群のプロモーションだ。ただ一つ残念なのは、妹の美月に比べて膨らみのない胸部だ。容姿からの印象で言えば、クールで優等生のようなイメージだ。対して美月は、落ち着いた雰囲気、可愛さを醸し出すタレ目で、髪も背中まで伸ばしている。そして、先ほど言ったように、胸部は女子高生にしては珍しい膨らみ具合である。もちろん、抜群のプロモーションだ。肌も髪も見るだけでケアされているのが伝わってくる。容姿からの印象は、落ち着いた雰囲気の女性と言った感じだ。結月が美人系なら、美月は可愛い系だ。

「明後日、テレビで生ライブするんだよね⁉︎ 絶対見るね!」

「ありがと」

 俺以外のクラスメイトたちに対応する二人。続々と二人を見ようと、他学年の生徒までやってくる。別に二人がアイドルをやり出したのは、今に始まったことではないし、人気が出だしたのもここ最近の話ではない。ただやっぱり、職業柄、登校する頻度が減っているため、こうしてたまに登校してくると、この有様になる。

 ここまで語っている俺だが、二人に興味はない。そもそも、アイドルというもの自体興味がない。なので、俺は静かに目を閉じるのだった。


 私、鹿瀬美月は、双子の姉、結月とアイドルをやっている。今はそこそこ有名になり、テレビにも出演させていただいている。学校でも登校すれば、人だかりができてしまうほどの人気っぷり。だけど、一人だけ。私たちに興味がない人がいる。その人は今、私の隣で授業を受けている藤城暁斗という男の子だ。私が見ている限りだと、授業中にスマホゲーム? だと思うのだけれど、それをしては先生にバレないよう一喜一憂していたりする。ゲームをしていない時は、窓の外を眺めているだけ。真面目に受けている授業は国語だけ。多分、物語が好きなんだと思う。休み時間に何度か読書をしているのを見かけたことがある。そんな彼だが、今日は何かに悩んでいる様子だった。

「う〜ん……、どうしよっかなぁ……」

 隣の私と前の席の子にしか聞こえない程度でそう呟くと、眉を寄せ真剣に悩んでいる様子だった。

 何に悩んでいるんだろう?

 ふと、気になった。

 私たちは、自分で言うのもなんだけど特別視されている。だけど、彼だけは特別視するどころか、興味すら示してこない。その点から私は彼に興味を持ち始めた。だけど、接点がないため話したことは一度もない。

 何かきっかけないかなぁ……。

 そう思ったときだった。

「近くの友達と話し合いをしてみろ。席移動は無しだ」

 まさに、絶好のタイミング。私は、藤城くんに話しかけた。

「ねえ、藤城くん。何、悩んでるの?」

 肩を突きながら、私は先生に聞こえない声量で尋ねてみた。すると、思いがけない人に話しかけられ、藤城くんは驚いた様子を見せる。

「びっ、くりしたぁ……」

「ごめんね? 驚かせるつもりは全くなかったんだけど」

「いや、大丈夫。考えごとしてた上に、まさか話しかけられるとは思ってなかったから」

 よし、会話のきっかけができた。

「何に悩んでたの? 授業中、ずっと唸ってたけど」

「もしかして声に出てた?」

「うん」

「悪い、集中できなかったよな」

「大丈夫だよ。それで、何に悩んでたの?」

 私はもう一度同じ質問をする。

「あ〜……、えっと……、ちょっと趣味でお金が必要だから日雇いバイトを探そうと思ってさ。一応、授業始まる前に良さそうなのは見つけたんだけど……。それを引き受けるか悩んでて……」

「そうなんだ」

 こんなことを言ったら失礼だけど、あまり、藤城くんがバイトをしているイメージがつかない。普段の授業中の態度を見てるからかな? でも、趣味のためとはいえ、自分で稼ごうとするのはすごいことだと思う。

「どうして引き受けるか悩んでるの?」

「依頼内容が怪しいというか、怖いというか」

「どういうこと?」

「内容が、一時間、自分を叱ってほしい、なんだよ……」

 その一文に私は心当たりがあった。

 もしかして、私の依頼じゃ……? 

