第5話
「せっかく着飾っても、訪れる場所が霊園では華がないな」
「霊園に対して、華がないとか言わないでください……」
そんな難しい名前で呼ばれている蝶が飛び交う、
「
「
月明かりのような儚さを持つ
「悠真くんとは同じ狩り人仲間なんですけど、まあ身分と言いますか、立場と言いますか……悠真さの方が偉いって感じです」
日本では見慣れない金の髪が風に揺れ、彼の顔立ちを一層引き立てた。
「主人の紹介より先に名乗る奴があるか」
「普段、主従関係というものを意識していないもので」
私の歩き方が本当に不安定だったことに気づいたのか、それとも将来の妻となる私に対して優しいだけなのか。
「これから、長い付き合いになるといいんですけどね」
人との距離を縮めるのが上手い方らしく、
「人の嫁を口説くな」
「そういう意味合いじゃないってこと、わかってますよね?」
悠真様は、私が歩く速度に合わせてくれた。
手を繋いでくれた。
私だけが置いていかれることのないように、悠真様は私のことを常に気遣ってくださる。
「歩きながら、狩り人に関して説明させてもらいますね」
でも、
「
そこに痛みなんてものはなかったけれど、深く繋がる右手に心が不気味に揺れるのを感じた。
「なんとなく察しがつくと思いますけど……」
濃い紫と、淡い紫の花が対照的に並置されている場所へと辿り着いた。
淡い紫は
「
悠真様の口から告げられた言葉は残酷な現実を知らせるもののはずなのに、紫の美しさに包まれた私は悠真様のことも字見さんのことも残酷と思うことはできなかった。
「それが、悠真くんと俺に与えられた使命になります」
人々の記憶を奪う
けれど、
そのことを、私はしっかりと胸に刻まなければいけないと思った。
「
国の偉い方が亡くなったのではないかと思ってしまうほど大きな墓石を前に、悠真様は純白の花を供えた。
「今は……蝶を利用した方が生きやすい」
濃い紫と淡い紫の中に、歪な白が混ざる。
でも、その光景にすら私は心を奪われた。
悠真様が私のためを想って行動してくださるすべてを、どう思考を切り替えたところで不快になんて思うことができない。
「私のために、蝶の墓を建ててくださったのですね」
「そんなに立派な話ではないさ」
悠真様の隣に並んで、お墓の中に眠る蝶を弔う。
「蝶を狩る方が、お墓参りをするのは……とても勇気が要ることだと思います」
私のために用意された墓が、どういう意味を持つか。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。