 私は藤城くんに金額を確認してみる。

「一時間でいくらなの?」

「五千円」

 めちゃくちゃ心当たりがある。

 藤城くんなら、ちょうどいいかもしれない。人に言いふらすようなタイプの人には見えないし。彼になら私の秘密をバラしてもいいかもしれない。

「ねえ、藤城くん。よかったらさ、私が藤城くんに依頼しようか?」

「えっ、いいのか?」

「うん。趣味のためとはいえ、自分でお金を稼ごうとしてるのは尊敬できるし、応援したいから」

「ありがとう! でも、アイドルやってる鹿瀬さんにそう言われても素直に受け取れないけどな。鹿瀬さんの方がすごいし。本人の目の前で言うのもなんだけど、俺、アイドル興味ないんだ。でも、素直に同級生として、すでに社会で認められてるのはすごいと思う。ファンではないけど、応援してるよ」

 感謝することができ、謙虚さもある。そして、馬鹿正直。少し話ししただけだけど、面白い人だと思った。

「ありがと。でも、応援するなら、ファンになってほしいなぁ」

 私がわざとすねた口調で言ってみると、彼は苦笑しつつ「ごめん」と言った。

「じゃあ、バイトの件、今日の放課後でもいい?」

「俺は大丈夫だけど。鹿瀬さんは大丈夫なのか?」

「うん。じゃあ、今日ね」

「わかった」

 そうして、藤城くんとの初めての会話は終了した。

 放課後が楽しみ。


 放課後。俺は変装した鹿瀬さんと一緒に鹿瀬さん宅に向かっていた。それにしても、まさか鹿瀬さんから話しかけられるとは……。思いもしなかったなぁ……。しかも、バイトまで用意してくれるし……。

 それに、女の子と行事や委員会以外で話したのなんて、中学二年生ぶりだ。やっぱり思春期になると、異性と業務以外の話をすることはかなり減る。特に俺みたいな陰キャともなると余計に。

 久しぶりに話した異性が、まさかの現役女子高生アイドルとは……。何が起こるかわからないな、人生っていうのは。ちなみに、姉の結月の方は仕事のようだ。

「着いたよ」

 学校から電車と徒歩で一時間ほど。着いたのは、閑静な住宅街にある、ごく普通の二階建ての一軒家だった。

 正直な感想。思ったより普通。

 俺はてっきり、豪邸とはいかなくても、そこそこ大きい家に住んでると思ってた。もしかして、俺の勝手な人気アイドルに対する偏見だったのかもしれない。

 鹿瀬さんは玄関の扉を開け、どうぞ、と促してくる。

「お、お邪魔します……」

 俺は同級生の女子の家に緊張しつつ、鹿瀬さん宅に足を踏み入れる。

 最低限のマナーは守らないとな……。

 俺は脱いだ靴を丁寧に揃える。

「バイトの件だけど、私の部屋で話そっか」

「は、はい……」

 本当は、はいぃぃぃぃっ⁉︎ と言いたかった。普通、今日初めて話したクラスメイトを自分の部屋に入れることなんてあるか? ないだろ。鹿瀬さん、警戒心大丈夫か……? 

「ここだよ」

「お、お邪魔します……」

 軽く会釈をしながら、人生初の女の子の部屋に入る。部屋には勉強机、大勢のぬいぐるみたち、見るからに清潔そうな真っ白いベッド。本棚や収納棚、丸いテーブルとクッションが置かれていた。

「そこ、座って」

 促されて俺はテーブルの近くに腰を下ろす。

 やばい……、緊張でドキドキしてる……。

 もし、恋愛感情を持っている相手の部屋なら、もっと緊張してるだろう。

 緊張を意識しないためにも、バイトの件について訊こう。

「それで、俺は何をすればいいんだ?」

「一時間、私を叱ってほしいの」

 うん?

 俺は思わず、頭だけ前のめりになった。

 今の鹿瀬さんの言葉に、俺はめちゃくちゃ見覚えがあった。

 もしかして、

「俺が悩んでたバイトの依頼者って……」

「多分、私だね。ちなみに、ビューティフルムーンってユーザー名じゃなかった?」

「確か、そんな名前だったような……。……あっ!」

 本人に名乗られて気づいた。

 ビューティフルムーンって、美月そのままじゃないか……。なんて、安直な名前の付け方なんだ……。まあ、それはいいとして。問題は、

「なんで自分を叱ってほしいんだ?」

「私、ドMなの」

 恥じることも、隠すこともなく堂々と言い放つ鹿瀬さん。その姿に少しかっこいいと思った。ただ、それを無くしてしまうほどの衝撃的な情報だった。

 現役女子高生アイドルの鹿瀬さんがドM……? そんなの世間が知ったら、テレビで取り上げられるニュースのほとんどがこのことになってしまうんじゃないか……? 少なくとも一週間の間はそうなる。でも、なんでそんな情報を俺に……? もしかしたら、お金のために、マスコミに情報を売るかもしれないじゃないか。

「どうして、俺なんかにその秘密を打ち明けたんだ?」

 ニュースが報じられていないということは、世間はまだこの情報を知らないということだ。

「だって藤城くん、私たちに興味なさそうだし。それに、言いふらすようなこともしないだろうから」

 その信用どっから出てくるんだ? 興味がないのは事実だが、言いふらす可能性がゼロっていうのはわからないだろ。

「その信用、どこから出てくるんだ?」

「うん? 藤城くんを見てなんとなく」

「なんとなくって……」

「私ね、アイドルをやっているから、多くの人と出会うんだ」

 そりゃそうだろうな。職業柄、芸能人やニュースキャスター、演出家、他諸々。きっと、普通に暮らしている人以上に多くの他人と交流していているはずだ。

「だから、人を見る目はあると思ってる。藤城くんは、言いふらしたりなんかしないってそうわかるんだ」

 多くの人と関わってきたことにより、人を見る目の良さを培ってきたのだろう。この人とはあまり関わらないほうがいい。この人とは関わりを持ち続けたほうがいいという風に。

「それに、クラスメイトやSNSでバラしたらどうなるかわからない人でもなさそうだし。だから、家にも呼んだわけだし」

 言いふらすことにリスクはあっても、リターンは何もない。そんなことをしても、いいことなんて一つもない。それに、そのことを俺は誰よりも一番理解している。

「というわけで、早速、叱って」

 そう言って、鹿瀬はお尻をフリフリしだした。いや、叩けるかっ!

いくら興味のない俺とはいえ、女の子の尻を叩けるか! そんな趣味もないし! 

「そもそも、何に対してだよ……?」

 俺は呆れまじりのため息を吐きながらジト目で鹿瀬を見る。

「今日、ノーパンで登校してバレるかバレないかにドキドキ興奮していたこと、とか……?」

 また、とんでもない情報が出てきやがった! 

 俺の視線が自然と、目の前で左右に動く、スカートで隠れた立派なヒップに向く。

そんなこと言われたら、意識してしまうじゃないか……。

 ノーパン……、ノーパン……、ノーパン……。

 俺の頭の中でノーパンがループされる。

「ほら、早く。お金欲しいんでしょ?」

 そう言って、四つん這いでこちらを見ながら、お尻をフリフリさせ続ける鹿瀬。

「これ以上、フリフリするな!」

「あぁんっ! さいっこぉぉぉっ!」

 えっろ!

 ちなみに俺、叩いたりとか何もしてません……。言葉だけです……。

 言葉だけで、こんなに悦べるのかよ。というか、俺の中で変なものが覚醒しそうだ。なんかこう、目の前のヒップを叩きたいという欲求やもっと悦ばせたいという欲求。もっと、今のような艶っぽい声を聞きたい欲求などなど。そういう欲求が生まれ用としていた。

「ねぇ、もっと……。もっと、ちょうだい……?」

 はい、覚醒しました。

「何、怒られて悦んでるんだよ! この変態アイドル!」

 パチンッ!

「あぁっ……! きもち、いい……! さっきよりも、こうふんしちゃう……! もっと……、もっとたたいてぇ……!」

 赤く染まった頬と息切れ、潤んだ瞳とトロンとした目が、俺をさらなる高みへと昇らせる。そんな、怒号を飛ばしながらアイドルの尻を叩くというとんでもないことをすること一時間。一時間経ったことを知らせるアラームが鳴り響いた。

「はぁ……、はぁ……、はぁ……」

「あっ……、はぁ……、はぁ……、っん、はぁ……」

 まるで、そういうことをし終わったあとのような息切れと体勢。ここに第三者が入ってきたら、完璧勘違いをされてしまう。部屋中にアラームが鳴り響き続けるが、俺も鹿瀬もクタクタで動けない。

 やってしまった……。女子のお尻を叩いてしまった……。

 興奮しながら女の子の尻を叩いていたという最低な記憶に後悔が襲ってくる。

 あぁ、さっきまで無我夢中になって女の子の尻を叩いていた自分を記憶から消し去りたい……。というか、死にたい……。

「ごめん、鹿瀬さん……」

 申し訳なくなり、俺は鹿瀬さんに謝る。

「ううん、気にしないで……。むしろ、さいこうだったよ……」

「そう、か……」

 正直、バイトをしたという感覚が一歳ない。先ほどまでのアレをなんと言えばいいのかさっぱりわからない。

「……そうだ……、バイト代、用意するね……」

 そう言って、鹿瀬は体を起こし、自分の財布から札を取り出す。

「はい、バイト代」

 そう言って差し出された金額は、な、な、なんと、一、万、円、だった。

「えっ⁉︎」

 一万円いただけるのはありがたいけど、そんなにもらえるような仕事内容じゃなかった。ただ、女の子の尻を怒号しながら一時間叩いただけ。それで、この金額をもらうのは申し訳ない。

 俺はもらった一万円を鹿瀬さんに返す。

「流石にさっきの内容で一万円をもらうわけにはいかない。だから、返すよ」

「ううん、藤城くんは一万円以上の仕事をしてくれたよ?」

「いや、そんなわけ……」

「ううん、本当に」

 首を横に振って、鹿瀬さんは一万円を俺の手に握らせてくる。

「私はさっきので、明後日のライブに対する緊張感が解けたんだ」

「もしかして……」

「うん……、恥ずかしながら、いつも、ああやって快感を覚えて緊張を無くしてるんだ……。いつもは、結月にお願いするんだけど、今日は結月が、明日は私が一人で仕事だから、緊張を解く時間がなくって……」

 なるほどな。別にただのドMというわけではなかったのか……。緊張をほぐすための鹿瀬さんなりのやり方。まあ、少し別の意味で危ないものだけど。

「まあ、はしたないとは思うけど……」

「いや、別にいいんじゃないか?」

「えっ……?」

「いや、正直、俺も理由を訊くまでは、卑猥だなとは思ったよ。でも、緊張のほぐし方なんて人それぞれだし。それで鹿瀬さんが、緊張なくなったなら良かったよ。あまり、勧められた方法じゃないのは確かだけど……」

 多分、アイドルをしていたら、緊張する場面やストレスが溜まることだって多いはずだ。それだけじゃない。プレッシャーや期待も多いはず。それをどこかで発散しないと、多分、耐えていけないだろう。他のアイドルや俳優、歌手もきっと方法は違えど、ストレス発散や緊張をほぐしているだろうし。ただ、鹿瀬さんの方法が、叱ってほしいというものだっただけで、目的は他の人と変わらない。

「ありがと、藤城くん……」

 そう言って、満面の笑みを浮かべる姿はとても可愛かった。思わず、ドキッとしてしまうほどには。

「でも、どうして俺だったんだ?」

「さっきも言ったでしょ? 私たちに興味がなさそうだから。あと、ずっと隣で見ていて害のない人だと思ったから」

 なんか、信頼されていて嬉しいな……。

「だから、受け取って」

「そういうことなら、ありがたく受け取るよ。ありがと」

「こちらこそ」

 現役女子高生アイドルの役に立てたのなら良かった。最初はとんでもない仕事だと思ったけど、結果的にはそう思えた。まあ、女の子の尻を叩いたことに申し訳なさと後悔は残るのだが。

「じゃあ、俺、帰るわ」

「うん」

 俺は鹿瀬さんの部屋を出て、玄関まで行き靴を履く。

「お邪魔しました」

「待って!」

 扉を開けようとしたとき、鹿瀬さんが俺を呼び止めた。俺は振り向き、鹿瀬さんを見る。

「どうかした?」

「よかったら、友達になろうよ」

 そう言って、スマホを取り出し連絡先を見せてくる。女の子の連絡先、だと……⁉︎

「いいのか?」

「うん! ほら、私たちアイドルだから、なんか雲の上の人みたいな感じで、話しかけてくれる子はみんな、どこか距離を取った話し方なんだけど、やっぱり、興味ないからなのかな? 藤城くんは対等に話してくれてる気がして……。それが、嬉しかったんだ」

 そういえば、確かに意識したことはないな……。でも、興味がないからだと思うけど……。

「じゃあ……」

 俺もスマホを取り出し、連絡先を交換する。まさか、初の異性の連絡先が鹿瀬さんだとは思わなかったけど……。

 俺の連絡帳に鹿瀬さんの連絡先が入った。

「ありがと!」

「こちらこそ、ありがと。お邪魔しました」

「また、明日ね!」

 鹿瀬さんは手を振りながら家の中から俺を見送ってくれた。

 そうして俺は、初の異性の友達と初の変わった経験、そして、一万円という大きなお金をもらい帰宅したのだった。



少しアイディアが思い浮かんだので書きました

短編3話として考えています

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